著者
下島 裕美 蒲生 忍
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.2-7, 2009 (Released:2009-09-11)
参考文献数
26
被引用文献数
1

本稿では,ワシントン大学のマコーミック博士が杏林大学において実施したGuided Death Experienceという課題を紹介する。GDEはワシントン州の大学や病院,ホスピス等で広く実施されている課題である。まず五色のカードを5枚ずつ計25枚用意し,1枚のカードに1つずつ「大切なもの」「大切な人」「大切な場所」「大切な目標」「普段大切にしている出来事」を記入する。そして「あなた」が死にゆく物語を聞きながら大切なものが記されたカードを投げることにより,死にゆく過程における喪失を疑似体験するものである。本稿では,これまでとは異なる時間的展望への気づき,本当に大切なものへの気づき,他者との関係性の中に織り込まれた自己への気づきという視点からGDEのデス・エデュケーションとしての可能性を考察する。医療系の専門教育においては,死にゆく過程における患者やその家族へのサポート意識の高まりとともに,燃え尽き症候群から医療関係者の心を守るという役割も期待される。
著者
下島 裕美 三浦 雅文 門馬 博 齋藤 昭彦 蒲生 忍
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.3-10, 2015 (Released:2015-03-30)
参考文献数
22

医療チームは,医師,看護師,臨床検査技師,理学療法士,作業療法士,臨床工学士,放射線技師,薬剤師,介護士,社会福祉士など多様な職種から構成される。更には患者とその家族もまた自身の治療プロセスの決定に参加する権利を持っている。多様な価値観をもった人々が一つのチームとして一人の患者の治療にあたるためには,自分の視点と他者の視点の共通点・相違点を認識した上で,患者にとって最善の意思決定を俯瞰的な視点で追及する姿勢が必要であろう。この俯瞰的な視点の教育には,心理学におけるメタ認知と呼ばれる概念が有効であると考えられる。そこで本論文では,医療倫理における意思決定を促進する方法である4ボックス法(4 box method, 四分割法)をメタ認知という視点から考察する。個人レベルと集団レベルにおけるメタ認知教育の効果と,熟達化におけるメタ認知教育の効果を提案する。
著者
蒲生 忍 マッコーミック トーマス
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.149-157, 2010-09-23 (Released:2017-04-27)
参考文献数
23
被引用文献数
1

米国の終末期の医療選択としては1998年にオレゴン州で発効した尊厳死法Death with Dignity Act(以下DWDA)が最も先鋭的な枠組みとして取り上げられる。これは医師による自殺幇助Physician-Assisted Suicideとも呼ばれ、その施行状況が米国内のみならず日本を含めた諸外国の注目を集めている。オレゴン州はDWDAのみならず、緩和医療が最も活発に行われる州としてもよく知られている。オレゴン州に隣接するワシントン州でも、2008年にDWDA案が住民発案された。その可否を問う住民投票が大統領選挙と同時(2008年11月4日)に行われ、58%の支持を受け可決され2009年3月5日に発効した。筆者らは投票日に先立ちワシントン州で、DWDA案の立案にかかわった元ワシントン州知事Gardner氏はじめワシントン大学の医療提供者と面談し意見を聞く機会を得た。面談した様々な医療提供者の多くは、法案が自己決定に固執する一部の層のためであること、オレゴン州DWDA施行後の緩和医療を含め医療技術に大きな進歩があり、尊厳死を含め終末期の医療選択への要求が変化していることなどを指摘した。投票前の諸氏との議論を踏まえ、ワシントン州DWDA発効後の実施状況も報告したい。
著者
蒲生 忍 マッコーミック トーマス
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.149-157, 2010-09-23

米国の終末期の医療選択としては1998年にオレゴン州で発効した尊厳死法Death with Dignity Act(以下DWDA)が最も先鋭的な枠組みとして取り上げられる。これは医師による自殺幇助Physician-Assisted Suicideとも呼ばれ、その施行状況が米国内のみならず日本を含めた諸外国の注目を集めている。オレゴン州はDWDAのみならず、緩和医療が最も活発に行われる州としてもよく知られている。オレゴン州に隣接するワシントン州でも、2008年にDWDA案が住民発案された。その可否を問う住民投票が大統領選挙と同時(2008年11月4日)に行われ、58%の支持を受け可決され2009年3月5日に発効した。筆者らは投票日に先立ちワシントン州で、DWDA案の立案にかかわった元ワシントン州知事Gardner氏はじめワシントン大学の医療提供者と面談し意見を聞く機会を得た。面談した様々な医療提供者の多くは、法案が自己決定に固執する一部の層のためであること、オレゴン州DWDA施行後の緩和医療を含め医療技術に大きな進歩があり、尊厳死を含め終末期の医療選択への要求が変化していることなどを指摘した。投票前の諸氏との議論を踏まえ、ワシントン州DWDA発効後の実施状況も報告したい。
著者
蒲生 忍 柳澤 厚生
出版者
杏林大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

終末期における医療の選択は患者と医療者の両者にとり非常に重要な問題である。米国においては、選択は患者の「自律尊重」が重視されるが、本研究では患者と医療者の共同のツールである「事前計画Advanced Care Planning」としての「医師による延命治療指示書POLST」について調査した。また、自律を強く求める人々の終末期の医療選択の一つとして、オレゴン州に続いて2008年11月にワシントン州で尊厳死法が制定され、発効した。ワシントン大学の医療提供者を中心に直接面談して、その制定の背景について調査した。