著者
岡部 万喜 佐藤 啓造 藤城 雅也 入戸野 晋 加藤 礼 石津 みゑ子 小渕 律子 福地 麗 大宮 信哉 李 暁鵬 九島 巳樹
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.190-210, 2014 (Released:2014-09-27)
参考文献数
25

近年,医療事故訴訟が絶対数の増加にとどまらず,相対的にも増加している.しかし,どのような事例で刑事責任を問われ,あるいは民事訴訟を提起されるかを,実際の裁判例と医療死亡事故解剖例の両面から分析した報告はみられない.本研究では医療訴訟が提起される確率の高い,医療死亡事故と重い後遺障害が残った事例の判例を分析するとともに,法医学講座で扱われた医療関連死の解剖12例を分析することにより,どのような事例で刑事責任を問われるか,あるいは高額な損害賠償を命じられるか,もしくは低額の慰謝料の支払いにとどまるか,さらに,まったく責任を問われないか,裁判と解剖の実際例の分析をもとに同種の事故発生および訴訟提起を予防することに重点を置いて検討した.その結果,まず判例の分析から,診療を拒否すると民事責任を問われる可能性があること,患者本人に詳細な病状説明が困難な,たとえば末期がんの事例では家族への説明義務を果たさないと民事責任を問われること,昭和末期から平成10年代にかけ癌の告知が家族主体から本人主体へと移行し,時代の変化に対応した告知を行わないと民事責任を問われること,その時点での医療水準に適った医療を行わないと民事責任を問われること,治療に際し,患者は医師に協力しないと損害賠償・慰謝料の支払いを受けられないこと,医療行為と患者の死亡との間の因果関係の存在が証明されなくても,医療水準に適った医療が行われていれば,患者がその死亡の時点で,なお生存していた可能性が証明されるときは医師が不法行為による損害を賠償する責任を負うこと,看護師の薬物誤認が原因の過誤であっても指示した医師も民事責任を問われる可能性のあること,医師の指示自体が誤っていても,それを医師に確認せず,そのまま処置をした看護師にも民事責任が問われること,医療過誤刑事裁判では「疑わしきは罰せず」という刑事裁判の鉄則が適用されず,被告の過失というより医療機関の設備や医療システムの問題が主因の場合でも直接,医療行為に当たった医師,看護師が刑事処罰される危険性があること,重大な過誤の場合,主治医だけでなく,指導医,さらに診療科長まで刑事処罰される危険性があることなどが明らかとなった.次に,解剖例の分析から,事故および訴訟の予防対策として,医師は看護師から要請があったら必ず真摯に診察すること,医師は常に患者の急変の可能性を念頭におくこと,看護師も患者の病状を常に念頭に置き,当直医に連絡して診察がないときは主治医まで連絡すること,医師は必要でない治療を行わないこと,医師は自分の専門領域の疾患だけにとらわれず,患者の全身,心の中まで診ること,腹痛や頭痛を訴える患者には医師も看護師も特に慎重に対応することなどが挙げられた.以上の結果から,民事訴訟の発生を防ぐには,医師や看護師らの医療従事者は至誠一貫の精神のもと,常に患者および家族に対して誠実に対応するとともに,医療従事者間の壁を取り除き,チーム医療によるダブルチェックシステムを構築することが肝要であると考えられる.
著者
高橋 方子 菅谷 しづ子 鈴木 康宏 石津 みゑ子 布施 淳子 高橋 和子
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.5_771-5_782, 2017-12-20 (Released:2017-12-27)
参考文献数
31

目的:本研究はわが国の事情に即したバリューズヒストリーの開発を目的とした。バリューズヒストリーは終末期医療の意思決定の根拠となる価値観を示す価値観歴である。方法:訪問看護師に対する面接調査および米国のバリューズヒストリーから作成した項目について,デルファイ法による質問紙調査を実施した。対象は訪問看護認定看護師397人・在宅看護専門看護師21人の合計418人とした。結果:「健康上の問題と向き合う姿勢」「健康上の問題に対する医師からの説明内容」「余命についてどう思っているかとその理由」「自分の意思決定の特徴」「自分のコミュニケーションの特徴」など35項目が日本版バリューズヒストリーとして選択された。考察;日本版バリューズヒストリーは,病名や病気の見通しなどについて本人に事実を伝えるとは限らないわが国の状況や,周囲の人の状況や調和を優先するといった日本人の意思決定の特徴が反映されていると推察された。
著者
米澤 弘恵 石津 みゑ子 石津 みゑ子
出版者
獨協医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

感染予防隔離患者の看護ケアの質を保証するために、隔離状況に伴う臨床看護師の倫理的意思決定プロセスの明確化、隔離状況における看護師の倫理的行動意図と実践力との関連性の解明と、隔離に伴う看護倫理的実践力育成への教育プログラムを構築した。
著者
石津 みゑ子 米澤 弘恵
出版者
浜松医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

【研究目的】在宅高齢者の主観的睡眠感と対処行動を把握することによって,高齢者が質のよい睡眠を得て,健康でQOLの高い生活を送るための資料とする。【対象と方法】静岡県H市中央地区に在住する65歳以上の男女を対象に本調査に協力が得られた259人を初回調査の対象とした。次年度以降は,前回の調査対象のうち追跡調査に協力が得られた人を対象に行った。主観的睡眠感の全問回答が得られた1年目,2年目の126人と3年目123人(入院,死亡による3人を除外)を分析対象とした。【結果および考察】1.初回調査時の対象者の年齢は65〜94歳に分布し,平均74.0±6.8歳,2年目は75.0±6.8歳,3年目には76.0±6.7歳を示した。性別では1,2年とも男性が42人(32.5%),女性は84人(66.7%)であった。3年目では男性40人(32.5%),女性83人(67.5%)であった。2.家族構成は,3年のうちで最も多かったのは,配偶者がなく同居家族がいる人で,3年目では46人(37.4%)であり,他の2年よりも有意(p=.05)に増加していた。3.健康度自己評価は,3年間とも「普通」以上の健康の人が8割弱を占めていた。4.老研式活動能力指標は,平均得点が初回調査時11.1±2.8点,2年目は10.7±3.0点,3年目では10.5±3.2点となり年を経るにつれて有意(p=.05)に低下していた。5.主観的睡眠感は,3年間とも早朝の目覚め,中途覚醒後の寝つきの悪さを訴える人が多かった。主観的睡眠感の平均得点は,初回調査時で696.9±122.0点,2年目は698.2±116.1点,3年目は704.7±125.3点であった。6.対処行動では,いつも安定剤や睡眠薬を飲む人は,初回調査時7人(13.0%),2年目11人(20.4%),3年目では11人(16.4%)であり,すぐ薬に頼る人が少ないことが示された。