- 著者
-
熊野 建
- 出版者
- 関西大学
- 雑誌
- 関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
- 巻号頁・発行日
- vol.37, no.3, pp.107-153, 2006-03-30
この論文は、海外移住労働について民族誌的かつ記述的な研究を目差したものである。3セクションからなり、先ず、文献研究のセクションと、少数民族のイフガオ女性の労働状況についての記述、最後にオーストラリアのフィリピン花嫁の労働状況を記述したセクションである。第1セクションでは、統計資料からフィリピンの海外移住労働の現況を概括し、先行研究からフィリピン移民と海外移住労働の歴史や政策についてまとめた。次の節で、パレニャスによるローマとロスアンジェルスにおけるフィリピン移住労働者の比較研究を簡単に紹介し、その問題点を扱う。最後の節では、香港におけるフィリピン女性家事労働者についても、コンステーブルによる研究を要約し、問題点を取りあげた。第2セクションは、主に北部ルソン島におけるイフガオ女性の海外移住労働者とその家族についての事例と、香港とシンガポールでの労働状況について事例を記述した。同時に女性の海外移住労働が深刻な社会変化と文化変容を生じさせている現状を表した。第3セクションは、オーストラリアにおけるフィリピン花嫁の労働実態を中心に記述したが、その背後には家族呼びよせと不法就労者の実態が浮かび上がる。異なった視座から女性の移住労働者を捉えることで、各章と事例を総括することで結論とした。