著者
鐘ケ江 弘美 松下 景 林 武司 川島 秀一 後藤 明俊 竹崎 あかね 矢野 昌裕 菊井 玄一郎 米丸 淳一
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.115-123, 2022-12-01 (Released:2022-12-22)
参考文献数
30

作物の系譜情報は育種を行う上で必要不可欠であり,特に交配親の選定において極めて重要である.しかし,系譜情報の分析基盤や可視化ツールは少なく,育種家は範囲が限定された系譜図を使用せざるを得ない.本研究では,育種や作物データの解析に系譜情報を広く活用するため,系譜情報グラフデータベース「Pedigree Finder」(https://pedigree.db.naro.go.jp/)を構築した.系譜情報を整備するために語彙やデータフォーマットの統一を行うとともに,品種・系統の標準化されたIDを利用することにより,関連するゲノム情報および形質情報との紐づけを可能にした.系譜情報の整備にはデータモデルとしてリソース・ディスクリプション・フレームワーク(Resource Description Framework, RDF)を採用し,共通性と永続性を高めた上で,グラフデータベースを構築した.グラフデータベースの利用により,系譜情報をわかりやすく可視化し,セマンティック・ウエブ(Semantic Web)技術による外部データベースとの情報統合や高度な検索が可能である.本システムにより系譜情報を収集・可視化することで,系統の育成過程をたどり,遺伝的な近縁性を考慮した交配親の選定や系譜と特性との関係の把握など,品種育成や遺伝研究の意思決定における育種データの統合利用が可能になると期待される.
著者
杉本 和彦 米丸 淳一 坂井 寛章 川原 善浩 鐘ケ江 弘美
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
pp.25.W05, (Released:2023-03-25)

気候変動及び様々なニーズに対応した育種を効率化・加速化するために,データに基づいたスマート育種の育種現場への実装が期待されている.現在,スマート育種を育種現場に実装するための取組みとして,農林水産省においてスマート育種に関する委託プロジェクト(「次世代育種・健康増進プロジェクト」のうち民間事業者等の種苗開発を支える「スマート育種システム」の開発,平成30年~令和5年)が実施されている.本ワークショップでは,当該プロジェクトを構成する2つの研究課題である「育種ビッグデータの整備及び情報解析技術を活用した高度育種システムの開発」(略称:BAC)及び「民間事業者,地方公設試等の種苗開発を支える育種基盤技術の開発」(略称:DIT)について概要を紹介し,当該プロジェクトの予算で開発を行っている3種の育種ツール,育種情報の集約・解析支援を行う育種情報管理支援システム「BRIMASS」,育種の家系図情報を表示する系譜情報グラフデータベース「Pedigree Finder」及び有用遺伝子の品種間多型情報を整理した有用遺伝子カタログと可視化ツール「アリルグラフ」について説明する.また,3種の育種ツールについてはPCを使った実習も合わせて行う.
著者
米丸 淳一 上山 泰史 久保田 明人
出版者
東北農業研究センター
雑誌
東北農業研究センター研究報告 (ISSN:13473379)
巻号頁・発行日
no.113, pp.17-28, 2011-03
被引用文献数
1

「東北1号」は、イタリアンライグラスの優れた消化性及び飼料特性とメドウフェスクの優れた越冬性の両形質を付与した採草用品種を目標に、海外で育成されたフェストロリウム品種(x Festulolium Aschers. et Graebn) の後代から選抜育成した国内初のフェストロリウム品種である。東北農業研究センターにおいて育成され、2009年7月22日に品種登録申請を行った。年間乾物収量は、我が国唯一の流通品種である「バーフェスト」に比べて3年間6場所の試験平均で約10%多収である。播種翌年が最も多収で、年次経過とともに収量は低下するが、「バーフェスト」に比べてその程度は小さい。夏期が高温となる地域では利用2年目の越夏後の衰退が著しい傾向がみられるが、それ以外の地域では3年を経過しても100kg/a程度の収量が期待できる。出穂始は「バーフェスト」と同時期である。高い出穂期草丈、低い無芒個体率、及び高い根の蛍光反応率など、イタリアンライグラスに類似した表現型を示す。北東北における越冬性及び雪腐病抵抗性は「バーフェスト」よりもやや劣るが、低標高地や南東北以南の中標高以下では越冬に支障はない。耐湿性、冠さび病及び葉腐病抵抗性は「バーフェスト」よりも優れる。本品種は、北東北の低標高、南東北の太平洋側及び、中標高地域、関東東山地域の中高標高地(概ね500m以上)の転作田や飼料畑における採草用草種としての普及が見込まれる。