著者
笹倉 香奈
出版者
法と心理学会
雑誌
法と心理 (ISSN:13468669)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.3-7, 2017 (Released:2019-01-02)

本稿は「トンネル・ヴィジョン」に関する英米における議論を紹介することを目的とする。「トン ネル・ヴィジョン」とは、トンネルの中に入ったときのように視野が狭窄し認知の範囲が狭くなる 状態である。例えば捜査官はある被疑者に焦点を絞り、その被疑者の事件について有罪判決を得る ための証拠を選び出す。他方で、無罪方向を示す証拠を無視したり排除してしまったりする。有罪 への志向は証人や目撃者の取調べや識別手続、被疑者の取調べ、情報提供者への対応に影響を与え ることになる。この状況がトンネル・ヴィジョンであり、冤罪の原因となる。内在的な要因(認知 バイアス)だけではなく、外在的な要因(刑事司法制度を取り巻く様々な制度的な圧力)によって、 トンネル・ヴィジョンは強化される。捜査官のみならず、検察官、弁護人、裁判官など、全ての人 がある結論に固執し、トンネル・ヴィジョンに陥る。欧米では 2000 年代以降、刑事司法における トンネル・ヴィジョンや認知バイアスについての研究が進められてきた。トンネル・ヴィジョンに 陥り、冤罪を生まないようにするためにいかなる方策が必要かという点についての議論も紹介する。
著者
水谷 規男 山口 直也 上田 信太郎 岡田 悦典 京 明 緑 大輔 笹倉 香奈
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究では、刑事法研究者及び実務家からの聞き取り調査をアメリカ、イギリス、オーストラリア、ドイツ等の国々について行い、司法取引制度ないしそれに類似する実務が英米法系の国々においてだけでなく、従来は取引に否定的であると考えられてきた大陸法系の国々においても、司法の効率化のために存在していることを明らかにした。これに対して、我が国で導入が検討されている刑事免責制度や捜査・公判協力型協議・合意制度は、訴追側と弁護側の取引を容認するものであるものの、司法の効率化よりも供述の獲得にウエイトがある点に特徴があることを明らかにした。