著者
浜本 隆志 R.F Wittkamp 熊野 建 大島 薫 森 貴史 浜本 隆志
出版者
関西大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

最終年度にあたる本年は、ジュヴァルツヴァルト地方の冬至祭礼調査、宮崎県高千穂町での仮面を用いる冬至祭の儀礼調査、秋田県男鹿地方での新年の祭礼であるナマハゲおよびその周辺地域の祭礼調査といった、これまでの複数年度の調査をもとに、分析・考察をおこなった。ドイツ語圏を中心としたヨーロッパの通過儀礼と、日本を中心としたアジアの通過儀礼は意外と類似する部分が多いという認識に到達することになったが、そうした場合は、たいていがキリスト教文化の浸透以前、あるいはあまり浸透していない西欧の地域や地方のものであることが多いようである。あらためて、現在の世界各地で発生している文化摩擦や紛争の主な要因のひとつが、結局のところ、多神教と一神教の対立に起因しているのではないかという推測に蓋然性をみいだすこととなった。したがって、多神教的思考と一神教的思考というこの二項対立、たとえば、それは中沢新一が主張するところの対象性思考と非対象性思考の対立といえるのだが、これを乗り越えるために必要な思想や考え方を、世界の別の地域や住民たちのものにみいだすにしろ、まったく新たに創造していくにしろ、それともこれらのことが可能ではないときにはやはり、このふたつの対立を統合していくべき方法論を将来、模索していかなければならないだろう。本研究に従事した研究者の個別の研究成果によってなされている主張が、現時点における考察の結果の一部ではあるが、これらの成果によって、萌芽研究という本研究の役割は果たされたと思われる。
著者
与謝野 有紀 熊野 建 高瀬 武典 林 直保子 吉岡 至
出版者
関西大学
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.293-317, 2006-03-30
被引用文献数
1

全国の地域通貨運営団体を対象に、目的・運営形態・効果・問題点等に関する郵送調査を実施した。調査対象によってさらに他の新しい対象を紹介してもらうスノーボール式サンプリングを行い、最終的に107の地域通貨からの回答を得た。単純集計結果をもとにすると、(1)地域経済の活性化を第一の目標にするものは全体の1割にみたず、コミュニティの再生などを目標においているものがほとんどである。(2)問題点としては、使用が一回かぎりの場合が多く流通しにくいことや、活動が広がらないことをあげているものが多いことがわかった。
著者
熊野 建
出版者
関西大学
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.107-153, 2006-03-30

この論文は、海外移住労働について民族誌的かつ記述的な研究を目差したものである。3セクションからなり、先ず、文献研究のセクションと、少数民族のイフガオ女性の労働状況についての記述、最後にオーストラリアのフィリピン花嫁の労働状況を記述したセクションである。第1セクションでは、統計資料からフィリピンの海外移住労働の現況を概括し、先行研究からフィリピン移民と海外移住労働の歴史や政策についてまとめた。次の節で、パレニャスによるローマとロスアンジェルスにおけるフィリピン移住労働者の比較研究を簡単に紹介し、その問題点を扱う。最後の節では、香港におけるフィリピン女性家事労働者についても、コンステーブルによる研究を要約し、問題点を取りあげた。第2セクションは、主に北部ルソン島におけるイフガオ女性の海外移住労働者とその家族についての事例と、香港とシンガポールでの労働状況について事例を記述した。同時に女性の海外移住労働が深刻な社会変化と文化変容を生じさせている現状を表した。第3セクションは、オーストラリアにおけるフィリピン花嫁の労働実態を中心に記述したが、その背後には家族呼びよせと不法就労者の実態が浮かび上がる。異なった視座から女性の移住労働者を捉えることで、各章と事例を総括することで結論とした。