著者
真宮 靖治
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.176-183, 1980-05-25
被引用文献数
14

は種後170日目のアカマツ苗に対し, 胚軸の切り込みにはさんだ濾紙片に線虫懸濁液を滴下する方法で接種を行なった。接種直後の樹体内侵入線虫個体数は平均61頭であった。接種後3日目, 線虫は接種点付近に多く, 周辺の樹脂道, 形成層, 篩部, 皮層各組織へ直接侵入していた。6日目, 胚軸の樹脂道における線虫生息, エピセリウム細胞の破壊の進行は, 時間的経過にともなう線虫の生息域拡大を示していた。また, 樹脂道を経路とした形成層, 篩部, 皮層への線虫の移動が観察された。9日目, 接種苗は胚軸横断面による観察で樹脂滲出停止, 皮層, 形成層の一部褐変という明らかな病徴を呈したが, この時期樹体内の線虫個体数の増加は著しかった。胚軸, 根における組織破壊も顕著であった。12日目には線虫生息, 組織破壊の進行は上胚軸にもおよんだ。上胚軸先端の下垂という特徴的な病徴がこのころからあらわれた。針葉の変色, 萎凋は18日目以降に起こった。樹体内の線虫個体数は18日目ごろまでにピークに達したあと減少した。線虫による組織破壊によってできた空洞に, 接種後6日目から観察された細苗集団は病状の進展とともにその存在がますます顕著になった。
著者
真宮 靖治
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.114, pp.123, 2003

マツノザイセンチュウのマツ樹体内における生息実態については、樹体の病状進展経過や枯死後の時間的経過との関連で、とくにその個体数変動が明らかにされてきた。マツの発病後30日前後で、樹体内の線虫個体数はピークに達したあと減少する。このような変動傾向について、マツノザイセンチュウのマツ樹体内における摂食行動との関連が予想された。また、個体数の変動には菌類の影響も考えられた。これらの視点に立って、マツ丸太に対するマツノザイセンチュウの接種実験を行った。伐倒直後丸太に対する接種、伐倒後1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月をそれぞれ経過した丸太に対する接種、の4処理区を設定し、各区5本ずつの丸太を供試した。線虫接種後、経時的に各処理区丸太から材片を採取して線虫分離を行った。接種後、マツノザイセンチュウは丸太材内で増殖し、1ヵ月後に個体数増加のピークに達したあと減少していった。このような個体数変動の傾向は各処理区で共通していた。伐倒後の時間経過は線虫増殖に明らかな影響を及ぼした。伐倒直後に比べ、1ヶ月以上経過後、線虫接種した丸太では、線虫個体数は少なかった。とくに、3ヶ月経過後接種の処理区では、線虫はほとんど増殖しなかった。このような増殖経過から、マツノザイセンチュウはより新鮮なマツ材組織での増殖が有利であり、この場合、柔細胞などのマツ材組織を主要な食餌源としている可能性が示唆された。伐倒直後の丸太に線虫を接種したあと1ヶ月経過した丸太に対して、ヒラタケとシイタケをそれぞれ接種する区を設定し、丸太材内における線虫増殖経過を追った。ヒラタケを接種した丸太では、線虫個体数が減少した。シイタケ接種の影響は見られなかった。ヒラタケが示した線虫個体数抑制効果は、自然条件下、マツ枯死木材内での線虫個体数変動における、木材腐朽菌をはじめとする各種微生物の影響を示唆した。
著者
小林 享夫 佐々木 克彦 真宮 靖治
出版者
日本林學會
雑誌
日本林学会誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.p184-193, 1975-06
被引用文献数
2

マツ健全木の幹からPestalotia, Papularia, Trichodermaが, 枝からPestalotiaとRhizosphaeraが, 健全苗木の茎枝からRhizosphaera, Pestalotia, Cladosporiumが検出され, 材中における糸状菌の潜在が示唆された。線虫の加害によりマツが異常・枯死を起こすと樹体内の糸状菌相は急激に変化し, 枝幹上部にはCeratocystis, Diplodia, Macrophomaが, 幹下部の辺材部にはVerticicladiellaが優占し, 細菌も一時的に異常に増加する。健全木の糸状菌の中ではPestalotiaとRhizosphaeraが線虫増殖に好適でマツ樹体内で線虫の食餌の一つとして役立ちうることが示された。マツが異常を起こしてのちの材中での線虫の増殖にはCeratocystisとDiplodiaが好適である。Ceratosystisは線虫とマツノマダラカミキリ両者の共存関係にもう一つ加わり三者で共存関係を形成することが示唆された。晩秋から早春に異常枯死を起こすマツからはマツノザイセンチュウは検出されず, 材中から糸状菌Amylostereumが優占的に検出され, キパチ類との関連性やマツへの加害性など, 線虫によらない枯損原因の一つとして検討の必要性が示された。
著者
小林 享夫 佐々木 克彦 真宮 靖治
出版者
日本林學會
雑誌
日本林学会誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.136-145, 1974-04
被引用文献数
4

