著者
田原 宏人
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.94, pp.91-112, 2014-05-31 (Released:2015-06-03)
参考文献数
35
被引用文献数
1

教育において平等をいかにして実現するか。数多の研究がこの課題に取り組んできた。だが,苅谷剛彦によれば,日本における教育の平等を求めるレトリックはきわめて特異であり,「能力主義的差別」という言い回しは,彼の見るところ,一種の範疇錯誤である。以来20年,平等主義者たちはこの批判にうまく対応しきれていない。本論文は,教育の内外における分配の正義に関する諸論点を論じる。そのさい,平等主義,優先主義,十分主義(適切性)という異なる三種の分配原理に着目する。平等が教育における正義の重要な価値であるとしても,それは一つの価値に過ぎない。いかなる原理に基礎を置くかに応じて,何をいかに分配すべきかに関する規範的な判断は変わってくる。よって,本稿は,各原理の相違点と,その含意を理解するために,それぞれを支持する論者たちによって繰り広げられている論争に多くの紙数を費やしている。結果,分配の正義に関する今日の知見に照らすならば,40年前の教育実践集に記録されたバナキュラーな声には,大方の予想に反して,平等だけではなく,十分性が,そして時として優先性が,教育における正義の要求であるとの実践感覚が,暗黙裏に反映されていた,ということが明らかになる。彼らには,望ましい教育を構築するために利用可能な言語的資源が欠けていたのである。
著者
廣田 照幸 田原 宏人 筒井 美紀 本田 由紀 小玉 重夫 苅谷 剛彦 大内 裕和 本田 由紀 小玉 重夫 苅谷 剛彦 大内 裕和 清水 睦美 千田 有紀
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

1990年代から現在に至る約20年の教育社会学の研究成果と教育現実の変動との関係の見直しの必要性が明らかになった。政治のレベルでの55年体制、経済のレベルでの日本的雇用システムを、暗黙の前提とした研究枠組みを脱する必要が浮かび上がった。特に、教育政策の立案-実施の過程に働く政治的な諸力が、1990年代初頭から大きく変容したこと、また、卒業生の受け皿である労働市場や雇用システムが、1990年代半ば以降、大きく変容したこと、その二つが、教育政策をめぐる議論に対しても、学校や生徒の現実に対しても、大きな意味を持っていた。とはいえ、実証性を研究の主要なツールとしてきた教育社会学は、そのような大きな構造変動を理論や研究枠組みのレベルで適切にとらえきれないまま、2000年代の教育改革の中で、部分的・断片的な実証データをもとにした推論を余儀なくされる状況に陥ってきたといえる。こうした検討を踏まえて、本研究から明らかになったのは、新たな政治・経済の枠組みをとらえた社会科学の知見を、教育社会学内部に取り込む必要性である。特に、グローバル資本主義の展開が政治や経済のあり方を左右する際、どういう選択肢が理論レベルであり得るのかをふまえ、それらの選択肢が教育政策に及ぼす影響を予測することの重要性が、明らかにされた。