著者
石川 悠加
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.381-384, 2012-12-28 (Released:2016-04-25)
参考文献数
24

器械による咳介助(mechanical in-exsufflation: MI-E)は,自力の咳を補強するか,咳の代用をする.原理は,気道に陽圧(+40 cmH2O)を加えた後,急速に(0.1~0.2秒ぐらいで)陰圧(-40 cmH2O)にシフトすることにより,気道に呼気流量を生じ,気道分泌物を除去するのを助ける.神経筋疾患や脊髄損傷の咳機能低下だけでなく,慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease: COPD)にも使用報告がある.非侵襲的陽圧換気療法(noninvasive positive pressure ventilation: NPPV)の気道クリアランスの手段や,気管挿管や気管切開を通しての排痰にも使用される.MI-Eは,2010年に本邦で保険診療が新設され,2013年には本邦で使用認可された新規・更新機種が4種類となり,今後の活用の工夫が期待される.
著者
高田 学 竹内 伸太郎 石川 悠加
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.131-136, 2014-04-30 (Released:2015-11-13)
参考文献数
18

神経筋疾患の非侵襲的陽圧換気療法(noninvasive positive pressure ventilation; NPPV)の覚醒時インターフェイスとして,マウスピースを活用した.マウスピース使用経験のある17名を対象に,導入と中止など使用状況を調査し,マウスピースの利点と問題点について検討した.導入は,覚醒時NPPVが必要になった時期であった.中止は,疾患進行によってマウスピースを使いこなすための体幹や頸部の運動機能や口唇の力が低下してきた時期で鼻プラグなどに変更した.マウスピースの利点は,視野が広く皮膚への侵襲がなく,自身でマウスピースをくわえたり離したりすることで,NPPVの開始と中断を自由にコントロールできることである.このため,NPPVの合間に飲食や会話がしやすい.しかし,マウスピースを口元から離しているときに低圧アラームを制御する工夫を要する.マウスピースによるNPPVは,適応や導入時期,使用方法により有効活用が可能である.
著者
石川 悠加
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.43-45, 2019

Ⅰ.はじめに近年の重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))の呼吸ケアの最適化のコクラン・レビュー1)に「英国では、経済的および政治的な流れとして、重症児(者)が急性期病棟を退院し、地域でケアすることを進めている。先を見越した呼吸ケア、専門機関へのアクセスの改善、習熟したスタッフにより、適切に退院し、再入院を防ぐことができる。脆弱な重症児(者)が、公正なケアを受け、それが安全で効果的で、子どもと家族のQOLを高めるためには、エビデンスに基づいたアプローチが求められる。ケアが大変な家族に、これ以上効果が確認されていない呼吸ケアや専門的でない呼吸ケアで負担を増やしてはならない」と記載されている。小児の呼吸の研究は 膵嚢胞線維症、脊髄性筋萎縮症、デュシェンヌ型筋ジストロフィーなど神経筋疾患が多く、重症心身障害児(者)の研究は少ない。このため、神経筋疾患のガイドラインやエキスパートの意見である「筋力低下の小児の呼吸ケアガイドライン」2)、「神経筋疾患の気道クリアランスに関する国際会議」3)4)を参考にして行うことが勧められる。Ⅱ.対象・方法当院に長期入院の重症児(者)106例の人工呼吸管理方法を調べる。Ⅲ.結果人工呼吸管理は、終日の気管切開人工呼吸3例、非侵襲的陽圧換気療法(noninvasive positive pressure ventilation=NPPV)15例(このうち終日5例、睡眠時10例)であった。鼻マスクが2例、他は口鼻マスクを使用していた。気管切開チューブ留置例は2例であった。