著者
亀田 佳代子 前迫 ゆり 藤井 弘章 牧野 厚史
出版者
滋賀県立琵琶湖博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

かつて肥料として利用するために行っていたカワウの糞採取とそれに伴う保全管理技術が、カワウによる森林衰退を軽減する効果があったのかどうかを検証した。糞採取が行われていた愛知県のカワウコロニー、鵜の山で、当時の優占種であるクロマツをポットに植えて設置し、実験的に糞採取と同様の処理を行った。その結果、糞採取に伴う砂撒きが、クロマツの生存や成長を促進することが示唆された。現植生の調査からは、1960年代後半のクロマツ植栽域でタブノキの個体数が有意に多いことが明らかとなった。これらの結果から、砂撒きや植栽などの伝統的保全管理技術が、カワウによる森林衰退を軽減し遷移を促進していた可能性が示唆された。
著者
牧野 厚史
出版者
西日本社会学会
雑誌
西日本社会学会年報 (ISSN:1348155X)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.39-52, 2020 (Released:2021-03-31)
参考文献数
36

大災害が相次いだ日本では、防災行政の災害論が単純化し始めている。そうした動きのなかで、農林漁業という営みのあるコミュニティでは、災害のたびに様々な葛藤を抱えるようになった。この葛藤は、集落移転のような大きな問題になる場合もあれば、地元の小さな内部葛藤で終わる場合もあるが、自然災害の問題であるが故に、災害論としての原理的考察が必要である。本稿では、災害下の農林漁業をめぐって生じる葛藤を、「まさか」と「やはり」という対照的な言葉を用いて、災害論を分けることにより検討した。自然現象のリスクを徹底的に回避しようとする防災行政の「まさか」の災害論に対して、とくに農林業などが絡んでくる場合は、それとは異なるもうひとつの災害論、「やはり」の災害論が必要である。それは、この災害論が、農林漁業のレジリエンス発揮=災害リスクのコミュニティへの内部化と関わっており、そのことによって人々の生活の充実への可能性を開くからである。
著者
牧野 厚史
出版者
環境社会学会
雑誌
環境社会学研究
巻号頁・発行日
no.8, pp.181-197, 2002-10-31

日本の大規模遺跡保存のモデルとなっている佐賀県吉野ヶ里遺跡の保存現場を事例として,遺跡とその周辺自治体を含む地域空間の公共性を土地利用秩序の共同性という視点から検討した。吉野ヶ里遺跡は,1989年,マスコミが遺跡を邪馬台国時代のものと報道したことから,膨大な数の見学者が訪れるようになった。そのため,佐賀県は遺跡の周囲を地域制(ゾーニング)し,景観復原を行う。それは,遺跡の活用策とみなされた。だが,地元と位置づけられていた基礎自治体(町村)の地域計画とのあいだに齟齬が生じた。このプロセスを検討した結果,複合的な土地利用を排除した一面的な地域制(ゾーニング)が齟齬を生じさせたことがわかった。地域空間の公共性を確保するためには,基礎自治体・住民による,遺跡への多面的なかかわりが保障される必要がある。だが,この点で地域制(ゾーニング)の適用の仕方に問題があったといえる。
著者
宮内 泰介 古川 彰 布谷 知夫 菅 豊 牧野 厚史 関 礼子
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、ヨシをはじめとするさまざまな半栽培植物(または半家畜の動物)に焦点を当て、かかわる人間の側のしくみ・制度を論じることにより、自然のあり方とそれに対応する人間社会のあり方を統一的に把握するモデルを提示することを目標としている。本研究の最終年度に当たる平成19年度は、(1)宮城県の北上川河口地域でヨシ(葦)(Phragmites australis)原の利用のしくみと変遷についての現地調査を継続し、まとめにかかる一方、(2)研究会を開いて多様な専門分野の研究者が集まり、本研究の総括的な議論を行った。その結果、(1)の北上川河口地域での調査では、ヨシ原が歴史的に大きく変遷しており、それと地域組織や人々の生活構造の変遷が大きくかかわっていることが明らかになった。自然環境-自然利用-社会組織の3者が、相互に関連しながら、変遷している様子が見られ、さらに、そこでは、強固なしくみと柔軟なしくみとが折り重なるように存在していることが分かった。また、(2)の総括では、(i)「半栽培」概念の幅広さが明らかになり、(a)domestication(馴化、栽培種化)、(b)生育環境(ハビタット)の改変、(c)人間の側の認知の改変、の3つの次元で考えることが妥当であり、さらには、さまざまなレベルの「半」(半所有、半管理.)と結びついていることが明らかにされた。(ii)また「半栽培」と「社会的しくみ」の間に連関があることは確かだが、その連関の詳細はモデル化しにくいこと、したがって、各地域の地域環境史を明らかにすることから個別の連関を明らかにしていくことが重要であることがわかった。 (iii)さらに、こうした半栽培の議論は今後の順応的管理の際に重要なポイントになってこと、これと関連して、欧米で議論され始めているadaptive governance概念が本研究にも適応できる概念ではないかということが分かった。本研究は、そうした総括を踏まえ、成果を商業出版する方向で進めている。