著者
澤田 愛子
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.80, no.2, pp.355-380, 2006-09-30 (Released:2017-07-14)

本論文はナチ時代の医師の犯罪に焦点を当て、その動機や心理状態を分析した上で、今後への提言を試みたものである。ナチ政権が犯した主要な犯罪には、「安楽死」の名を借りた障害者の抹殺(T4作戦)とヨーロッパユダヤ人の大虐殺(ホロコースト)とがある。T4作戦は「アーリア人」の血統の純化が、一方、ホロコーストは極端な人種主義が背景思想となって生じた。この各々にナチの医師達は深く関与した。即ち、抹殺対象者を選別するのみならず、殺害にも直接関与し、非道な医学実験も実施した。彼らの動機は何よりも血統の純化や人種の衛生などを主張するナチズムに深く共鳴したことで、彼らは殺人自体を医学的メタファーを用いて正当化した。しかし殺害の実施においては、「ダブリング」や「サイキック・ナミング」等の心理的装置も働いていた。彼らは狂気の思想に取りつかれていたが、気が狂っていたわけではない。全体主義社会の狂気が医師達から理性を奪ってしまった。同じ過ちが繰り返されないためにも、生命倫理教育はまず、歴史のこの最暗黒の部分を直視することから始めなければならない。
著者
若林 理恵子 澤田 愛子
出版者
富山大学
雑誌
富山医科薬科大学看護学会誌 (ISSN:13441434)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.41-54, 2004-09

看護師と家族が聞いた「臨死患者のことば」の主なものを明らかにし,その内容を分析するために,インタビュー調査を行った.インタビュー内容をnarrative researchの手法で分析した結果,看護師が聞いた「臨死患者のことば」の内容は,【間近に迫った死の意識】【あきらめ】【人生の振り返り】【家族関係への後悔】【家族を遺す不安】【感謝】【心身の苦痛】【死の迎え方の希望】【死後の世界】【墓参りへの希望】【神への祈り】の11のカテゴリーに分類できた.また,家族が聞いた「臨死患者のことば」の内容は,【家族を遺す不安】【配偶者への愛】【感謝】【家族への励まし】【心身の苦痛】【あきらめ】【怒り】【死後の世界】【自然との触れ合い】の9のカテゴリーに分類できた.本研究より,「臨死患者のことば」には,重要なメッセージや要望が内包されていることが明らかになった.看護支援として,看護師は「臨死患者のことば」の重要性を深く認識し,家族へも患者の「ことば」に傾注するように指導する必要がある.そして,看護師と家族が患者の「ことば」を共有し,「ことば」に具体的な要望が含まれている場合は,両者が協力して患者の要望をできる限り満たすことが重要である.
著者
澤田 愛子
出版者
富山医科薬科大学看護学会
雑誌
富山医科薬科大学看護学会誌 (ISSN:13441434)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.43-50, 2002-04

最近, インフォームド・コンセントが医療の中で大きな関心を集めている.生命倫理の視点からみると, 医療関係者は患者の同意のもとに治療やケアを行わなければならない.しかし, 患者の同意を取るに先立って, 患者の判断能力の査定が必要である.ことに対象が精神科の患者のように判断能力に問題があるとされるケースでは, この査定がとりわけ必要となる.こうした場合, この査定はどのように実施したらいいのだろうか.査定に当たって, J. F. Draneの理論が参考となる.Draneの段階的尺度モデル(Sliding Scale Model)によると, 判断能力には3段階がある.基準1は判断の対象となる内容がもっとも容易な場合で, ここで, 判断能力の査定の尺度は認識力と同意能力の有無である.基準2は判断対象の難易度がもう少し上がる場合で, 査定の尺度は理解力や選択能力の有無である.基準3は難易度がもっとも高い場合で, 査定の尺度は評価能力と理性的な決定能力の有無である.本論文において著者は各々の基準を特に精神科の患者の事例に当てはめながら考察し, 意思決定における患者の判断能力の問題に光りを当てた.精神科の患者であっても, 基準1と2においては判断能力のある場合があるため, インフォームド・コンセントはまず患者本人から取るべきである.