- 著者
-
阿部 利洋
- 出版者
- 関西社会学会
- 雑誌
- フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
- 巻号頁・発行日
- vol.18, pp.31-44, 2019 (Released:2020-05-29)
- 参考文献数
- 17
国際的な文脈におけるアフリカ人プロサッカー選手の活躍により、アフリカ人移民選手に注目するサッカー社会学の研究が増えてきた。こうした先行研究の多くには欧州市場を対象とし、そこにおける移民供出国と受け入れ国の間の経済格差を批判的に検討するアプローチを採用する傾向がみられる。いわば「新植民地的状況のなかで、欧州トップリーグの経済的繁栄のために若年選手が搾取される一方で、アフリカ地域のサッカー水準が停滞する」という認識である。それに対して、本論で取り上げる東南アジア・メコン地域のサッカーリーグでは、アフリカ人選手は独特のイメージと役割を与えられ、近年のサッカーブームが到来する以前からローカルリーグのゲームを支える存在であった。本論では、彼らがどのような環境のなかで、どのようなリスクを負い、どのような戦略をもってプロ生活を続けているのか、そして、それが当該リーグにどのような影響を与えてきたのか、質的データの検討を通じて考察する。結果として見えてくるのは、サッカー新興国であるがゆえに可能な生存戦略の展開と同時に、彼らがリーグを盛り立ててきたことの、いわば意図せざる結果として、新たなライバルを招き寄せるという課題に直面している現状であり、これらは従来の関連研究のなかでは十分に議論されてこなかった知見である点を指摘した。