- 著者
-
澤田 昌人
- 出版者
- 山口大学
- 雑誌
- 奨励研究(A)
- 巻号頁・発行日
- 1995
エフェ・ピグミーの夢とその解釈についてこれまでに得られた資料および、文献を検討して、現在までに以下の知見を得ることができた。1.夢に見られるさまざまな事象について、その象徴的な解釈の体系が存在する。それらは主に人の死の予兆とされており、エフェ・ピグミーの深層心理において人の死がしめる意義の大きさを示唆している。2.上記以外に、狩猟の結果の予兆とされる夢が多く、現実に狩猟などをおこなう際の意志決定の判断材料とされている。これはエフェ・ピグミーにおける夢と現実の密接な関係を示している。3.夢には亡くなった故人が登場することが多く、これがエフェ・ピグミーの死生観を裏付ける結果となっている。エフェ・ピグミーは死後もなお、熱帯雨林の奥深く生前と同じ生活様式で暮らし続けるのであるとの考えを持っているのである。つまり、彼らが先祖の生活を今なお墨守する根拠を、夢が与えているのである。4.また夢に現れる故人は、エフェ・ピグミーの文化的な中核である歌を教えてくれるほか、狩猟のための毒矢の製法など、現実の生活を送るためのさまざまな智恵を与えてくれるとされる。3.で述べたこととあわせると、彼らの夢は現実生活の送り方と、さらにその改良の方策までをも指示するのである。5.以上のように、エフェ・ピグミーにおいて夢は、世界観的、宗教的な意義を持つとともに、生者の生活の多くの側面に決定的な影響を与えており、夢は、エフェ・ピグミーの心性を理解するための重要な鍵であることがわかる。これらの知見のいくつかは、世界の狩猟採集民研究においても従来指摘されなかった点であり、その世界観の研究に寄与するであろう。現在上記のテーマについて、論文を執筆中であり、近いうちに発表する予定である。