- 著者
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島袋 公史
平山 史朗
渡邉 英夫
久保田 健治
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
- 巻号頁・発行日
- pp.Cb0757, 2012 (Released:2012-08-10)
【はじめに、目的】 近年、大腿骨近位部骨折患者の高齢化は進んでおり、当院でも85歳以上の超高齢者が7割を占めている現状である。大腿骨近位部骨折患者の中でも、超高齢者(85歳以上)と年齢で回復状況を比較しているのは渉猟した限りでは多くない。そこで今回、大腿骨近位部骨折を受傷した高齢者を85歳前後で年齢別に分け、回復状況を比較、検討したので報告する。【方法】 対象は、2009年6月から2011年5月末日までに受傷後当院で手術を受けた大腿骨近位部骨折患者161例の内、受傷前は自宅生活し杖歩行自立以上の条件を満たす32例とした。その中から、85歳以上の群(以下,超高齢者群)20例(大腿骨頸部骨折10例、大腿骨頸基部骨折1例、大腿骨転子部骨折9例)と85歳未満の群(以下,高齢者群)12例(大腿骨頸部骨折8例、大腿骨転子部骨折4例)の二つに区分した。尚、年齢は超高齢者群89±4.7歳,高齢者群80±3.6歳で差があり、リハに影響する中枢神経疾患、運動器疾患、重度認知症、転科転棟例は除いた。調査項目は手術日を基準として、リハ開始までの日数(以下,リハ開始日数)、訓練室移行に要した日数(以下,訓練室移行日数)、起き上がり・移乗・排泄・移動各項目獲得までそれぞれに要した日数(以下,起き上がり獲得日数・移乗獲得日数・排泄獲得日数・移動獲得日数)とした。その他の項目として、FIM改善率、在院日数、自宅復帰率とした。尚、統計学的処理は対応のないt検定にて実施し、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言にもとづくとともに当院の倫理委員会の承認を得て比較、検討した。【結果】 リハ開始日数は超高齢者群1.4±1日,高齢者群2±1.2日であった。以下同様に、訓練室移行日数は4.9±3日, 3.9±1.8日、起き上がり獲得日数16.7±13日,8.6±5日、移乗獲得日数24.5±21日,23±25日、排泄獲得日数41.2±33日,27.8±26日、移動獲得日数52.7±42日,28±20日という結果となった。訓練室移行日数、移乗獲得日数、起き上がり獲得日数、排泄獲得日数、移動獲得日数は超高齢者群の日数が遅延する結果となったが、起き上がり獲得日数のみ有意に差を認めた。FIM改善率は81%,89%で高齢者群の改善率が高い結果となり、在院日数は75.5±36日,71.2±36日で超高齢者群の在院日数が長い結果とはなったが有意に差はなかった。自宅復帰率は65%,75%で高齢者群の自宅復帰率が高い結果となった。【考察】 超高齢者群と高齢者群とでは、起き上がり動作獲得日数に有意な差が生じた。この理由として、起き上がり動作は基本動作の中でも様々な動作が合わさった複合的な動作で習得が困難であるとともに、術後の疼痛やそれによる可動域制限、筋出力低下などが動作に影響すると思われる。しかし、術部の影響は超高齢者群だけには当てはまらない。今回、超高齢者群は、高齢者群に比べリハ開始日数が早い結果となっているが訓練室移行日数は遅い結果となっている。このことから考えられるのが、超高齢者群は術後の全身状態変化の影響を受けやすく発熱などにより安静臥床を強いられることで廃用が起こると思われる。そのため、術部の影響だけではなく、術後初期に取り組む起き上がり動作は高齢者群と比較すると差が出る結果となったのではないかと考えられる。排泄動作獲得日数、移動獲得日数は今回超高齢者群が遅くなる結果となったが有意差はみられなかった。これは、低侵襲的な手術の施行、術後早期からの積極的なリハビリや福祉用具などの環境面の整備実施が奏効したものと思われた。【理学療法学研究としての意義】 高齢化社会を迎えているわが国の現状として、今後さらに高齢の骨折患者が増えることが予測され、その中でも大腿骨近位部骨折患者の年齢による比較は有用だと考える。また、年齢を重ねるごとにADL動作の獲得が遅延する傾向にあることから、基本動作を中心としたADL訓練も進めていく事が今後重要であると思われた。