- 著者
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糸久 正人
- 出版者
- 東京大学
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2008
申請者は「イノベーションを追及することは競争優位の源泉になりうるのか?」という問題意識のもとに、主に製品開発プロセスの視点から先発企業(イノベーター)と後発企業(イミテーター)の企業活動について調査分析を行ってきた。前年度の成果としては、後発企業でありながら電気電子製品の分野において高いグローバルシェアを誇る韓国サムスン電子の製品開発プロセスについて分析を行い、『リバース・エンジニアリング型開発プロセス」という概念を打ち出した。これは、通常、機能設計→構造設計へと至る「フォワード・エンジニアリング型開発プロセス」に対して、日本企業などのあるイノベーティブな製品を前提に、そこから構造設計→機能設計→構造設計へとさかのぼっていく製品開発プロセスである。以上の研究成果を踏まえて、本年度は主に3つの方向性に研究を拡張した。一つ目は、上記サムスン電子とブラウン管および液晶パネルメーカーであるサムスンSDIの製品開発戦略を『製品アーキテクチャ」の視点から捉えた研究である。具体的には、藤本(2003)の「アーキテクチャの両面戦略」のフレームワークを用いて同社のブラウン管TV、液晶TV事業を中心に分析したところ、サムスン電子は技術の寄せ集め的で業界に参入し、その後、BRICsなど各市場向けにカスタマイズを行う『内モジュラー・外インテグラル戦略」を、逆にサムスンSDIは自前の技術を利用し、その後、広範囲な顧客に汎用品として販売する『内インテグラル・外モジュラー戦略」をそれぞれ志向することで高い競争力を維持していることがわかった。二つ目は、先発企業の製品開発プロセスに焦点を当てた研究である。具体的には、様々なツールをクロスさせて、3次元CADCAEなどを活用したデジタルエンジニアリング、ロバストネスを達成するタグチメソッドなどを活用して、高品質の製品をいかに早く開発するのか、という問題に対して、インタビュー調査およびアンケート調査から分析を行った。この研究成果に関しては、まだ未公開であるが、現在『組織科学』に投稿中である。三つ目は、製品開発の視点からやや離れて、効率的な生産および需要予測の方法について調査分析したものである。この視点では、現在のところ、先発企業VS後発企業という比較分析が十分でないので、この点は今後の研究課題としたい。