著者
岡田 泰穂 村上 泰介 伊藤 浩司 片寄 友 佐藤 隆次
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.557-561, 2004-05-01
参考文献数
12
被引用文献数
14

症例は91歳の男性で,右側腹部痛・嘔吐が出現し,当院入院となった.右季肋部の圧痛を認めたが筋性防御は認めず,白血球・CRPの著しい上昇と軽度黄疸が見られた.CT検査では,胆嚢腫大と造影効果のない胆嚢壁の肥厚,頚部に低吸収の腫瘤像が確認され,胆嚢捻転症に続発した急性壊死性胆嚢炎と診断し直ちに腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した.Gross I型遊走胆嚢で,胆嚢管部を軸として時計方向に360度捻転していた.術中胆道造影では総胆管の拡張と結石像を認めたが,全身状態の悪化が見られたのでc-チューブのみを留置し,総胆管結石は術後内視鏡的乳頭切開術にて摘出,第51病日目に退院した.病理組織検査では胆嚢管部の捻転に続発した堪能の急性出血性梗塞と考えられた.胆嚢捻転症の多くは開腹時に確定診断されるが,我々は術前に画像診断し,早期に腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行しえた.本症は胆嚢頚部の炎症所見がほとんど見られず,腹腔鏡下胆嚢摘出術のよい適応と考えられた.
著者
江川 新一 北村 洋 坂田 直昭 乙供 茂 阿部 永 赤田 昌紀 元井 冬彦 力山 敏樹 片寄 友 海野 倫明
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.466-472, 2009-05-01 (Released:2011-12-23)
参考文献数
6
被引用文献数
2 2

背景と目的:Frey手術は慢性膵炎に対して膵頭部芯抜きと膵管空腸側々吻合を行う侵襲が少なく疼痛改善効果の高い術式であるが,まれに再燃して再手術を要する.教室で行ったFrey手術後の長期経過中に慢性膵炎再燃に対して再手術を必要とした症例から適切な手術手技ならびに術後管理のあり方を考察する.対象と方法:1992年3月から2008年4月までの間に当科において慢性膵炎に対してFrey手術を施行した66例.術後早期合併症,再燃の形式と頻度,再手術までの時間,禁酒の有無,再手術手技を検討した.結果:術後早期の合併症発生率は10例(15.2%)で,1例は術後消化管出血のため再手術による止血を要した.術後在院日数中央値は19.5日であった.追跡対象62例(観察期間中央値45.5か月,追跡率83.9%)のうち慢性膵炎再燃による再手術は8例に施行され,1例に胆管十二指腸吻合,1例に膵頭十二指腸切除術が施行された.膵尾側の膵炎再燃・仮性嚢胞形成が最も多く,5例に膵尾部切除,1例に嚢胞空腸吻合が施行された.晩期の再手術例は特発性膵炎の1例を除き全例禁酒できない男性であり,再手術までの平均期間は約2年であった.膵尾部切除後に膵断端を空腸脚で被覆することが有効だった.考察:Frey手術後の再手術原因は膵尾部の炎症再燃が多く,飲酒と有意に相関する.炎症再燃を繰り返す場合は有効な再手術が必要である.
著者
中川 圭 鈴木 正徳 海野 倫明 遠藤 公人 片寄 友 松野 正紀
出版者
The Japan Society of Hepatology
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.41, no.12, pp.823-828, 2000-12-01
被引用文献数
2 4

著者らは骨髄異形成症候群 (myelodysplastic syndrome: MDS) による続発性造血性ヘモクロマトーシス (erythropoietic hemochromatosis) を基礎疾患とした肝細胞癌の1切除例を経験した.<BR>症例は平成元年より肝機能異常・貧血を指摘され, 平成9年肝硬変・糖尿病の診断. 平成10年胆嚢摘出術の術前精査で骨髄異形成症候群 (MDS-RA (reactory anemia) 型) の診断を受け, 平成12年経過観察中にS5, 8境界領域の高-中分化型肝細胞癌を認め手術施行した. 術後のペルシアンブルー染色でKupffer細胞が強く染色されるとともに肝細胞に鉄顆粒が認められ, 本症例が続発性ヘモクロマトーシスであることを示唆していた. MDSでは無効造血で鉄が余剰となるため合併症として本症のごときヘモクロマトーシスを発生しうる. 本症例はヘモクロマトーシスに肝癌を併発し切除されたもので, 本邦報告例としてはきわめて稀な症例である.
著者
海野 倫明 阿部 高明 片寄 友
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

我々は、liver-specific organic anion transporter-2(LST-2)の抗体を作成し、この抗体を使用して免疫染色を施行したところ、一部の結腸癌や乳癌においてLST-2が陽性になることを明らかにした。そこで、結腸癌手術検体および乳癌手術検体を用いてLST-2発現と各種臨床病理学的因子や予後との相関を検討し、LST-2の癌細胞における腫瘍生物学的意義を探索することを目的に以下の検討を行った。大腸癌手術症例255例を用いて、LST-2特異的抗体で免疫染色を施行し、同時に各種臨床病理学的因子と予後に関し相関を検討した。その結果、255例中、67例の癌細胞膜及び細胞質で陽性であった。一方、正常大腸粘膜は陰性(ないし弱陽性)であった。Fig.1に示したように結腸癌組織内ではLST-2陽性細胞はsporadicないしfocalに染色され、陽性細胞は最高でも30%程度であった。次に、LST-2発現と予後に関して、overall survivalを検討したところ、LST-2陽性症例は、女性においてのみ有意に生存率が高い(P=0.0217)ことが明らかとなった。次に既知の結腸癌予後因子群(リンパ節転移/浸潤度/histological grade/血管浸潤/リンパ節浸潤/Ki-67labellingindex等)との単多変量解析を施行した。その結果女性結腸癌症例におけるLST-2の発現は、従来報告されているDukes分類やリンパ管浸潤と同様に予後因子であることが明らかになった。さらに多変量解析を施行したところ、これらを超える優れた独立予後規定因子になることが判明した(P=0.0447,relative risk(95%CI)=8,264)。次いで乳癌で同様な検討を施行した。102例の乳癌症例中、LST-2陽性51例の予後は、陰性51例と比較すると,無再発生存期間、全生存期間の両者で有意に予後が良好(p=0.03,0.01)であるという結果が得られ、LST-2の発現の有無は乳癌の予後予測因子の一つと考えられた。