著者
花澤 寿
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.47-51, 2012 (Released:2017-02-16)
参考文献数
14

進化心理学では,心の構造は進化の産物であるという前提に立ち,行動や心理的傾向の適応的意味や機能的意味を明らかにしようとする。精神障害の理解に進化心理学を適用することにより,その症状・特徴がなぜ生じてきたのかという究極要因の検討が可能になる。本稿では,現在までに提出されている摂食障害の進化論的仮説を概観し,進化心理学・進化精神医学による摂食障害の理解と治療の可能性について検討した。主要な仮説として,①生殖抑制説,②同性間競争説,③飢餓環境からの移動のための適応説をとりあげた。いずれの仮説も,現時点では実証困難であるが,摂食障害の不可解な特徴(長期の拒食,女性に極端に偏る性比,過活動,やせの否認と身体像の歪みなど)をある程度説明することに成功しており,停滞状態にある摂食障害の病態理解と治療法に新たな展開をもたらす可能性が示唆された。
著者
花澤 寿 ハナザワ ヒサシ Hanazawa Hisashi
出版者
千葉大学教育学部
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要 (ISSN:13482084)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.269-273, 2010-03

現在までに提出されている摂食障害の進化論的仮説を概観し,進化心理学・進化精神医学による摂食障害の理解と治療の可能性について検討した。主要な仮説として,1. reproductive supression hypothesis 生殖抑制説 2. sexual competition hypothesis 同性間競争説 3. flee from famine hypothesis 飢餓環境からの移動のための適応説 4. Gatward による統合説をとりあげた。いずれの仮説も,現時点では実証困難であるが,摂食障害の不可解な特徴をある程度説明することに成功しており,停滞状態にある摂食障害の病態理解と治療法にあらたな展開をもたらす可能性が示唆された。
著者
花澤 寿
出版者
千葉大学教育学部
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要 (ISSN:13482084)
巻号頁・発行日
vol.67, pp.329-337, 2019-03

[要約] ポリヴェーガル理論(多重迷走神経理論)は,進化論と神経生理学に基づき,Porges が提唱した自律神経系の適応反応に関する新しい理論である。この理論によると,哺乳類が獲得した新しい自律神経である腹側迷走神経と,それと連係協働する脳神経群が形成する腹側迷走神経複合体が,より原始的な自律神経(交感神経系,背側迷走神経系)をコントロールすることにより,最も適応的なストレス反応が可能になる。腹側迷走神経複合体が司るのは,人と人とのつながりと,安全・安心の感覚を結びつける社会的関わりシステムである。治療者と患者の関係性が重要な意味を持つ精神療法を,ポリヴェーガル理論を基礎において検討することにより,精神療法一般に共通する理論的基盤と実践的方法論が得られる可能性について考察した。
著者
花澤 寿
出版者
千葉大学教育学部
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要 (ISSN:13482084)
巻号頁・発行日
vol.65, pp.349-354, 2017-03

[要約] 既存の治療法ではその効果に限界が指摘されている神経性過食症の精神病理および治療について,近年トラウマ治療を中心に新しい心理療法の基礎理論として注目されている多重迷走神経理論を援用し,共食不全論と関係づけて新たな視点から検討を試みた。過食症者は,低い自己評価のため,対人関係で適度な依存や健全な自己主張をすることが難しく,ストレスを社会的関わりシステムを用いて解消することが困難なため,過食嘔吐行為を代償的に用いて交感神経系の緊張の緩和を図る。過食嘔吐行為のもつ共食からの分離という特徴のため,社会的関わりシステムの機能不全を代償するために行われる過食が,さらに社会的関わりシステムから患者を遠ざけていくという悪循環が成立することが過食症の難治性の一要因として考えられた。そこから,社会的関わりに関わる腹側迷走神経系の機能不全に働きかける治療法の可能性を指摘した。
著者
花澤 寿 ハナザワ ヒサシ Hanazawa Hisashi
出版者
千葉大学教育学部
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要 (ISSN:13482084)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.223-225, 2007-02

Anorexia nervosa の中心的心性とされてきた「成熟拒否」の心理の時代変遷を検討するために,古典的症例(Janetの症例Nadiaおよび下坂の症例)と,自験例を比較し考察した。その結果,古典例の成熟拒否が,性的存在としての大人の女性像への恐怖という心性を色濃く有していたのに対し,現代の症例は,成熟した女性という明確な未来像を恐怖するのではなく,今その時点での自分が変化しつつあること自体に恐怖を抱くという特徴が認められた。