著者
王 晋民
出版者
千葉科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、内部告発に対する態度と行動傾向の影響要因を明らかにすることを目的とした。「公益通報者保護法」の効果に関して同法施行の前と後にそれぞれ1回社会調査を行い(有効回答数それぞれ1089人、845人)、不正行為への態度や反対行動・通報行動の影響要因については前述の社会調査や場面想定法を用いた実験のデータに基づいて検討した。分析の結果、次のようなことが明らかになった。(1)「公益通報者保護法」施行後、内部告発者を保護する必要性がより強く認識された。しかし、内部告発や内部告発者に対する態度の他の側面においては同法の施行前後の顕著な違いが認められなかった。(2)内部告発、内部告発者に対する有職者の態度は基本的に肯定的なものであるが、組織コミットメント、職業満足感、集団主義傾向の強い人が、否定的な態度を持たなくても、肯定的な反応が比較的に弱い。(3)不正行為の被害者になっていない場合、内部告発がより容易になされる可能性が示された。また、正当世界信念が強ければ、自ら反対行動や通報行動をとる可能性が低くなる。(4)内部告発した場合、上司や家族の支持が得られるという認識が強ければ、また、不正行為の制止が職務と関連性が強ければ、通報行動をする可能性が高くなる。(5)「内部告発者」、「内部通報者」と「公益通報者」に対する有職者と大学生のイメージは概ね肯定的であるが、人間性の評価では否定的な側面もある。また、「公益通報者」に対して正義性や積極性、重厚さ、気長さでの評価が他の呼称より高い。これらの結果と従来の知見を整理することにより、内部告発に対する態度と通報行動に対する法律の施行という社会環境要因の効果が実証的に示され、また内部告発の心理的メカニズムも一層鮮明になった。
著者
王 晋民
出版者
千葉科学大学
雑誌
千葉科学大学紀要 (ISSN:18823505)
巻号頁・発行日
no.2, pp.9-17, 2009-02

組織不正によって消費者や社会全体の利益が損なわれ,また最終的に組織自体の弱体化や解体に至る事例が数多く報道されている.組織不正を防ぐことが組織の危機管理において重要な課題となっている.組織不正を防止するために,「内部告発」が有効な手段の一つとして考えられるが,内部告発者が報復などの不利益を受ける可能性がある.2006年4月に「公益通報者保護法」が施行され,内部告発が行われやすくなり,また内部告発に対する態度がよりポジティブになることが考えられる.本研究はこの法律の施行前後で行った有職者の内部告発に関する調査のデータを比較し,内部告発に対する有職者の態度について検討した.その結果,法律施行後,内部告発者を保護する必要性の認識が強くなったことが確認された.
著者
山口 由衣 王 晋民 椎名 健
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.45-54, 2004
被引用文献数
1 1

本研究では,図形の心理物理的特徴と意味的特徴の対応関係を検討した.まず,4つの心理物理的特徴(曲線性,複雑性,規則性,開閉性)を組み合わせて,32個の図形を作成した.次に図形の印象をSD法により評価し,因子分析を適用して図形の意味的特徴を抽出した.心理物理的特徴と意味的特徴との間には密接な関係が認められた.曲線性と柔和性,規則性と安定性,および複雑性と活動性.意味的特徴に対する心理物理的特徴の関連の強度は「曲線性>複雑性>規則性・開閉性」と考えることができる.また,心理物理的特徴が同条件の図形どうしは印象が類似しやすく,特に複雑,不規則な図形において印象の共通性が強く現れた.本研究の結果は,異なる図形セットで大山・宮埜(1999)の見いだした形態の心理的属性(曲線性,規則性,複雑性)を支持した.
著者
王 晋民 宮本 聡介 今野 裕之 岡本 浩一
出版者
社会技術研究会
雑誌
社会技術研究論文集 (ISSN:13490184)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.268-277, 2003 (Released:2009-08-19)
参考文献数
23
被引用文献数
4 5

内部告発は組織における不正行為を暴露して制止させるだけではなく,新たな不正行為を抑止する効果がある.内部告発は内部告発者本人の動機付けと第3者の内部告発に対する許容度の2つ側面がある.前者は潜在的な告発者の告発行動を起こす意向で,後者は,社会や組織構成員の内部告発・内部告発者に対する態度からの影響である.適切な内部告発を推進する環境や内部告発に関する効果的な教育プログラムを作るために,本研究は内部告発行動や内部告発及び告発者に対する態度に対する個人特性・組織特性の影響について社会調査で調べ,その結果に基づいて社会心理学の視点から内部告発に関する制度や教育プログラムに対する提案を試み,内部告発に関する社会心理学研究の役割と方向について検討した.