著者
中山 幹康
出版者
THE JAPAN SOCIETY OF HYDROLOGY AND WATER RESOURCES
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.238-247, 1997-05-05 (Released:2009-10-22)
参考文献数
37
被引用文献数
4 4

アスワン・ハイ・ダムは, 環境へ多くの悪影響を与えたと認識されている. しかし, 1960年代末から1970年代初めにおいて為された, 同ダムが環境へ与える影響の予測の幾つかは, 今日ではその妥当性が疑問視される結果となっている. 環境問題についての初期の予測には, 環境影響評価の方法論上の問題によって不正確な予測が行われたと思われる局面が存在する. 当初に予想あるいは観察された環境への影響の内, 上流部からの土砂をダムが遮蔽したことによる地中海沿岸における漁獲量の減少, ナセル湖における淡水漁業の不振, 導水路の増加による住血吸虫病の蔓延, 上流部からの土砂をダムが遮蔽したことによる化学肥料の使用量の増大, の4項目については, 正確な予想が行われていないか, あるいは事実が誤認されている. その原因としては, ダム建設の直前に得られた指標値をプロジェクト前の状態における代表値としたこと, 「類似の事例からの類推」に問題が有ったこと, プロジェクトの実施前の状態についての理解の不足, および, プロジェクト後に観察された変化は全てがプロジェクトに起因するという誤った認識, などが挙げられる.
著者
ソクサバト ボンサック 中山 幹康
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.24, pp.9, 2011

ラオスのナムグム1ダムは1971年に発電を目的として建設された.本研究は,建設後約40年を閲した時点での,移転民の生活再建状況を精査することである.1968年に移転したPakcheng村および1977年に移転したPhonhang村の2つの村について,各50世帯を対象とした訪問調査を実施した.Pakcheng村の人々はPhonhang村に比べて遙かに豊かであった.2つの村での貧富の差は,水利と道路整備の差異に起因していることが判った.Phonhang村での灌漑施設の建設や道路の舗装など,2つの村の間に存在する経済的な格差を減少する為の対策が,政府により執られることが望まれる.
著者
田中 幸夫 中山 幹康
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.144-156, 2010
被引用文献数
5

本稿では,中東に位置するティグリス・ユーフラテス川流域を事例に国際河川紛争の解決要因の検討を行う.同流域では主にトルコ・シリア・イラクによる水争いが20世紀後半以降顕在化し,流域国間での合意形成が幾度にもわたって試みられたが,いずれも不調に終わり,現在に至っている.このような膠着状態を脱却する要件として,本稿では「イシューのパッケージ化」に着目した.特定の争点の妥協を誘引するためにその他の争点を交渉に導入する(イシューをパッケージ化する)という手法は意識的または無意識的に様々な資源交渉もしくは国際交渉の場で行われている(本稿では米国とメキシコの間のコロラド川水質汚染問題におけるイシューのパッケージ化を例示した).ティグリス・ユーフラテス川の事例においても,流域国間でトレードオフが可能な争点としてエネルギー,国境貿易および経済開発,民族(クルド人)問題などが挙げられた.これらを水資源配分の問題と合わせて流域国間交渉に導入することにより,流域国の協調が達成可能となることが期待される.
著者
中山 幹康
出版者
THE JAPAN SOCIETY OF HYDROLOGY AND WATER RESOURCES
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.128-140, 1998
被引用文献数
3

メコン川の流域国4か国は1995年4月5日「メコン川流域の持続的開発協力に関する協定」に調印した.同協定の交渉過程では,流域国であるタイとベトナムの確執に起因する交渉の行き詰まりを打開するためにUNDP(国連開発計画)が仲介役を務めた.国際流域における流域国間の係争に国際機関が仲介役として過去に成功を収めた例としては,インドとパキスタンによる係争を世界銀行が仲介した結果,1960年に「インダス川条約」が締結されたことが知られているのみであった.「インダス川条約」と「メコン川流域の持続的開発協力に関する協定」の交渉過程を比較すると,流域国および仲介役を演じた国際機関が置かれていた状況について幾つかの類似点が見られる.国際機関が国際河川における流域国間の係争に仲介役として機能し,かつ流域国を合意に導くために満たすべき要件としては,(a)流域国が係争の解決を指向し,かつ国際機関による仲介が不可欠であるとの認識を流域国が持つ,(b)特定の国際機関が先進国や援助機関の利益代表としての立場を保持する,(c)統合的な流域管理計画に固執しない,などを挙げることが出来る.
著者
田中 幸夫 中山 幹康
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.144-156, 2010-03-05 (Released:2010-04-08)
参考文献数
59
被引用文献数
2 5

