- 著者
-
竹中 均
- 出版者
- 日本社会学会
- 雑誌
- 社会学評論 (ISSN:00215414)
- 巻号頁・発行日
- vol.61, no.4, pp.386-403, 2011-03-31 (Released:2013-03-01)
- 参考文献数
- 29
従来,社会学と精神分析は対立関係にあると思われてきた.その理由の1つは,社会学が社会に関心をもつのに対して,精神分析は個人に関心をもつと思われてきたからである.だが,社会学と精神分析の本質的違いは,社会学がおもに構造の現状に関心をもつのに対して,精神分析は構造の始まりに関心をもつという違いにある.よって,社会学が構造の始まりに関心を向ける際に,精神分析の知見は役立つであろう.今後,社会学と精神分析が協力できうる主題の一例が,自閉症をめぐる諸問題である.自閉症は個人の脳の機能障害なので,社会学とは無関係のように見える.しかし自閉症の中心的な障害の1つは社会性の障害であり,社会学と無縁ではない.ところが従来の社会学を用いて自閉症を論じることは難しい.そこで,役立つ可能性があるのがジャック・ラカンの精神分析である.ラカン精神分析の基本用語の1つに「隠喩と換喩」がある.とくに隠喩は個人の社会性成立に深く関わる機能である.ラカン精神分析から見れば,自閉症とは隠喩の成立の不調である.じっさい,自閉症者は隠喩を用いるのが得意ではない.隠喩という視点を採用することによって,自閉症をラカン精神分析さらには社会学と結びつけることができる.このような試みは,今後,社会問題として自閉症を考えるうえで重要な役割を果たすであろう.