著者
佐々木 義之 祝前 博明
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.93-99, 1980
被引用文献数
4

和牛産肉能力検定直接法の成績を用いて増体率(ADG)および飼料の利用能力に関する種雄牛の育種価を推定した.鳥取県種畜場および宮崎県総合農試肉畜支場で昭和46年から51年までの6年間に検定された雄子牛そらそれ135頭および174頭の成績を用いた.育種価を推定した種雄牛はそれぞれ14頭および23頭であった.検定成績は補正係数を用いて,あらかじめ検定期間,季節および開始時日齢につき補正を行った.育種価の推定法としてはRENDERSON (1973)のMixed Model Solution(MMS)による方法(BLUP法)を用いた.その際,相加的血縁行列を用いることにより種雄牛間の血縁を考慮したが,それをしなかった場合,さらに,単に通常の最小自乗分散分析法による最小自乗恒数を育種価推定値と見做す場合についても検討してみた。種雄牛分散に対する誤差分散の比(σε2/σμ2)は全国の検定牛から推定された分散成分を用いて算出した.種雄牛相互間の平均血縁係数は鳥取および宮崎でそれぞれ14.0%および3.0%であった.ADGに関する育種価にもとづき種雄牛に序列をつけると鳥取および宮崎の上位3頭は,それぞれ昭栄1,吉光,吉徳および第18明石,前谷,初栄であった.しかしながら,相加的血縁行列を用いないBLUP法あるいは通常の最小自乗分散分析法による最小自乗恒数では,それらの序列が異なり種雄牛間に濃い血縁関係のある鳥取の場合は,とくにその違いが顕著であった.形質ごとに求めた種雄牛の序列を比較するとADGと終了時体重との間,TDN要求率とDCP要求率との間,さらにADGと飼料要求率との間には高い正の順位相関が認められたが,ADGと粗飼料摂取率との間の相関はむしろ負の傾向を示した.
著者
野村 哲郎 祝前 博明
出版者
京都産業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

自然選択は、生物の適応的進化を説明する上で中心的な役割を果たしてきた。しかしながら、野外で実際に自然選択が働いたことを示す実例は極めて少ない。本研究では、ナミテントウの鞘翅斑紋多型における地理的勾配ならびにその年代変化を全国規模で調べ、環境変化とくに気候の温暖化との関係について調査した。本州、四国および九州のほとんどの採集地において、過去60年の間に黒化型(二紋型、四紋型、斑型)の遺伝子頻度が上昇し、非黒化型(紅型)の遺伝子頻度が低下していた。遺伝子頻度に見られた変化は、採集地に近接した気象測候所における繁殖季節の気温の上昇と呼応する傾向を示した。これらの結果は、自然選択による小進化の一例になり得るものと考えられた。
著者
和食 雄一 金子 良則 杉山 稔恵 山田 宜永 祝前 博明
出版者
Japanese Society of Zoo and Wildlife Medicine
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.57-67, 2014
被引用文献数
3

トキ(<i>Nipponia nippon</i>)は 1981年にわが国の野生下から絶滅し,2003年には最後の日本産個体が死亡した。そこで,わが国は,国家プロジェクトという位置づけのもとに,中国の飼育下個体群由来の 5羽をファウンダーとする飼育下個体群を創設している。本研究では,遺伝的多様性を保持するために必要な収容能力と今後導入すべきファウンダー数を予測する目的から,国内飼育下個体群の人口学的パラメーターを推測した。その結果,著しい個体群成長が認められた一方,世代時間および有効集団サイズには低い値が認められた。したがって,これらのパラメーターの上昇を含めた遺伝的多様性の増加と維持のための努力の必要性が示唆された。また,既存の 5羽のファウンダーが非近交個体で相互間に血縁関係がないと仮定し,収容能力を 200羽とした場合には,今後一切中国から個体を導入しない条件下では遺伝子多様性が 100年後に 60%程度にまで低下すると予測された。より信頼性の高いパラメーター値を得るために人口学的分析の継続が必要であるが,本研究の結果から判断する限り,新たなファウンダーの継続的な導入が必須であると考えられた。