著者
田邉 和彦
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.90, no.2, pp.285-297, 2023 (Released:2023-09-02)
参考文献数
27

本研究では、中学生の抱く文理意識を、学業的自己概念の一つとして位置づけて、学業仮説、選好仮説、ステレオタイプ仮説の3つの見方から、ジェンダー差が生じる理由を検討した。質問紙調査の計量分析によって仮説を検証した結果、学業仮説は十分な説得力を持たず、選好仮説は部分的に支持され、ステレオタイプ仮説は支持された。本研究の結果は、「男子の方が理系に向いている」のような文化的信念を無効化し、女子中学生が理系科目に対して好意的な態度を示しやすくなれば、「理系」の女子が増加する可能性を示唆している。
著者
田邉 和彦
出版者
一般社団法人 日本科学教育学会
雑誌
科学教育研究 (ISSN:03864553)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.497-508, 2023 (Released:2024-01-24)
参考文献数
24

Japanese higher education has a low proportion of women in academic areas such as science, technology, engineering, and mathematics (STEM). The results of recent empirical studies in Japan suggest that from the elementary school stage, boys are more likely to recognize themselves as “science types” than girls, and that such gender differentiation is maintained in later educational stages. Based on the idea that there are values that tend to regard boys rather than girls as “science types” and that these may be transmitted during the socialization process, and the discussion of the critical role of significant others in the formation of science identity, this study focused on the values held by mothers, who are the main socializers in early childhood. We first tested the hypothesis that mothers are more likely to recognize their children as “science types” if they are boys, regardless of their children’s academic abilities. Second, we tested the hypothesis that such double standards may be caused by gender-related cultural beliefs. A statistical analysis of the results of a survey of 1,000 mothers who have children in the first grade clearly supported both hypotheses. The results suggest that girls need to overcome their parents’ low expectations to develop “science type” self-concepts.
著者
田邉 和彦
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.109, pp.29-50, 2022-02-21 (Released:2023-06-30)
参考文献数
23

日本の高等教育においては,性別によって専攻分野が分離している状況が見られる。特にSTEM(Science, Technology, Engineering, and Mathematics)と呼ばれる領域には女子が少なく,このような性別専攻分離の背景として,一部の高校に存在する文理選択制度の影響が指摘されている。すなわち,文理選択に基づいて,男子は理系,女子は文系へと「水路付け」されていくという見方である。 しかし,性別専攻分離には文系-理系の次元とSTEM-ケアの次元が存在しており,後者の分離は主に理系トラックにおいて生じていると考えられる。それゆえ,後者がいかに生じるのかということは,文理選択のジェンダー差とは異なる見地からも検討される必要がある。 日本の高校生を対象としたパネル調査を分析した結果,同じコースに所属していても,女子の方が理系学部における成功確率を低く見積もる傾向が確認され,さらに成功確率を低く見積もっている人の方が,ケア領域を選択しやすい傾向が観察された。また,STEMやケアに関するジェンダー・ステレオタイプは高校生の間に流布しており,それらを内面化している程度は,STEM領域およびケア領域の選択傾向と関連していた。 最後に,本研究で用いた要因をすべて考慮したとき,文系-理系の分離は解消に向かう可能性が示唆されたのに対して,ケア領域における分離は残存する可能性が示された。これは,性別専攻分離において,STEM-ケアの次元へと着目することの重要性をさらに強調するものと捉えられる。