- 著者
-
三田 菜奈子
田中 涼
浅井 友詞
- 出版者
- 日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
- 雑誌
- 理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
- 巻号頁・発行日
- pp.0653, 2016 (Released:2016-04-28)
【はじめに,目的】人間のバランスは視覚,前庭感覚,体性感覚の情報が統合され,姿勢制御が行われる。その中でも視覚は重要な役割を果たしており,正確な視覚情報を取り込むために様々なサブシステムを用いて眼球運動の調節を行っている。その1つである滑動性追跡眼球運動(smooth pursuit:SP)は視標の速度,加速度の情報が視覚野から前頭眼野を経て橋,小脳,前庭神経核に至って眼球運動を行う。先行研究では外傷性頸部症候群において頸部構造の損傷が固有受容器への入力の障害をおよぼし,SPの加速度の遅延が生じるとされているが,頸部筋疲労が眼球運動におよぼす影響は明らかでない。そこで今回は,健常若年者における頸部筋疲労がSPにおよぼす影響について電気眼振図を用いて検討した。【方法】対象は健常若年者36名とし,介入前後にSP中の眼球運動角度を電気眼振図(日本光電社製)にて計測し,規定の眼球運動が行えた25名(筋疲労群18名,コントロール群7名)を抽出した。筋疲労群は腹臥位にて25%MVCの負荷で頸部伸展位を10分間保持し,表面筋電図にて両僧帽筋上部の中央周波数が有意に低下(p<0.05)した12名を抽出した。運動中は頸部の疼痛をNRS(Numerical Rating Scale)で聴取し,NRS10に達した段階で中止した。筋疲労群のうち,NRS6以上を重度疼痛群(7名),NRS5以下を軽度疼痛群(5名)に分類した。コントロール群は10分間の安静を行った。解析項目はSP中の眼球運動角度とし,介入前に対する介入後の眼球運動角度の変化量を算出して3群で比較した。さらに,筋疲労群においてNRSの最大値と眼球運動角度の変化量との相関を算出した。【結果】3群における眼球運動角度の変化量を比較した結果,重度疼痛群6.0±0.5度,軽度疼痛群2.1±0.1度,コントロール群1.9±0.7度であり,重度疼痛群において有意な増加が認められた(p<0.05)。筋疲労群において疼痛に対する眼球運動角度の相関関係は係数0.592であり,相関を示した(p<0.05)。【結論】動作において頭頸部が動いた際に前庭動眼反射や頸眼反射により眼球運動の補正が行われており,頸部固有受容器と眼球運動は密接に関わっている。固有受容器への入力が障害される因子のひとつとして筋疲労が挙げられており,本研究では頸部に筋疲労を作成したことで頸部固有受容器への入力に異常が生じたことが推察される。さらに頸部に疼痛が出現したことで筋紡錘の感度亢進や交感神経活性化が生じ,頸部固有受容器から前庭神経核への入力に異常が生じ,SPに影響をおよぼしたと考えられる。したがって,頸部筋疲労が眼球運動制御に影響をおよぼす可能性が示唆された。このメカニズムには頸部筋疲労による頸部固有受容器からの情報がSPに影響をおよぼし,その結果眼球運動制御障害が出現したと推察される。