- 著者
-
義永 美央子
- 出版者
- 社会言語科学会
- 雑誌
- 社会言語科学 (ISSN:13443909)
- 巻号頁・発行日
- vol.23, no.1, pp.21-36, 2020-09-30 (Released:2020-10-07)
- 参考文献数
- 56
本論の目的は,これまで日本語教師の資質・能力はどのように規定されてきたかを理解し,今後の日本語教師教育の方向性を展望することである.具体的には,文化庁の報告書で記述された資質・能力の特徴とその成立背景を,文化庁の報告書本文および文化審議会国語分科会日本語教育小委員会での審議内容に基づき検討した.その結果,日本語教師の資質・能力が知識・技能・態度の3つに分けて整理され,養成・初任段階のみならず,中堅やそれ以降の段階まで「常に学び続ける態度」を持つことが重視されていることが確認された.また,これらの資質・能力観が提唱されるようになった根拠として,これまでの日本語教員養成・研修の現場の声とともに,「ポスト近代型能力」とも呼ばれる新しい能力(コンピテンシー)の考え方があることが明らかになった.さらに,今日の日本語教師教育の課題として,教師が経済的な人的資本として搾取され燃え尽きてしまう可能性,立場や役割の違いが対立や分断を生み出す可能性,資質・能力の捉え方や教育方法が要素主義に陥る可能性を指摘した.最後に,こうした可能性をできる限り排除し,教師の成長と日本語教育コミュニティの発展を両立させる方向性として,専門職資本の概念に基づく専門的な学習共同体の構築,および,越境的学習について検討した.