著者
永田 久紀
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.86, no.1, pp.1-10, 1978 (Released:2008-02-26)
参考文献数
44

体温調節の面からみると,ヒトはもともと寒い地域では生存できない生物である。今日人類が地球上のあらゆる地域で生存し繁栄しているのは,人類が衣服,住居,暖冷房などによって気候を人工的に調節する方法を考案したからにほかならない。この一事をみても衣服がヒトの体温調節の補助手段として非常に重要なものであることがわかるが,衣服の体温調節に果す役割が科学的に解明されはじめたのはそんなに古い時代のことではない。勿論,19世紀にMaxvon Pettenkoferが近代衛生学を確立した時点ですでに衣服の重要性は認識され,次いでMax Rubnerによって衣服の研究が行われたが,本格的に衣服の衛生学的,体温生理学的研究が始められたのは,わが国では昭和のはじめ頃,世界的には(主に米国で)第2次世界大戦のはじまる少し前の頃であった。その後研究は急速に進展し,衣服の体温調節に果す役割についていろいろな重要な事実があきらかにされたが,最近十数年は研究の進展にやや頭打ちの傾向が認められる。しかし勿論,衣服の体温調節に果す役割についてすべてが解明されたわけではない。いくつかの重要な問題がほとんど解明されないままになっている。この小文では,著者の乏しい知識の範囲内に限定されるが,衣服による気候調節,あるいは衣服の体温生理学的研究に関する従来の研究の経過をふりかえるとともに,今後いかなる研究が必要であるかを考えてみたい。
著者
米山 京子 池田 順子 永田 久紀
出版者
The Japanese Society for Hygiene
雑誌
日本衛生学雑誌 (ISSN:00215082)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.770-779, 1997-01-15 (Released:2009-02-17)
参考文献数
33
被引用文献数
2 5

1994年7月および10月に,出産後21-590日,年齢21-42歳で乳,乳製品を摂取しない者を比較的多く含む授乳婦105名を対象に,母乳中Ca濃度,1日尿中のH.P,Caのクレアチニン補正値(H.P/Cre,Ca/Cre),超音波法により測定された踵骨の骨密度および乳,乳製品摂取状況の相互の関連性を解析し,母乳中Ca濃度の維持機構について考察した。1.尿中のH.P/Creの幾何平均値(M±SD)は授乳期間が5ヵ月未満,それ以上の場合,それぞれ40.7(31-61),36.3(28-47)mg/gで,骨吸収が亢進していることが示された。2.尿中H.P/Creは乳,乳製品の摂取頻度が少ない程,牛乳摂取量が少ない程有意に高く,牛乳摂取量が1日100ml以下の場合には,尿中H.P/Creと母乳中Ca濃度間には有意の正相関が認められた。これらの結果は,Ca摂取量が少ない程骨吸収が亢進して母乳中のCaを補償することを示唆する。3.牛乳摂取量が1日100ml以下の場合,母乳中Ca濃度は骨密度と有意の正相関が見られたことから,Ca摂取量が少ない場合でも骨密度が低い場合には母乳のCaは補償されないことが示唆された。4.牛乳摂取量に関わらず,尿中Ca/Creが低い程母乳中Ca濃度が有意に高かったことから,母乳中Ca濃度の維持に腎臓でのCaの保持機構が関与することが確認された。
著者
米山 京子 石榑 清司 池田 順子 永田 久紀
出版者
日本衛生学会
雑誌
日本衛生学雑誌 (ISSN:00215082)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.587-594, 1984
被引用文献数
1

尿中Hydroxyproline(H.P)およびクレアチニン排泄量の日々の変動ならびに,蛋白質摂取量との関係を健康な大人5人(女2人と男3人)を対象として,連続する17∼42日間について,昼間と夜間の排泄量を分けて検討した。次の結果が得られた。<br>1.尿中H.PおよびH.P/クレアチニンの日間変動は5人ともかなり大きかった(変異係数はH.P:12.6∼19.8%,H.P/クレアチニン:13.2∼19.5%)。クレアチニンの日間変動はH.Pよりはるかに小さかった(変異係数3.6∼8.5%)。これらの物質の時系列データの自己相関分析では,一定の変動パターンは見られなかった。<br>2.5人中4人で,昼間と(又は)夜間の尿中H.Pは当日又は1∼2日前の蛋白質摂取量と有意の正の相関が見られた。この結果は,尿中H.P排泄量は食事中の蛋白質摂取量によって影響されうることを示唆している。<br>3.尿中H.Pの昼間と夜間の排泄量の相違は5人ともわずかであった。
著者
木村 みさか 平川 和文 奥野 直 小田 慶喜 森本 武利 木谷 輝夫 藤田 大祐 永田 久紀
出版者
日本体力医学会
雑誌
体力科學 (ISSN:0039906X)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.175-185, 1989-10-01
被引用文献数
35 16

60歳以上の高齢者の運動能力の検討やトレーニング効果の判定のための基礎資料を得るために, 体力診断バッテリーテストを約900名の高齢者に実施し, その結果について, 男女別, 年齢階級別に検討して, 以下の結果を得た.<BR>A.体力テストの測定値の分布については, 男女とも, ステッピング, 垂直とび, 握力はほぼ左右対象であるのに対し, 息こらえは正の歪み, 体前屈は負の歪みを示し, 片足立ちは5秒以下に6割以上が分布していた.片足立ち, 忌こらえ, 体前屈はステッピング, 垂直とび, 握力より分布幅が大きかった.<BR>B.垂直とび, 握力, 息こらえの平均値では男子が, 体前屈では女子が有意に高い値を示したが, ステッピングおよび片足立ち, 息こらえには男女差が認められなかった.<BR>C.体力テストの成績は, 息こらえを除いて男女ともすべての項目で, 年齢に伴って低下していたが, その低下の割合は体力要素によって異なっていた.加齢による低下は, 体重を移動させたり, 複雑な神経支配を必要とする項目で特に大きかった.<BR>D.体力テストの成績は, 男女とも各項目間で有意の相関が認められた.<BR>本調査の経験から, この体力診断バッテリーテストは, 高齢者にとって比較的身体的負担が少なく, メディカルチェックとして安静時の血圧測定と膝・腰などの運動器の障害を問診する程度で安全に実施できることが判明した.また本方法による高齢者の体力の標準的な数値を得ることができた.この基準値は高齢者の必要体力や高齢者に適した運動について検討を加えるのに有用と考えられる.