マツノザイセンチュウの生活環の中で, 糸状菌のかかわり合う程度とその役割を明らかにするため, 幾つかの分離・培養実験を行った。えられた結果は次のとおりである。1)マツノザイセンチュウがマツ樹冠の後食枝に侵入してから翌春マツノマダラカミキリによって運び出されるまでの間の, いろいろな時期に検出される糸状菌相には, それぞれ特徴が認められた。2)マツノザイセンチュウの侵入場所である健全木樹冠の枝の後食部では, Ceratocystis, Pestalotia, Alternaria, Cladosporium, Rhizosphaera, Colletotrichumが主として検出され, 針葉に葉枯性の病気を起す菌類がかなりの頻度を占めることと3)4)で高い検出率を示すVerticicladiellaが全く検出されないことが特徴的である。3)マツが枯れたあと線虫の生息場所である幹の材中では, RhizosphaeraやColletotrichum等の葉枯性病菌は検出されず, Ceratocystis, Pestalotia, Alternariaに加えてVerticicladiella, Diplodia, Fusariumが主な糸状菌となる。またTrichodermaやPenicilliumによる汚染もかなり認められる。4)マツノザイセンチュウが集中してくるマツノマダラカミキリ蛹室壁面からは, Ceratocystis, Verticicladiellaが主として検出され, とくに前者は蛹室壁の表面に多量の子のう殻を形成, しばしば黒色じゅうたん状を呈する。カミキリ幼虫の不在の孔道や蛹室ではTrichodermaの汚染の多い傾向がある。5)線虫の伝播者である羽化脱出したカミキリ成虫体からは, Ceratocystis, Aliernaria, Pestalotia, Diplodiaが主として検出され, とくにCeratocystisはマツノザイセンチュウと同様に, もっぱらこのカミキリによってマツからマツへと伝播されるものと思われる。6)これらの各種糸状菌のうち, Diplodia, Pestalotia, Ceratocystis, Verticicladiella, Fusariumの菌そう上で, 線虫は菌糸を食餌として良く増殖する。これに反して, Trichoderma, Cephalosporium, Alternariaの菌そう上では, 線虫は全くあるいはほとんど増殖せず, これらの菌糸を餌として利用できない。7)マツの材組織を円板あるいはおが屑にして殺菌し線虫を接種したが線虫は全く増殖できなかった。これらの実験結果から, マツが樹脂浸出の停止を起してからの樹体内におけるマツノザイセンチュウの増殖に際しては, 樹体内にまん延繁殖した糸状菌を食餌として利用しているものと推測される。Ceratocysits, Pestalotia, Diplodia, Verticicladiella, Fusarium等が線虫の増殖に好適な糸状菌であり, 線虫は材中でこれらの菌類を選択することなく餌として利用するのであろう。逆にTrichodermaやCephalosporiumが優占した材中では, 線虫の増殖はほとんど行われないものと考えられる。
著者
真宮 靖治
出版者
日本線虫学会
雑誌
日本線虫学会誌 (ISSN:09196765)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.1-9, 2006-06-30 (Released:2007-11-22)
参考文献数
7
被引用文献数
5 7

数種木材腐朽菌の菌糸に対するマツノザイセンチュウ (以下線虫) の集合現象を検証する目的で、寒天平板上における線虫の行動を追跡した。これまでに、線虫に対する強い捕食効果を明らかにしてきたヒラタケ、ウスヒラタケ、エリンギ、シイタケ、ツキヨタケの菌糸では、線虫の顕著な集合現象が確認された。捕食効果が小さいか、あるいはほとんどないマツオウジ、シハイタケ、ヒトクチタケ、ナメコの各菌では、菌糸への線虫の集合は認められなかった。捕食効果がやや強いマツオウジでは、その他の各菌とは異なる菌糸に対する線虫の反応が観察された。Botrytis cinerea の菌糸に対して、捕食効果の強い各菌の場合ほど顕著ではなかったが、線虫の集合現象が認められた。これは食餌となる糸状菌に対する菌食性線虫の反応としてこれまで明らかにされたこととの一致と考えられた。本研究の結果から、線虫に対して強い捕食効果をもつ各種木材腐朽菌の菌糸には線虫誘引効果のあることが示された。