著者
米田 幸雄 荻田 喜代一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.110, no.2, pp.45-57, 1997 (Released:2007-01-30)
参考文献数
49
被引用文献数
1 1

In eukaryotes, protein de novo synthesis is mainly controlled at the level of gene transcription by transcription factors in cell nuclei. Transcription factors are nuclear proteins with abilities to recognize particular nucleotide sequences at promoter or enhancer regions on double stranded DNAs, followed by modulation of transcription of their inducible target genes. These transcription factors are categorized into 3 different major classes according to their unique protein motifs. In this article, we have outlined the signal responsiveness of particular transcription factors in the brain. Indeed, nuclear transcription factors rapidly respond to a variety of extracellular signals carried by neurotransmitters, hormones and autacoids as a third messenger in frequent situations. Moreover, delayed neuronal death could involve mechanisms associated with modulation of de novo synthesis of target proteins by the transcription factor activator protein-1 in particular hippocampal subregions after ischemia. Accordingly, it thus appears that transcription factors may play a critical role in long-lasting consolidation of transient signals through modulation of de novo synthesis of inducible target proteins in the brain.
著者
米田 幸雄 荻田 喜代一
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

薬物療法低反応性の精神分裂病陰性型(2型)の発症に、脳内N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)型レセプターの異常な活性低下が関与する可能性を追究する目的で、脳内における遺伝子転写調節に着目した。転写制御因子は、細胞核内で遺伝子DNAからmRNAへの転写を制御する核内蛋白質である。実験動物にNMDAを全身的に適用すると、転写制御因子activator protein-1(AP1)のDNA結合能が、脳内各部位の中でも特に海馬において選択的に増強された。実体顕微鏡下における凍結脳切片からのパンチアウト法を用いて解析したところ、AP1結合増強は海馬の歯状回顆粒細胞層においては強く認められたが、CA1野およびCA3野錐体細胞ではこのような増強は見られないことが明らかとなった。歯状回におけるAP1結合上昇は、投与後2時間をピークとする一過性の現象であり、投与後4時間目にはほぼ消失したが、錐体細胞層ではいずれの経過時間でも、著明なAP1結合上昇は観察されなかった。NMDAアンタゴニストを前投与すると、NMDAによる歯状回AP1結合増強は完全に阻止された。免疫組織化学的検討により、NMDA投与は歯状回顆粒細胞層においてのみ、選択的にc-FosおよびC-Jun蛋白質を強く発現する事実が判明した。また、NMDAを全身適用すると、その後動物は「tail biting」のような異常行動を示した。以上の結果より、精神分裂病のような脳機能長期的変化の出現メカニズムには、特定機能蛋白質の生合成変動が、深く関連する可能性が示唆される。
著者
荻田 喜代一 米田 幸雄
出版者
摂南大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

ddY系雄性マウスにKA(30mg/kg)を複腔内投与し、一定時間経過後に海馬および大脳皮質から細胞核抽出液およびミトコンドリア抽出液を調製した。ゲル移動度シフト法によりそれぞれのAP-1DNA結合能を解析したところ、KA投与はいずれの部位でも細胞核抽出液およびミトコンドリア抽出液中のAP-1DNA結合を著しく増強させることが判明した。AP-1DNA結合能はKA投与後1時間で有意に増強し、その増強は3日後まで持続した。また、スーパーシフト法およびウエスタンブロット法により、本結合増強に関与するAP-1結合蛋白質はc-FosおよびFos-Bであることが判明した。さらに、KA投与動物で発現したc-Fos蛋白は細胞核内ばかりでなくミトコンドリアのマトリクス内にも存在することが免疫電子顕微鏡法により明らかとなった。次に、ミトコンドリアDNA(mtDNA)へのAP-1の結合について解析を進めた。mtDNAの転写調節部位と考えられる非翻訳領域についてAP-1認識配列を検索したところ、10箇所にAP-1類似配列(MT-1〜MT-9と命名)が見出された。これらの類似配列の中で、MT-9がAP-1結合に対して最も著明な拮抗作用を示した。また、放射性MT-9プローブを用いたゲル移動度シフト法は、KA投与動物から得られたミトコンドリア抽出液中にMT-9結合蛋白質が存在すること、およびそのMT-9結合蛋白質がAP-1構成蛋白質であるc-Fos、Fos-B、c-Jun、Jun-BおよびJun-Dにより構成されることを示した。さらに、ゲノム免疫沈降法によりc-Fos蛋白質がmtDNAに結合することも確認された。以上の結果より、カイニン酸シグナルにより発現した転写因子AP-1は細胞核のみならずミトコンドリア内にも移行し、mtDNAの転写調節領域に結合することが明らかとなった。これらの事実は、グルタミン酸シグナルがmtDNAの転写に影響を与えることによりミトコンドリア機能変化を起こす可能性を推察されるものである。