著者
綿谷 安男 榎本 雅俊
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

大きなヒルベルト空間に含まれる小さい部分空間の相対的な位置関係を研究した。それもn個の部分空間の配置を考えた。重要なのは直和に分解できない直既約な配置である。n=1,2の時はすでに解けているが、有限次元に限れば、n=3,4の場合も完全に分類されている。しかし、無限次元だとn=3や4の場合すら未解決である。今回の研究はこの問題を線形作用素の研究との類似を考察するという新しいアイデアで攻略した。さらにquiver(有向グラフ)の頂点をヒルベルト空間に、辺を線形作用素に対応させるヒルベルト表現の理論を開始した。拡大ディンキン図形に対してその無限次元直既約ヒルベルト表現の存在を証明した。
著者
梶原 毅 綿谷 安男 佐々木 徹
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究期間中に明らかにしたことは概略次のとおりである。1.左右内積をもつ可算生成ヒルベルトC^*双加群が有限指数をもつことと、conjugationを持つことが同値であることを証明し、また有限指数をもつ可算生成ヒルベルトC^*双加群の例を多数構成した。また、一般に直交しない可算生成基底の性質についても明らかにした。これらの結果は、"Jones index theory for Hilbert C^*-bimodules and its equivalence with conjugation theory"において刊行した。2.有理関数によってリーマン球面上に与えられる複素力学系からヒルベルトC^*双加群を構成し、それからPimsner構成によって作られるC^*-環について、単純性と純無限性を証明した。また、いくつかの例において、K-群の計算を行った。これらの結果は、"C*-algebras associated with complex dynamical system"において刊行した。3.縮小写像の組から作られる自己相似集合に対しても、ヒルベルトC^*-双加群を構成し、Pimsner構成によってC^*-環を構成した。適当な条件のもとで、構成されたC^*-環が単純かつ純無限になることを示した。代表的な自己相似集合の例であるシルピンスキギャスケットに対して二通りの構成法で作られたC^*-環が同型でないことをK-群によって示した。またコッホ曲線から作られたC^*-環のK-群も計算した。これらの結果は、"C^*-algebras associated with self-similar sets"において刊行した。4.複素力学系、また自己相似写像から作られるヒルベルトC^*双加群に対して、可算基底の具体的な構成を行った。これはもともとテント写像の場合にウエーブレット基底にヒントを得て構成したものを一般化したものであり、具体的な可算生成ヒルベルトC^*双加群に対して初めて構成されたものである。これはまだ刊行された論文には含まれていないが、複素力学系から作られるC^*-環上のKMS stateの分類を考える際に大きな助けになった。5.超越関数からも同様なやりかたでC^*-環を構成して研究した。特に指数関数から作られる場合に単純になることを示し、日本数学会等で公表した。ただし、この場合ピカールの定理により無限遠点が真性特異点になり、これをどのようにうまく扱うかが未解決な問題である。
著者
綿谷 安男 幸崎 秀樹 濱地 敏弘 松井 卓 梶原 毅 中路 貴彦
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究の目的は,多項式や有理関数の反復合成のつくる複素力学系からヒルベルト空間上の作用素のつくる特別なC^*環を構築し、異なる二つの分野の関係を考察することであった。Julia集合J_Rの連続関数環A=C(J_R)上のヒルベルト双加群X_RからToeplitz-Pimsner環T_X_Rとその商環であるCuntz-Pimsner O_R=O_R(J_R)を構成した。同様にしてC^*環O_R(C^^^)やO_R(F_R)も構成できた。Rが2次式R(z)=z^2+cの時でも、cがMandelbrot集合に属さない場合は、C^*環O_RはCuntz環O_2と同型になる。cがMandelbrot集合に属する場合は、c=0やテント写像を与えるc=-2のような特殊な時はその構造がわかった。今回の研究での最も大きな成果は、Rが2次以上の有理関数の時、C^*環O_Rはいつでも純無限の単純C^*環になることを証明できたことである。また、分岐点の構造がヒルベルト双加群X_R上のコンパクト作用素全体K(X_R)と、A=C(J_R)の作用の共通部分に対応するAのイデアルI_Xできっちり記述できることを示した。それにより、Fatou集合F_RとJulia集合J_Rによるリーマン球面の分解の対応物としてC^*環O_R(J_R)を大きい環C^*環O_R(C^^^)のFatou集合に対応するあるイデアルによる商環として実現した。さらに、有理関数Rのジュリア集合が縮小写像族の自己相似集合として実現できる場合を手がかりとして、コンパクト集合上の縮小写像族によるフラクタル図形での類似を研究した。特に重要な成果として、その開集合条件が対応するC^*環の純無限単純性を導くことを示した。またそのK群を計算し縮小写像族の言葉だけで書いた。テント写像やシェルピンスキーのギャスケットやコッホ曲線などの具体例についてもK群を計算したりそのtorsion要素を調べて、異なる縮小写像系が同じフラクタル図形を与えても、同型でないC^*環がでてくることもわかった。
著者
綿谷 安男 幸崎 秀樹 榎本 雅俊
出版者
九州大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

Gelfand-Ponomarevは有限次元空間の4個の部分空間の直既約な配置について、完全分類を行った。全体空間が無限次元のヒルベルト空間の場合は榎本氏と代表者の共同研究で4つの部分空間の既約な配置の非自明な具体例を無限個構成することができた。今回の研究では、さらに、有向グラフ(quiver)に沿ったヒルベルト空間の部分空闇の配置の研究を試みた。有向グラフ(quiver)の頂点と辺をヒルベルト空間とその間の作用素として表すヒルベルト表現を研究する。特に包含写像を考えれば、部分空間を有向グラフに沿って配置する問題を含んでいる。有限次元空間では、直既約な表現が有限個しかないのはディンキン図形のAn,Dn,E6,E7,E8に限るというGabrierの定理がある。この定理を関数解析の手法で無限次元化するのが、大きな目的である。鏡映関手とその双対性を無限次元のヒルベルト空間の枠組みで構成したい。無限次元の直既約なヒルベルト表現の非存在を仮定して,quiverがディンキン図形のAn,Dn,E6,E7,E8に限られることは、去年度に示すことができた。しかしその逆である、quiverがディンキン図形のAn,Dn,E6,E7,E8であれば、無限次元の直既約なヒルベルト表現が存在しないということは、ようやくAnの時に示せたのが本年の成果である。さらにBrennerによる3つの部分空間の配置の標準分解を無限次元で特別なときに示せた。拡大ディンキン図形の無限次元の直既約なヒルベルト表現にたいしては、不足数という数値的不変量をFredholm作用素の指数を使ってE6,E7の時に導入することができた。