- 著者
-
渡邉 守
- 出版者
- 三重大学
- 雑誌
- 一般研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1989
野外で活動中の蝶類の糖濃度選好性を調べるため、三重県津市周辺と長野県白馬地区でナミアゲハとキアゲハ、モンシロチョウ、スジグロシロチョウ、モンキチョウを捕獲した。捕獲個体は、直ちに、あらかじめ成分・濃度を数段階に設定しておいた糖溶液を3分間与え、その間の吸飲量を測定した。アゲハ類では20%糖溶液が最も好まれ、蒸留水は少ししか吸飲されなかった。日令の進んだ成虫ほど吸飲量は多く、雌の方が雄よりも多く吸飲した。一方、シロチョウ類でも20%糖溶液が最も好まれていた。モンシロチョウは糖濃度の違いの感受性が低く、スジグロシロチョウが高かった。また、モンキチョウは蒸留水をかなり吸飲することが分った。しかしシロチョウ類では、日令の違いによる吸飲量の差は得られなかった。これらの結果をそれぞれの種の生息地選択の観点から考察した。室内ではナミアゲハの雌を羽化させ、濃度を数段階に設定した糖溶液をそれぞれ1日1回3分間ずつ与えて吸飲量を調べた。雌は室温で常時三角紙内に静置するか室内のケ-ジ、戸外の網室で飼育した。20%糖溶液を与えた雌の寿命が最も長くなった。また、実験に供した雌を様々な日令で解剖し、保有していた卵数を数えた。これらの雌はすべて未交尾のまま保ち、産卵をさせなかったところ、低濃度の糖溶液を与え続けた雌では日令が進むと成熟卵の再吸収が認められた。「水」のみを与えた個体は絶食させたが個体よりも寿命が延びることも分かった。脂肪体の減少傾向は糖摂取量の少ない個体ほど強く、多い個体ほど弱かった。保有している成熟卵数は高濃度の糖溶液を吸飲した個体ほど多かった。この傾向は日令が進むほど顕著となっている。これらの結果を比較すると、摂取された糖は成虫の体を維持すりばかりでなく、卵成熟のためのエネルギ-源として使われていたことがわかった。