気管切開は、当院で30年前に実施した1例以外は、NICUからの転院例、脳外科術およびイレウス術後例であった。NPPVは、気管挿管の抜管困難、睡眠呼吸障害、急性呼吸不全をきっかけに導入している。終日NPPVの1例では、経鼻エアウェイの中に細い管を留置して咽頭喉頭周囲の唾液の持続吸引を行っている。終日NPPV使用者のうち、入浴時に酸素付加の手動換気は2例、鼻カニュラによる酸素投与は3例、顔色不良やSpO2低下時は手動換気補助を適宜行うのは5例であった。機械による咳介助(mechanical insufflation-exsufflation-MI-E)の定期的使用は、気管切開人工呼吸使用者で2例、気管切開チューブ留置使用者で1例であった。Ⅳ.考察NPPVの限界は、咽頭や喉頭の機能の低下や上気道の痙性により、咳介助によっても十分な咳が維持できない場合、NPPVを使用してもSpO2が95%を保てない場合であった。小児の長期NPPVは、熟練した専門多機能のセンターで導入・再調整が必要であると報告されている5)。最近、NPPVが睡眠呼吸障害を誘発することもあり6)、睡眠時にSpO2と経皮炭酸ガス分圧を測定して条件調整することが必要であった。小児の在宅人工呼吸のガイドラインが、カナダで2017年に公表されている7)。米国の「小児の長期在宅気管切開人工呼吸ガイドライン」8)には、退院クライテリアが示されたが、本邦ではそれを満たす家族は限られると推察される。本邦には、成人にも小児にも在宅人工呼吸のガイドラインはないが、「小児の在宅人工呼吸マニュアル」(日本呼吸療法医学会)が2017年に公表された。これは、ガイドラインの作成には、エビデンスの高い報告や自国の報告に基づいて委員会の意見を総合する必要があるが、現時点では困難と考え、マニュアルにした経緯がある、本邦の長期人工呼吸管理は在宅だけでなく、病院や施設に多く、複雑な様相を呈している。このような事情をふまえ、ドイツの「慢性呼吸不全に対するNPPVと気管切開人工呼吸のガイドライン」の小児の項目から、重症児(者)の長期呼吸管理において共有したい部分を以下に抜粋する9)10)。「長期の換気不全を認める小児の疾患は複雑で多様な障害を持つ。しかし、疾患にかかわらず、人工呼吸は呼吸機能障害を正常化し、血液ガスを適正化し、睡眠を改善し、病理を軽減する。それにより、入院期間あるいは呼吸不全による体調不良期間を短縮し、死亡を減らし、QOLを促進する。小児における慢性呼吸不全の診断は、肺活量や咳の評価などは正確にできないため、血液ガス(非侵襲的に経皮的な酸素飽和度や炭酸ガス分圧測定も含め)を測定する。ただし、呼吸の残存機能を測定できないため、ストレスがかかる状態(発熱、上気道炎、手術)で、代償機能が急速に破たんし、人工呼吸を要したり、条件調整を要することがある。小児の長期人工呼吸は、成人と異なり、専門的な多科多職種が関わるセンターで行う。小児におけるNPPVや機械による咳介助への協調性の欠如は、経験あるセンターでは問題にならない。適応が的確で、好みに合わせて調整することにより、大半の子どもは治療の効果を得て耐容し、要求もする。子ども自身で訴えが改善することに気づくと、さらに受け入れが改善する。ただし、小児のNPPVの人工呼吸器の選択において知っておくことは、①筋力低下のある子どもではトリガー困難、②一回換気量が少なく、呼吸数や呼吸の深さが不規則、③覚醒時に睡眠時より高い換気補助を要する場合もあること、④睡眠のステージ、発熱、感染により換気補助の必要度変化、などである。また、NPPV使用者が成人へ移行する場合、境目なく専門性の高い熟練のすべてが引き継がれるようにする。小児において、気管切開は発達の重大な障害となる。発語や嚥下の障害となり、緊密な観察やサポートを要する。日常の活動(水泳など)は非常に限られた環境でのみ可能で、幼稚園や学校に、質が保障された看護師の付き添いを常に要する。気管切開は、子どものボディー・イメージに明らかに影響し、周囲の関係者にかなりの負担となる。さらに、成人よりチューブ関連の緊急事態(チューブ閉塞、事故抜去、チューブから誤嚥や気管内異物)が頻回に起こる。このため、気管切開は、限られたものにすべきである。成人と同じく、気管切開は、あらゆるNPPVの選択肢を使い尽くした後にする。気管切開の決定プロセスは、子ども、両親、セラピストの個人的考え、倫理、宗教的信念により形成される。