著者
渡部 瑞希
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.79, no.4, pp.397-416, 2015-03-31 (Released:2017-04-03)
被引用文献数
2

カトマンズの観光市場、タメルの宝飾店で、ツーリスト相手に商売をするインド系ムスリムの小売商人は、できるだけ高値でツーリストに売るために、彼らと「フレンド」になるという戦略をとっている。しかし、こうした戦略の過程において、小売商人は、ツーリストとのさまざまな社会的折衝を重ねた上に、その場限りとはいえない継続した関係を築くこともあり、その結果、そうしたツーリストから儲けることができなくなることもある。本稿の目的は、友好的態度や親密さが「フレンドシップ」という形で経済利益のために利用される中で、それが経済利益を得るための手段からズレていくことがいかに起こりうるのかを明らかにすることである。これを明らかにするために、本稿では、小売商人がツーリストと「フレンド」になろうとする試みを「賭け」の実践として論じる。「賭け」とは 1)不確実性を免れないながらも確実性を目指す行為実践であり、2)「賭け」から降りない限り勝敗が判然としないものである。「フレンド」になろうとする「賭け」の実践とは、具体的に、1)売るために、当のツーリストの属性(character)(社会的背景や経済力、好みなど)を会話の中から引き出しながら、親密さを表すことである(確実性を目指す行為実践)。このようにして「フレンドシップ」は利用されるが、2)小売商人は、当のツーリストに対するその都度の取引において、売れるか否か(「フレンド」か否か)の「賭け」を繰り返すことになる(勝敗の結果の先送り)。その「賭け」の繰り返しの過程において、ツーリストの抱える個別的な問題を共有することが起こりうる。本稿の意義は、そうした「賭け」の実践を通じて、取引相手に対する親密さへの志向が、取引相手からできるだけ多くの利益をとろうとする戦略の中から誘発される可能性を示唆することである。
著者
渡部 瑞希
出版者
観光学術学会
雑誌
観光学評論 (ISSN:21876649)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.21-35, 2017 (Released:2020-01-13)

これまでの観光研究では、観光客がまなざしの対象とする真正性(オーセンティシティ)について議論を重ねてきた。それは、 客観的・本質的な真正性を想定し、観光の場における商品や出し物を虚偽だとする本質主義的な議論から、観光対象物の真正 性を構築するのは誰かというポストコロニアルな批判を含んだ構築主義的な議論、観光客個人の観光経験に焦点を当てる実存 主義的議論や、ホストとゲストのコンタクト・ゾーンで生じる観光経験の真正さに着目する議論まで多岐に渡る。 本稿では、これらの議論を再考察し真正性の否定と探求を継続させるテキストであったことを読み解くことで、観光対象物 というモノが、その虚偽性を暴かれたとしても真/偽の判断のつかない「公然の秘密」によって成り立っていること、この真 /偽の決定不可能性ゆえに、真正なるものが、永遠に探求される魅惑的な消費対象となることを明らかにする。本稿ではこれを、 真正性のリアリティとして提示する。また、その具体的事例として、カトマンズの観光市場、タメルで売られている「ヒマラ ヤ産の宝石」を取り上げながら、真正性のリアリティについて説得的に提示する。
著者
渡部 瑞希
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.83, no.1, pp.78-94, 2018

<p>ネパールの首都カトマンズの観光市場タメルで宝飾品を買い求めるツーリストは、小売商人の売る宝飾品の品質や価格の妥当性に懐疑を抱いたり、小売商人のホスピタリティに溢れたサービスに詐欺行為を感得したとしても消費欲を抱き続けることがある。本稿の目的は、小売商人とツーリストの取引過程を事例に「なぜ人は商品の価値やサービスの内容に疑いをもった場合でも消費欲を維持し続けるのか」という問いを人類学的に考察することである。この問いを考察するために本稿では、小売商人がツーリストとの取引に持ち込む親密さの表現、フレンド(友人)に着目する。</p><p>友人は、互恵的な利他性によって特徴づけられるものと歴史的に捉えられてきた。そうした利他主義的な性質が疑われたり否定されることで、そのつど理想化された「本当の友人」が友人を意味するものとして形づくられてきた。この懐疑と否定により、友人が利他的か利己的か、本物か偽物かについて決定不可能な仮面(face)と化していること、詐欺の疑いを抱きつつも特定の売り手から買うことにこだわる消費が友人の仮面に向けられることを主張する。具体的には、タメルの宝飾店で働く小売商人の見せるフレンドの仮面がツーリストによって疑われ否定されることで、ツーリストが騙されている可能性を知りつつも消費欲を抱き続ける状況を民族誌的に記述していく。</p>
著者
渡部 瑞希
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第45回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.117, 2011 (Released:2011-05-20)

カトマンズの観光市場における宝飾商人の間では、商品の品質・相場に関する情報が非対称であるにも関わらず、騙しの告発は稀で顧客関係も維持されている。本発表では、こうした状況がいかにして可能であるかに関し、買い手による情報探索と、市場に情報を提供する人々の情報操作を詳細にみていくことで明らかにする。
著者
渡部 瑞希
出版者
一橋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

平成22年4月から8月は、近年のタメルの特徴に関する論文執筆を行っていた。その論文のための補足資料を収集するため、現地調査の計画を立て、平成22年12月5日から23年1月13日までの約1ヶ月間、ネパールで調査を行った。第一に、ネパールで、やり残していた市場調査を行った。具体的には、調査対象地域のタメルだけでなく、そこに隣接するローカル市場において、出自民族構成、店舗年数の調査を行い、タメルと比較したうえで、タメルの特徴を浮かび上がらせることを目的とした。その結果、ローカル市場では、カトマンズの先住民であるネワール族が民族講とカースト間の相互扶助に基づく、比較的安定した商売を継続して行っていることがわかった。第二に、カトマンズ居住民の婚姻儀礼や民族講の儀礼に参加し、商売と儀礼、商売の関係とそれ以外の社会的関係との繋がりを確認した。その一方で、タメルは、こうした社会的紐帯に基づく商売が行われる場ではなく、移民商人が入れ替わり立ち替わりする不安定な市場であるため、詐欺行為や裏切り行為が多発する市場であることを明らかにした。第三に、そうした詐欺行為が多発するタメルの宝飾商売において、2009年にタメルで起きた「詐欺を働いた宝飾商人の摘発」に関する情報を収集した。情報は現地の新聞やタメルの商人からのインタビューを通じて行った。こうした補足調査の結果は、詐欺行為をはたらくタメルの宝飾商人が人間関係を明らかにする基盤であるため、重要である。これらの調査結果は、既に執筆中の論文に反映させている。