著者
落合 隆
出版者
中央大学人文科学研究所
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
no.81, pp.239-267, 2015

ルソー政治哲学を理解する鍵概念の一つが「一般意志」である。一般意志はルソーの発明にかかるものではなく,17-18世紀のフランスにおいて拡がった概念である。もともとアルノーやパスカルにあっては,一般意志とは,全ての人類を救済しようとする神の意志であった。マルブランシュは,神の一般意志に恩寵の法のみならず自然法則を含ませた。バルベイラック,モンテスキュー,ディドロらを通して一般意志概念は世俗化され社会化された。ルソーに至って人民の政治的意志となった。ルソーの一般意志には,市民が共通認識形成のために特殊意志を一般化する「一般性」のモメントと,市民が従う法を自らつくる「意志性」のモメントがある。ルソーは,主権者人民の一般意志によって,共通の安全のみならず各人の自由を実現する新たな結合およびその維持と,最終的には人類が自ら招き寄せた悪からの救済をめざす。
著者
小笠原 正 川瀬 ゆか 磯野 員達 岡田 芳幸 蓜島 弘之 沈 發智 遠藤 眞美 落合 隆永 長谷川 博雅 柿木 保明
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.11-20, 2014-07-22 (Released:2014-08-15)
参考文献数
21
被引用文献数
2

要介護者の口腔粘膜にみられる付着物は,痰,痂皮,剥離上皮と呼ばれているが,上皮成分を主体とした付着物を剥離上皮膜と定義づけ,本研究にて,要介護高齢者の口腔内に形成された剥離上皮膜を部位別に形成要因を検討した。調査対象者は,入院中の患者のうち 65 歳以上の要介護高齢者 70 名であった(81.1±7.7 歳)。入院記録より年齢,疾患,常用薬,寝たきり度を調査し,意識レベル,発語の可否,介助磨きの頻度は担当看護師から聴取した。歯科医師が口腔内診査を行い,膜状物質の形成の有無,Gingival Index などを評価した。形成された膜状物質は,歯科医師がピンセットで採取した。粘膜保湿度(舌背部,舌下粘膜)は,粘膜湿潤度試験紙(キソウエット®)により 10 秒法で評価した。採取された膜状物質は,通法に従ってパラフィン切片を作製し,HE 染色とサイトケラチン 1 による免疫染色で重層扁平上皮か否かについて確認し,重層扁平上皮由来の角質変性物が認められたものを剥離上皮膜と判断した。剥離上皮膜形成の有無を従属変数として,患者背景・口腔内の 14 項目,疾患の 15 項目,常用薬の 32 項目,合計 61 項目を独立変数として部位ごとで決定木分析を行った。 すべての部位で剥離上皮膜の形成に最優先される要因は「摂食状況」であり,経口摂取者には,剥離上皮膜がみられなかった。第 2 位は舌背部で舌背湿潤度,頰部で開口,歯面の第 3位が開口であり,口腔粘膜の乾燥を示唆する結果であった。以上,剥離上皮膜の形成要因には口腔乾燥があり,保湿の維持が剥離上皮膜の予防につながると考えられた。
著者
落合 隆
出版者
中央大学人文科学研究所
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
vol.98, pp.111-144, 2021-09-30

本稿は,ルソーの『戦争法の諸原理』や,『サンピエール師の永久平和論抜粋』および『同・批判』を主な対象に,彼の戦争観,戦争を規制する戦争法,国際平和を構築する国家連合の内容を解明し,最後に彼の戦争・平和論のもつ意義を考察する。国家間の合意に基づく戦争法は,戦争を社会契約という国家の一体性を創り保つ関係への攻撃と見て,社会契約を解消した後も在り続ける個人の生命・自由・財産を救出し保障しようとする。また,国家間の合意の積み重ねである国家連合は,同盟国どうしの戦争を違法化して,国際紛争を平和的に解決する道を探ろうとする。このような国家どうしの合意を促すのが,平和を重要な要素とする公共の幸福を求める各国人民の一般意志なのである。ルソーにおいては,戦争を制限しあるいは防止する戦争法や国家連合は,社会契約による抑圧なき市民社会の形成と人民主権の定着に支えられていると言える。
著者
古田 浩史 八上 公利 北村 豊 森 こず恵 落合 隆永 内田 啓一 田口 明 篠原 淳
出版者
日本口腔診断学会
雑誌
日本口腔診断学会雑誌 (ISSN:09149694)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.98-103, 2016-06-20 (Released:2016-10-12)
参考文献数
18

Denosumab is a bone antiresorptive agent for use in patients with osteoporosis or metastatic cancer of the bones. A recent meta-analysis revealed that denosumab is associated with an increased risk of developing medication-related osteonecrosis of the jaw (MRONJ) compared with bisphosphonate (BP) treatment or placebo, although the increased risk was not statistically significant between denosumab and BP treatments. This paper presents the case of an 83-year-old man with MRONJ in the left maxilla caused by the use of denosumab for prostate cancer with multiple metastases to lymph nodes, bone and lungs, which improved by minimally invasive treatment after withdrawal of denosumab. The patient was given a subcutaneous injection of denosumab every 4 weeks for a period of 17 months. He had no history of receiving bisphosphonates or radiation therapy. We performed careful examinations and treatment with antibiotics, local irrigation and removal of as many necrotic bone chips as possible every 2 weeks. Finally, the remaining sequestrum was removed 10 months after the cessation of denosumab. The affected area was epithelialized within 19 days.
著者
落合 隆
出版者
中央大学人文科学研究所
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
no.84, pp.237-267, 2016

ルソーは,宗教を政治との関係においてどうとらえているであろうか。この考察を通して,彼の政治思想に宗教の側面から光を当て,彼の思想がもつ現代的意味を探りたい。『社会契約論』によれば,歴史的には,政治と一体化した「市民の宗教」,国家の中に国家をつくる「聖職者の宗教」,政治から切り離された「人間の宗教」ないし自然宗教があった。そして,ルソーは,市民の宗教と人間の宗教それぞれの利点を結びつける「市民宗教」を提起する。市民宗教は,政治体に参加する市民であるための神聖な宣誓として政治を支えるが,同時に政治体の中に人間の宗教への指向性を確保する。元来排他的な政治体が市民宗教を通して人間性に向けて開放され,祖国愛は人間愛へつながる。市民になることによってしか人間になれない。そして,市民宗教の教義の1つである不寛容の排除によって,個人の信教の自由は互いに尊重されて,さまざまな宗教・宗派を超えて人々が市民として共同体に結集し,社会的不平等のような人間自らが招いた悪に協力して立ち向かうことができるようになるのである。