- 著者
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藤倉 良
中山 幹康
押谷 一
毛利 勝彦
- 出版者
- 法政大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2003
世界ダム会議(WCD)は,大型ダムに関する国際的に受入れ可能な基準を開発し,普及することを目的として組織された独立の国際委員会であり,2000年11月にWCD報告書を刊行して解散した。WCD報告書に盛り込まれた基準やガイドラインに対しては,開発途上国政府やダム建設業界が明確に反対する姿勢を示し,国際的に受入れ可能な基準作りは失敗に終わった。WCD勧告を文字通り世界が受入れ可能な基準とガイドラインにするためには,その実施可能性を明らかにすることが必要であり,これが本研究のめざすところであった。本研究は,まず,WCD勧告の根拠が必ずしも明確でないということを明らかにした。WCD勧告はWCD報告書の後半部に記述されているが,それは前半部に記述された研究調査結果に基づいていることになっている。しかし,報告書を精査すると,すべての勧告が調査結果に基づいてはいないことが指摘できた。こうした問題点を踏まえ,本研究では,WCD勧告を実現可能にするための選択肢を示した。次に,実現可能性を高めるための条件を検討するため,本研究では日本のODAプロジェクトにWCD勧告を適用する場合に,どのような課題,改善すべき点があるかを明らかにした。さらに,WCD勧告について最も意見が対立した住民移転のありかたについて,提言を行うための知見を収集するためのケーススタディを実施した。一つは日本の過去の経験である。もうひとつは,現在のダムプロジェクト事例として,インドネシアで円借款により実施されたコタパンジャンダムプロジェクトの現地調査である。望ましい住民移転のあり方を示すためには,今後さらなる現地調査及び検討が必要であると考えられるが,このケーススタディによって幾つかの好事例(good practices)を示すことができた。