著者
木下 裕三 穂坂 正彦
出版者
横浜市立大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

電気刺激法によるラット(12週齢ウィスター系)精巣上体尾部からの精子回収では、ピーク電圧70V、パルス幅250μs、20Hz、30秒の刺激で回収精巣上体液量平均10.5±2.2μl、回収精子数46(±14)×10^6と効率的に精子を回収することが可能であった。この手法においては、回収精子に不純物が少なくF12に分散させるだけで運動精子が得られることが特徴である。電気刺激法では刺激時に精子に電位が加わるため、高電位では精子の運動性をそこなうことが予想される。そこで精子にたいする電位負荷がヒト精子の運動性に及ぼす影響を調べると、精子の運動性喪失の機序は大きく二つに分類され、一つは、低イオン強度下での高電位負荷時に見られる運動性喪失で、運動精子の50%が運動停止に要する電位勾配は160V/2mmであった。これにたいし高イオン強度下では電極周囲においてのみ認められて電極間では運動性喪失が起こりにくいことから、高イオン強度下での電気刺激のほうが運動精子回収法として適していることが明らかとなった。ヒトに対する応用では、症例数が少なく断定的な結論をうることができなかったが、少量の逆行性射精を伴う機能性閉塞症例で、本手法により高濃度、高運動率の精子回収が可能であることが多い傾向にあった。これにたいし、完全閉塞例では精巣上体管液が多量に回収されても、中に精子が存在しないことが多く、また非閉塞例では精巣上体管液の回収自体が困難な症例が多く認められた。したがって、現時点での本手法の適応は傍大動脈リンパ節廓清などによる機能的な閉塞にあるものと考えられた
著者
里見 佳昭 福田 百邦 穂坂 正彦 近藤 猪一郎 吉邑 貞夫 福島 修司 井田 時雄 広川 信 森田 上 古畑 哲彦 熊谷 治巳 塩崎 洋 石塚 栄一 宮井 啓国 仙賀 裕 福岡 洋 佐々木 紘一 公平 昭男 中橋 満
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雜誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.79, no.5, pp.853-863, 1988-05-20
被引用文献数
20

1965年1月より1985年12月までの21年間に横浜市立大学病院及びその関連病院に於いて経験した腎癌550例の遠隔成績と予後因子について検討し,次の結論を得た.1. 全症例の生存率は,5年生存率48%,10年生存率36%,15年生存率27%と、術後5年をすぎても長期にわたり死亡する予後不良の癌である.2. 40歳未満の若年者腎癌では術後2年以上経てから死亡する例はなく予後が比較的良好である.3. 予後不良因子としては,発熱,体重減少,食欲不振,全身倦怠などの症状のほか,赤沈亢進,CRP陽性,α_2-globulinの上昇,AL-P上昇,貧血などがあげられた.ツベルクリン反応陰性,LDH上昇,レ線上の腎の石灰化像などは予後不良因子ではなかった.4. 経腰的腎摘除術と経腹的腎摘除術の遠隔成績はほぼ同じであり,症例を選べば手術は経腰的腎摘除術で十分な場合もあると考えた.5. 4分類法のgrade分類は予後を比較的よく反映した.Robsonのstage分類ではstage IとIIの間に差がなく,stage分類法に欠陥あることを指摘した.6. 腎癌にはslow growing typeとrapid growing typeがあり,前者は予後良好であると安心しがちであるが,それは誤りであり,前者は緩慢なる経過を取るだけであり,術後5年経てから転移や死亡症例が多くなり,長期的にはrapid growing typeの症例の生存率に近づくと理解すべきである.
著者
野口 和美 穂坂 正彦 木下 裕三
出版者
横浜市立大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

幼若ラットのセルトリ細胞培養液(SCCM)中に、成熟マウスのライディッヒ細胞を刺激してテストステロン(T)分泌を促進する因子があることを確認し、その生化学的性質の一部を明らかにした。セルトリ細胞は3週齢の幼若ラット精巣よりトリプシンとコラゲナーゼ処理により得、無血清培地で培養した。分子量1万をカットオフ値とする限外濾過にてSCCMを15倍に濃縮した。ライディッヒ細胞は10週齢の成熟マウス精巣より酵素によらず分離した。濃縮したSCCMをライディッヒ細胞浮遊液(最終密度10^6cells/ml)に加えたところ、37℃3時間のインクベーションにてSCCMの濃度依存性にTの基礎分泌は促進された。上清中のcAMPをRIAにて測定した。その結果、cAMPもTと同様に、添加したSCCMの濃度依存性に上昇した。5×10^7個のライディッヒ細胞をSCCMあるいはLHと34℃3時間インクベーションし、ライディッヒ細胞を分離した。これをホモジナイズして酵素液とした。14C-pregnenolone,14C-progesterone,14C-17α-hydroxyprogesterone,14C-androstenedioneを基質としてそれぞれ3β-HSD,17α-hydroxylase,C17-20 lyase,17β-HSDの酵素活性を測定した。コントロールと比較し、SCCM処理にてはLH処理と同様にこれら酵素活性に変化を認めなかった。すなわちSCCMの作用点はLHと同様にテストステロン生合成の初期段階、すなわちcholesterol→pregnenoloneの過程(ミトコンドリアでのT合成経路)に作用している可能性が考えられた。LHの過剰刺激下ではT分泌がそれ以上に亢進しないこともこれを裏付けるデータと思われる。各種濃度のFSHを4、72、96時間、培養セルトリ細胞に作用させた後新鮮な培養液に交換し、これに分泌された同因子の生理活性を測定して比較検討した。その結果、FSH100mIU/mlを4時間作用させたセルトリ細胞培養液中に有意にライディッヒ細胞刺激因子の生理活性が高かった。その他の条件下ではコントロールと比較していずれも生理活性は高かったが、有意差は認められなかった。
著者
仙賀 裕 里見 佳昭 福田 百邦 絵鳩 哲哉 中橋 満 穂坂 正彦 田中 祐吉 三杉 和章
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雜誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.79, no.11, pp.1818-1823, 1988-11-20
被引用文献数
1

Neuron Specific Enolase(NSE)は神経細胞,神経内分泌細胞のマーカーとして用いられるが,最近正常尿細管細胞また腎癌細胞にも存在することが明らかにされたため,抗NSE抗体を用いた免疫組織化学的技法により腎癌におけるNSEの発現度を検索し,腎癌の組織像とNSEの発現の関係について検討した.全割面標本を作製した23例を対象とした.23例中17例70%に陽性反応を認め,腎癌ではかなりの頻度でNSEが出現することが明らかとなった.low grade群(G1,G2)は15例中9例,high grade群(G3,G4)8例中8例NSEの出現を認めた.high grade群はNSEの発現度が高いため,解糖系の代謝が亢進しているとも考えられた.NSEの発現と予後どの関連については,low grade群で陰性例は陽性例にくらべ若干良好であった.high grade群では全例陽性のため判断はできなかった.抗NSE抗体を用いた免疫組織化学的検索により,腎癌の組織像と臨床経過の関係の一端が明らかにできるものと考えられた.