著者
森島 淳之 満田 憲昭 名倉 潤 紙野 晃人 里 直行 三木 哲郎 荻原 俊男
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.32, no.12, pp.817-821, 1995
被引用文献数
1

Werner 症候群 (WRN) は, 常染色体性劣性の遺伝性早老症であり, 原因遺伝子座位は第8染色体短腕に存在することが知られているが, 原因遺伝子そのものは未だ単離同定されていない. 本邦での有病率は約20万人に1人で, 発症頻度が白人集団に比べて高い疾患の一つである. 今回, 甲状腺乳頭状腺癌と骨髄異形成症候群を合併し, 39歳にて死亡した患者の3人の同胞 (当患者を含めて2人が発症) と, イトコ婚である両親に対して遺伝子解析を行った.<br>WRN領域に存在する4種のマイクロサテライト多型, D8S360, D8S1055, D8S339, ANK1を用いて遺伝子型を決定し, ハプロタイプを作成した. 患者の同胞のうち長女と次女の2人は, 臨床診断では健常者である. 長女は正常のハプロタイプを受け継いでいたが, 次女はWRN変異遺伝子をもつハプロタイプを受け継いでいた. しかし, この2人は臨床的に異常はなかった. この結果は, WRNが劣性遺伝であることを裏付けた.<br>本症候群の発症機序は, 未だ不明であるが, 老化の機序を探る手立てとして有力視されており, 将来単離同定されるであろうWRN遺伝子の機能を解明すれば, 老化機序解明の糸口になると考えられる.
著者
永野 敬子 勝谷 友宏 紙野 晃人 吉岩 あおい 池田 学 田辺 敬貴 武田 雅俊 西村 健 吉澤 利弘 田中 一 辻 省次 柳沢 勝彦 成瀬 聡 宮武 正 榊 佳之 中嶋 照夫 米田 博 堺 俊明 今川 正樹 浦上 克哉 伊井 邦雄 松村 裕 三好 功峰 三木 哲郎 荻原 俊男
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.111-122, 1995-02-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

近年の疾病構造の欧米型への移行が指摘される中, 日本人における痴呆疾患の割合はアルツハイマー病の比率が脳血管性痴呆を越えたともいわれている. 本邦におけるアルツハイマー病の疫学的調査は, アルツハイマー病の原因究明に於ける前提条件であり, 特に遺伝的背景を持つ家族性アルツハイマー病 (FAD) の全国調査は発症原因の究明においても極めて重要であると考える.私たちは, FAD家系の連鎖分析により原因遺伝子座位を決定し, 分子遺伝学的手法に基づき原因遺伝子そのものを単離同定することを目標としている. 本研究では日本人のFAD家系について全国調査を実施すると共に, これまでの文献報告例と併せて疫学的検討を行った. また, 日本人のFAD家系に頻度の高いβ/A4アミロイド前駆体蛋白 (APP) の717番目のアミノ酸変異 (717Va→Ile) をもった家系の分子遺伝学的考察も行った.その結果, FADの総家系数は69家系でその内, 平均発症年齢が65歳未満の早期発症型FADは57家系, 総患者数202人, 平均発症年齢43.4±8.6歳 (n=94), 平均死亡年齢51.1±10.5歳 (n=85), 平均罹患期間6.9±4.1年 (n=89) であった. APP717の点突然変異の解析の結果, 31家系中6家系 (19%) に変異を認めた. また各家系間で発症年齢に明らかな有意差を認めた. 1991年に実施した全国調査では確認されなかった晩期発症型FAD (平均発症年齢65歳以上) 家系が今回の調査では12家系にのぼった.FADの原因遺伝子座位は, 現在のところ第14染色体長腕 (14q24.3; AD3座位), APP遺伝子 (AD1座位) そのもの, 第19染色体長腕 (19q13.2; AD2座位), 座位不明に分類され, 異なった染色体の4箇所以上に分布していることとなる. 日本人のFAD座位は, APPの点突然変異のあった6家系はAD1座位であるが, 他の大部分の家系ではAD3座位にあると考えられている. 今回の解析結果より, 各家系間の発症年齢に差異があることからも遺伝的異質性の存在を示唆する結果を得たが, FAD遺伝子座位が単一であるかどうかを同定する上でも, 詳細な臨床経過の把握も重要と考えられた.