- 著者
-
小橋 有里
井口 真理子
大久保 剛揮
藤井 崇
熊谷 武久
渡辺 紀之
- 出版者
- 日本養豚学会
- 雑誌
- 日本養豚学会誌 = The Japanese journal of swine science (ISSN:0913882X)
- 巻号頁・発行日
- vol.50, no.2, pp.46-50, 2013-06-25
- 参考文献数
- 19
欧州食品安全機関(EFSA)は2012年6月4日,ヒト及び動物に重要な抗菌剤への細菌の感受性の評価に関する手引書を公表した(EFSA,2012)。薬剤耐性の問題から,抗菌剤の使用の際には,感受性の評価が欠かせなくなっているのが現状である。動物用飼料に使用する抗菌性飼料添加物及び抗菌剤については,1997年のEUでのアボパルシンの使用中止以来,様々な議論がなされてきている。デンマークでの抗菌性飼料添加物の使用を中止したことによる家畜の疾病増加や生産性低下,また治療用抗菌剤の使用量の増加といったマイナス面等を踏まえ(小林,2004),我が国でも,内閣府食品安全委員会が2004年に「家畜等への抗菌性物質の使用により選択される薬剤耐性菌の食品健康影響に関する評価指針」を作成(内閣府食品安全委員会,2004),2006年に「食品を介してヒトの健康に影響を及ぼす細菌に対する抗菌物質の重要度のランク付けについて」を決定(内閣府食品安全委員会,2006),その後も個別の薬剤についてワーキンググループによる調査を続けている。その一方で,抗菌性飼料添加物に依存しない減投薬飼養管理システムの構築を目指した研究も行われている(農林水産省農林水産技術会議事務局編集,2009)。離乳子豚に乳酸菌を添加した発酵リキッド飼料を給与すると,抗体応答を賦活化すること(MIZUMACHIら,2009),薬剤耐性菌を減少させること(KOBASHIら,2008),腸内細菌の多様度が高まること(TAJIMAら,2010)などが報告されており,抗菌性飼料添加物の代替効果が注目されている。また,近年,乳酸菌の生菌剤だけでなく,殺菌菌体による腸管免疫活性化作用も注目されており,子豚にEnterococcus faecalis殺菌菌体を摂取させると,志賀毒素産生性大腸菌(STEC)によって引き起こされる浮腫病の改善が見られたとの報告もある(TSUKAHARAら,2007)。このような殺菌菌体成分による作用はバイオジェニックスのひとつで,バイオジェニックスとは「腸内フローラを介さず直接,免疫刺激,抗変異原作用,抗腫瘍作用,抗酸化作用,コレステロール低下作用あるいは腸内腐敗抑制作用などによって,生体に有利に働く成分」であり,乳酸菌発酵生産物,免疫強化物質を含む生理活性ペプチド,植物フラボノイドなどの成分が該当すると言われている(光岡,2002)。現在,多くのバイオジェニックス製剤が市販されており,様々な効果が報告されているが,実際の動物を用いた効果は様々であり,適用の範囲は不明である。本研究では,既にヒトやマウスでアレルギー症状の緩和等の免疫活性効果が確認され,市販されている殺菌乳酸菌Lactobacillus paracasei K71(以下K71,MOROIら,2011;KUMAGAIら,2013)粉末を用い,抗菌性飼料添加物を排除した条件で,知見のない離乳子豚に対する発育,下痢,小腸組織および病原因子に及ぼすK71の効果を検証した。