進行性の基礎疾患や、発達の予後の見通しが好ましくない場合葛藤に発展する。医師にとって、苦痛を軽くするのでなく長引かせるかもしれないというジレンマが生じる。両親にとって、気管切開をしないと子どもの命に危険が差し迫っている場合、気管切開をしない選択は困難になる。そこで、臨床倫理委員会や緩和ケアチームの組み入れが、この手ごわく悩ましい決定プロセスの助けになる」。ドイツには、在宅人工呼吸センター(ICUやウィーニング専門部門も含む)の認定制度がある。さらに、気管切開人工呼吸専門部門とNPPV専門部門を備えた新たな在宅人工呼吸センターの認定制度が提案されている。重症児(者)の擁護と家族や関係者のQOLに最も影響する専門呼吸ケアは、欧米先進国において経験と研究が蓄積されつつあることを認識し、真摯に取り組む必要がある。
著者
多田羅 勝義 石川 悠加 今井 尚志 河原 仁志 神野 進 西間 三馨 福永 秀敏
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.57-62, 2007

<p>国立病院機構所属施設では,平成17年7月1日時点で89施設に2164名の長期人工呼吸患者が在院しており,昨年度より約100名増加していることが判明した.この内363名は,10年以上人工呼吸を続けている患者で,最長は27年であった.疾患別にみると,筋ジストロフィー1156名,筋萎縮性側策硬化症402名,重症心身障害児者304名であった.使用人工呼吸器は74.5%がポータブル型で,人工呼吸方法は,気管切開が61.3%,非侵襲陽圧人工呼吸が37.1%で,半数以上がアシストコントロールモードであった.人工呼吸下での外出,入浴の実施率から患者QOL向上への配慮が伺われる一方,モニタリング実施率の低さ等,安全管理上の問題点が明らかになった.</p>
著者
片山 望 三浦 利彦 本間 優希 石川 悠加
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.DbPI1367, 2011

【目的】<BR> 高位頸髄損傷の長期呼吸管理は、気管切開下での人工呼吸管理となることが多い。しかし、侵襲に伴う合併症が起こり得るだけでなく、様々なADL上のデメリットが生ずる。今回、当院で高位頸髄損傷における気管切開人工呼吸(TPPV)管理から、非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)へ移行した症例を経験したので報告する。<BR>【方法】<BR> 症例は45歳男性。ラグビーの試合中に受傷し、搬送先の病院でC3頸髄損傷(ASIA-A)と診断され、術後も自発呼吸無くTPPV管理となった。第41病日、人工呼吸器離脱と在宅療養移行目的で大学病院へ転院するが、離脱困難。第252病日、長期療養目的で転院。第411病日、気管カニューレによるトラブル、在宅ケアシステム確立困難にて家族・症例の希望と日本せきずい基金からの紹介により、NPPVへの移行目的で当院へ転院。当院よりDr・Nsが迎えに行き、民間航空や障害者移送サービスを利用し搬送となった。当院入院時は自発呼吸無く、C4以下の運動知覚麻痺の完全四肢麻痺。読唇にて意思伝達可能。カフ圧抜くとわずかに発声も可能。吸引時、気切孔からの出血あり。入院当日から気管切開チューブ抜去の準備として、カフ圧・酸素投与量の軽減、SpO2が確保できるように人工呼吸器の機種変更や設定を行った。頭頸部側方から撮影したX-Pで上気道狭窄がないことを確認し、気管カニューレをボタンで塞ぎ、NPPVの条件やインターフェイスの調整を行った。さらに、カニューレ抜去後、上気道の分泌物を喀出する為に器械的な咳介助(mechanical insufflation-exsufflation:MI-E)の導入も行った。<BR>【説明と同意】<BR> 症例とご家族へ事前に本報告の目的と内容を説明し、同意を得た。 <BR>【結果】<BR> 入院5日目、カフ圧なし、気切孔を塞いだ状態で、ナーザルマスクにてNPPV装着。胸腹部の呼吸運動、SpO2の維持を確認して気管切開チューブ抜去。気切孔には皮膚潰瘍治療用ドレッシング材を貼付。抜去直後、SpO2は98~99%(room air)、HR60bpm前後、PtCO2は40~44cmH2Oと安定した。