本稿では,中東に位置するティグリス・ユーフラテス川流域を事例に国際河川紛争の解決要因の検討を行う.同流域では主にトルコ・シリア・イラクによる水争いが20世紀後半以降顕在化し,流域国間での合意形成が幾度にもわたって試みられたが,いずれも不調に終わり,現在に至っている.このような膠着状態を脱却する要件として,本稿では「イシューのパッケージ化」に着目した.特定の争点の妥協を誘引するためにその他の争点を交渉に導入する(イシューをパッケージ化する)という手法は意識的または無意識的に様々な資源交渉もしくは国際交渉の場で行われている(本稿では米国とメキシコの間のコロラド川水質汚染問題におけるイシューのパッケージ化を例示した).ティグリス・ユーフラテス川の事例においても,流域国間でトレードオフが可能な争点としてエネルギー,国境貿易および経済開発,民族(クルド人)問題などが挙げられた.これらを水資源配分の問題と合わせて流域国間交渉に導入することにより,流域国の協調が達成可能となることが期待される.
著者
中山 幹康
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

国際河川や国際湖沼の流域国が,「エスポー条約」に準拠する越境環境影響評価の枠組み策定に合意する要件は,カスピ海のように流域国への悪影響が非対称的ではなく全ての流域国が影響を受ける場合,カナダと米国間の国際河川のように幾つかの河川では一方の国が上流国であるが他の河川ではその国が下流に位置するという地政学的な関係にある場合,メコン川のように地域内での経済的な統合が進み流域国間には相互依存関係が存在する場合,であることが判明した。
著者
藤倉 良 中山 幹康 押谷 一 毛利 勝彦
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

世界ダム会議(WCD)は,大型ダムに関する国際的に受入れ可能な基準を開発し,普及することを目的として組織された独立の国際委員会であり,2000年11月にWCD報告書を刊行して解散した。WCD報告書に盛り込まれた基準やガイドラインに対しては,開発途上国政府やダム建設業界が明確に反対する姿勢を示し,国際的に受入れ可能な基準作りは失敗に終わった。WCD勧告を文字通り世界が受入れ可能な基準とガイドラインにするためには,その実施可能性を明らかにすることが必要であり,これが本研究のめざすところであった。本研究は,まず,WCD勧告の根拠が必ずしも明確でないということを明らかにした。WCD勧告はWCD報告書の後半部に記述されているが,それは前半部に記述された研究調査結果に基づいていることになっている。しかし,報告書を精査すると,すべての勧告が調査結果に基づいてはいないことが指摘できた。こうした問題点を踏まえ,本研究では,WCD勧告を実現可能にするための選択肢を示した。次に,実現可能性を高めるための条件を検討するため,本研究では日本のODAプロジェクトにWCD勧告を適用する場合に,どのような課題,改善すべき点があるかを明らかにした。さらに,WCD勧告について最も意見が対立した住民移転のありかたについて,提言を行うための知見を収集するためのケーススタディを実施した。一つは日本の過去の経験である。もうひとつは,現在のダムプロジェクト事例として,インドネシアで円借款により実施されたコタパンジャンダムプロジェクトの現地調査である。望ましい住民移転のあり方を示すためには,今後さらなる現地調査及び検討が必要であると考えられるが,このケーススタディによって幾つかの好事例(good practices)を示すことができた。
著者
中山 幹康 RARIEYA Marie RARIEYA Marie Jocelyn
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

研究課題「持続的な開発と福祉に向けて:複合農業経営の新たな枠組み」の事例研究地域である西部ケニアのヴィクトリア湖流域に於いて,現地調査を実施すると共に,現地の関係機関を訪問し,情報を収集した.西部ケニアでは,従来観察されていた「大雨期」と「小雨期」のうち,近年では,本来は「小雨期」に該当する時期においても降雨が殆ど観察されないなど,気象の変化が観察されている.当該地域の農民は,そのような変化に対応すべく,各種の自助努力を試みている.人間の安全保障の観点からは,収入源を多様化し,特定の農業セクターあるいは作物に依存することに起因するリスクを軽減することが,賢明な対応と考えられる.そのために,当該地域における複合農業経営を推進し,気象状況の変化に適合し,リスクの低減を図ることが重要な課題になっている.設定した3つの事例地域(Vihiga District, Siaya District, Kisumu West District)において,土壌流出,害虫の蔓延,植物病虫害などの自然環境の悪化に加えて,資金提供メカニズムの欠如,市場へのアクセスの困難,インフラ整備の不足,情報へのアクセス不足などの社会的な条件が,気象条件の変化を克服し,円滑な農業経営を維持する上での障害となっていることが判明した.これらの制約要因には,農民の自助努力で克服可能な事柄も含まれるが,地方政府や中央政府による行政的な対応,あるいは国際社会による助力がその克服には不可欠な項目も少なからず存在し,従来的な「閉じた社会」の枠組みでは解決は困難であることが示唆された.