著者
児玉 靖司 鈴木 啓司 渡邊 正己
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

放射線被曝後の生存細胞に、遅延性に染色体異常が誘導されることが知られている。本研究は、放射線による遅延型染色体異常の形成に、テロメア不安定化が関与するという仮説について検証するものである。まず、ヒト正常細胞を用いて、放射線誘発遅延型染色体異常に対する酸素濃度の影響を調べた。通常20%の酸素分圧を、1/10の2%に低下させることにより、放射線による遅延型染色体異常は、約65%減少することが明らかになった。このことは、放射線被曝後の酸素ストレスが遅延型染色体異常形成に関与していることを示している。次に、scidマウス細胞にみられるDNA二重鎖切断の修復欠損が、放射線誘発遅延型染色体異常にどの様な影響を及ぼすかについて調べた。その結果、scid突然変異は、自然発生および放射線誘発遅延型染色体異常の頻度を増加させることが明らかになった。この結果は、scidマウス細胞で欠損している非相同末端結合修復が、自然発生および放射線誘発遺伝的不安定性を抑制していることを示唆している。次に、テロメア不安定化について、テロメアFISH法により調べたところ、放射線照射によりテロメア不安定化が促進され、テロメア構造が残存した状態で2つの染色体が融合する染色体異常が増加することが分かった。さらに、scidマウス細胞で欠損しているDNA依存的プロテインキナーゼ触媒サブユニット(DNA-PKcs)が、テロメアの安定維持に寄与していることが示唆された。以上の結果を踏まえて、放射線による遅延型染色体異常の誘発メカニズムについて、次のモデルを提唱する。すなわち、放射線被曝した細胞にテロメア不安定化が誘発され、テロメア融合(fusion)-架橋形成(bridge)-染色体切断(breakage)と続く一連のFBBサイクルが誘起されることにより、遺伝的不安定性が持続的に生じ、遅延型染色体異常が形成される。
著者
甘崎 佳子 柿沼 志津子 古渡 礼恵 山内 一己 西村 まゆみ 今岡 達彦 有吉 健太郎 渡邊 正己 島田 義也
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第50回大会
巻号頁・発行日
pp.167, 2007 (Released:2007-10-20)

【目的】放射線照射によって生じる長寿命ラジカルは、培養細胞の系において遅延型の点突然変異を誘発し細胞をがん化させるが、放射線照射後にビタミンC(VC)を添加すると突然変異頻度が低下し、がん化が抑制されることが報告されている。しかし、放射線発がんにおける長寿命ラジカルの関与について、動物を用いて検証した報告は少ない。そこで本研究では、マウスの放射線誘発胸腺リンパ腫(TL)の系を用いて、放射線照射後にVCを投与した場合のTL発生率とがん関連遺伝子の変異パターンを解析し、放射線誘発TL発生における長寿命ラジカルの関与について明らかにすることを目的とした。 【材料と方法】4週齢B6C3F1マウス(雌)に、X線1.4 Gyを1週間間隔で4回照射しTLを誘発した。VCは生体内半減期の長い誘導体Sodium-L-ascorbyl-2 phosphate(共立薬科大学小林静子先生より供与)を100mg/kg腹空投与した。実験群は、1) X線単独(X線)、2) X線照射直後に毎回VC投与(X+VC)、3) X線照射直後に毎回VCを投与しさらに継続して毎週1回(3ヶ月間)VC投与(X+VC継続)の3群を設定し、各群における照射後生存日数とTLの発生率を調べた。また、放射線誘発TLにおいて変異パターンが明らかとなっているがん抑制遺伝子Ikarosの遺伝子発現、点突然変異およびタンパクの発現を解析した。 【結果】照射後の生存日数は、X線群と比較してX+ VC群ではやや短くなる傾向を示したが、X+VC継続群では長くなった。また生後400日におけるTLの発生率もX+VC継続群で若干低下した。さらに、Ikarosの変異解析の結果、X+VC継続群ではIkaros遺伝子の点突然変異が認められなかった。以上の結果から、マウスの放射線誘発TL発生に長寿命ラジカルが関与している可能性があることが示唆された。