その日の夜にSpO2が80%台まで低下。MI-EとPTによる徒手介助にて、血性粘調痰喀出し、SpO2は正常値となった。しかし、分泌物貯留によるSpO2の低下と呼吸苦が繰り返されるため、病棟NsかPTによる一時間毎と、モニター下でSpO2<95%になった場合にMI-Eを行った。抜管2日目には車いすに乗車し、食事もNPPV下で摂取可能となった。抜去後数日は、MI-Eの回数は平均10回/日と多かったが、抜去後2週間後からは、食事などでムセない限り3回/日で安定。抜去後18日目、気切孔は自然閉鎖。呼吸機能については、(1)肺活量、(2)最大強制吸気量(maximum insufflation capacity:MIC)、(3)咳の最大流量(cough peak flow:CPF)を計測。抜去直後(1)150ml(2)1,000ml(3)0L/min、抜去後2週間後(1)200ml(2)1,500ml(3)75L/minであった。<BR>【考察】<BR> TPPVはカニューレや頻回の吸引による気道の潰瘍、肉芽の形成、感染や気道分泌物の亢進、発声困難や嚥下障害などあらたな合併症を引き起こすことが多い。また、医療的ケアの困難さから、介護者の負担やケアシステムの構築に問題が多い。それらの問題点をNPPVでは回避することができるが、NPPVの安全で効果的な活用には、気道クリアランスの問題が挙げられる。本症例は呼吸筋の麻痺に加えて、約一年間の気管切開による喉咽頭機能の低下があり、徒手的な呼気・吸気介助では、排痰は困難であった。そこで、抜管時には気道クリアランスの維持として、MI-Eと徒手介助を集中的に行うことで再挿管に至らず、NPPVへの移行が可能となった。また、気道確保の手段が確立していることで、経口摂取を試みることができ、数日後には発話も聞き取りやすい程に喉咽頭機能の回復がみられた。本症例のように、痰の自己喀出が困難であっても、気道クリアランスが維持できる手段を確保していれば、高位頸髄損傷はNPPV管理下でも十分なQOLを維持できると考える。今後は、家族へのMI-E指導や、症例に胸郭や肺のコンプライアンスを維持するための深吸気練習の指導、また、呼吸器を使用せずに吸気を行なえる舌咽頭呼吸を獲得することで、人工呼吸器からの離脱が短時間でも可能になれば、食事や入浴などのADL、リスクマネジメントにも有用であり、在宅生活を可能にするケアシステムが構築される可能性も出てくると思われる。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 欧米では神経筋疾患の分野において、NPPVやMI-Eの使用により気道クリアランスを維持することで、気管内挿管の回避や抜管を促進し、QOLの維持、医療コストの削減になるという報告がある。しかし、本邦における理学療法の介入の報告はまだ少ない。本報告は、今後の頸髄損傷の医療的・社会的ケアシステムの構築について意義のある知見を提供できるものと思われる。
著者
石川 悠加
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.72-76, 2015-04-30 (Released:2015-09-11)
参考文献数
23

機械による咳介助(mechanical insufflation-exsufflation: MI-E)は,咳機能低下に対する唯一の補助として,最近の国内外のガイドラインに推奨される.下気道の痰の移動だけでなく,上気道のクリアランスを維持するクリティカルな手段とされる.MI-Eを使用することにより,コントロール群に比べて,抜管後の再挿管率やICU滞在日数を減らす効果がある.また,自然の咳より腹圧を上げずに排痰できるため,腹部術後の肺合併症予防にも使用できる.一方,MI-Eの高い陽圧陰圧による声帯や咽頭喉頭の閉鎖も観察されることがわかった.そこで,MI-Eに際して,呼気時に高い流量を得るための至適圧の検討や患者及び医療スタッフの習熟が重要となる.最近,咳の最大流量(cough peak flow=CPF)表示,吸気呼気の高頻度振動,咳トリガ,吸気流量調節ができる新たな機種が市販された.これまでのMI-E機器で効果が不十分であった患者群に対しても,CPFを高める新たな機器条件の検討やチーム医療による工夫を含めた臨床研究が求められる.