著者
磯村 尚子 渡邊 謙太 西原 千尋 安部 真理子 山城 秀之
出版者
The Japanese Coral Reef Society
雑誌
日本サンゴ礁学会誌 (ISSN:13451421)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.41-48, 2010

沖縄県名護市大浦湾のアオサンゴ群集は,その大きさと特異な形状から保全が求められており,大浦湾のサンゴ礁生態系を代表する存在である。2009年に見られたアオサンゴの白化は,オオギケイソウがサンゴ表面に繁茂することでサンゴにダメージを与え,健康な状態を阻害された結果起きたものと考えられている。今回,アオサンゴ上にオオギケイソウとは異なる藻体が発見された。慶良間諸島で確認されたアミメヒラヤギにからむクダモの状況と類似していたことから,藻体はシアノバクテリアであると考えた。サンゴ礁域では,栄養塩の増加によって大発生したシアノバクテリアがサンゴにからみついてサンゴが死亡した例や,複数属のシアノバクテリアが引き起こす致死性の病気が知られている。そこで本研究では,大浦湾のアオサンゴ群体表面とその周辺の岩盤から採集した藻体の形態を顕微鏡で観察し,また16SrDNA配列を調べて,既知のシアノバクテリアの配列と比較して藻体の正体を明らかにし,さらにシアノバクテリアがアオサンゴへ及ぼす影響について検討することを目的とした。解析の結果,アオサンゴと岩盤から得られた藻体は,レプトリングビア属を始めとした複数属および複数種からなるシアノバクテリアのコンソーシアムであることがわかった。この中には,海水中の栄養塩濃度が高まると大量発生することもある<I>Lyngbya majuscula</I>や<I>Hydrocoleum lyngbyaceum</I>が含まれていた。今回確認されたシアノバクテリアがアオサンゴ群体に与えている影響は現段階では小さいと考えられるが,微少な生物ながらその繁茂については警戒が必要である。
著者
伊野波 佳介 TAN Ee Suan 和泉 遼太郎 武方 宏樹 竹村 明洋 磯村 尚子
出版者
日本ベントス学会
雑誌
日本ベントス学会誌 (ISSN:1345112X)
巻号頁・発行日
vol.76, pp.59-72, 2021

<p>Corals are known to synchronously undergo gonadal development during a period of 1 year and release gametes simultaneously during the spawning season. Synchronization of reproduction may be caused by changes in the external environment; particularly, the effects of light on reproduction have been extensively reported. In this study, we specifically focused on the type of wavelength, with the intention to elucidate whether there are wavelengths that promote reproduction in two <i>Acropora</i>. We exposed coral colonies to four types of light-emitting diode conditions with wavelengths suitable for keeping coral: "Coral," "Reef," "Fresh," and "Sunset," and monitored gamete maturation every 3 months, as well as the number of released gametes during the spawning season. In <i>A. intermedia</i>, "Sunset" conditions promoted gamete maturation; however, there was no spawning observed. In contrast, in <i>A. muricata</i>, the same conditions promoted a series of processes ranging from gamete maturation to gamete release. In "Fresh" and "Coral" conditions, gamete maturation was also promoted. "Sunset" condition is characterized by longer wavelengths within the red-light visible spectrum, which is relatively predominant in the shallow waters where the two target species live. Therefore, this indicates that these longer wavelengths represent a light stimulus that promotes reproduction. By contrast, gamete maturation was promoted by even shorter wavelengths in <i>A. muricata</i>; therefore, further experiments considering different light sensitivities among species and growth promotion through the photosynthesis of zooxanthellae are recommended. It is also suggested that, in addition to wavelength type, spawning may be affected by water temperature increase after winter season.</p>
著者
磯村 尚子 殿岡 裕樹
出版者
沖縄工業高等専門学校
雑誌
独立行政法人国立高等専門学校機構沖縄工業高等専門学校紀要 (ISSN:1881722X)
巻号頁・発行日
no.8, pp.1-9, 2014-03

高等教育の現場において,バイオテクノロジーの有用性と社会的な影響を学ぶため,遺伝子組換え技術を活用した実験が広く行われている。その実施に当たってはカルタヘナ法に則った厳しいルールが定められるが,カルタヘナ法は,生物多様性条約(CBD)の一部であり,組換え生物の拡散防止は生物多様性の保護という大きな国際的合意に包含される考え方である。そこで本稿では,生物多様性条約の目指す3つのゴール,すなわち1.生物多様性の保護,2.生物多様性の要素の持続的な利用,3.公正で衡平な利益配分,についてこれまでの議論をふまえて全体を俯瞰し,研究や教育上重要と思われる視点と論点を述べる。生物多様性がわれわれ人類にとってかけがえのない財産であるという考え方(エコロジー),人間生活と生物多様性とを両立させるためのマネジメントの観点(ポリシー),更には生物多様性から生じる利益をどの様に共有するかといった論点(エコノミー)のそれぞれについて,近年の動向を紹介し,全体把握の一助としたい。また遺伝資源をめぐるいわゆる南北問題について,利用国と保有国の中間に位置する沖縄のポテンシャルについても簡単に述べる。
著者
磯村 尚子 殿岡 裕樹
出版者
沖縄工業高等専門学校
雑誌
独立行政法人国立高等専門学校機構沖縄工業高等専門学校紀要 (ISSN:1881722X)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.19-26, 2013-03

ネギ属植物のうちタマネギとネギはわが国の農業における主要な野菜品目であり、両者を合わせると年収133万トン、年商2,000億円の市場価値を有している。沖縄県でも伊平屋島や伊是名島でタマネギの産地化が試みられるなど、ネギ類に関する取り組みがなされているが、生産量は年間539トン、生産効率は全国平均比で半分程度とふるわず、この原因としては本州に適したタマネギやネギの栽培品種が沖縄の気候風土に合致していない可能性が考えられた。タマネギには従来栽培されているものの他に、主として熱帯〜亜熱帯域で栽培されているシャロットと呼ばれる分球性のグループが知られており、高温・多湿に強く土壌病害にも抵抗性を持つことから沖縄の気候風土に合致した新たな品目になりうると考えられた。本研究では、シャロット及びシャロットとネギの雑種を用いた栽培試験を行い、その特性を調査した。栽培の結果、シャロットは分球を形成し雑種はネギ様の成長を示すことなどを明らかにした。これらの結果は沖縄におけるシャロット栽培の可能性を示すものであった。
著者
日高 道雄 伊藤 彰英 山城 秀之 酒井 一彦 中村 崇 磯村 尚子 波利井 佐紀 新里 宙也 井口 亮
出版者
琉球大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、様々な生活史特性を持つサンゴのストレス応答を、特に初期生活史に焦点を当てて調べた。褐虫藻の存在がプラヌラ幼生のストレス感受性を高めること、褐虫藻のタイプによりサンゴ幼群体のストレス応答が異なること、ストレス特異的に反応して発現が変化する遺伝子があることを発見した。さらに群体型や遺伝子型などの違いによるサンゴのストレス応答の違い、各種ストレスによる群体死亡要因や新規加入の変動などを解析し、野外の群集モニタリング結果と関連づけた。