著者
亀田 晃尚
出版者
法政大学公共政策研究科『公共政策志林』編集委員会
雑誌
公共政策志林 = 公共政策志林 (ISSN:21875790)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.133-146, 2018-03-24

中華人民共和国(以下「中国」という。)にとって,エネルギー不足は大きな問題となっている。国連海洋法条約上,中国は尖閣諸島周辺の石油資源の主権的権利を確保するためには,尖閣諸島の領有権を主張しなければならない。中国が経済的・安全保障的な高いリスクを背負ってまで,尖閣諸島に対する領土的野心を露わにすることは考えがたく,中国の尖閣諸島に関する領有権主張は石油資源を確保することを主眼としたものであると考えられる。中国は尖閣諸島周辺を含む東シナ海に800億バレルという莫大な石油埋蔵量を見込んでいる。米国防総省も中国の見方を裏付ける。一方,日本は32億バレルの埋蔵量しか見込んでいない。日本が中国の石油埋蔵量の認識についてどう捉えるかは,日本が中国に対してどのように対応していくかに直接関わってくる。尖閣諸島をめぐって,中国を相手に力で対抗しようとするリアリズム的対応を行えば,安全保障のジレンマに陥り,不測の事態を招きかねない。中国は尖閣諸島の領有権を棚上げしての共同開発を提唱しているが,日中双方の信頼関係が十分に醸成されていることが前提となる。したがって,いま必要なのは,中国が尖閣諸島周辺を含む東シナ海に莫大な石油資源を期待しているという現実を認識した対応であり,エスカレーション・ラダーを上げないための対話による中国への自制呼びかけや海上保安機関による冷静な現場対応に加えて,経済関係や人的・文化的交流の拡大といったリベラリズム的な不断の努力である。そうした努力の積み重ねによって日中の信頼関係は深く醸成されていくに違いない。その先に,尖閣諸島をめぐる問題の解決が見えてくるであろう。
著者
宮﨑 一徳
出版者
法政大学公共政策研究科『公共政策志林』編集委員会
雑誌
公共政策志林 = Public policy and social governance (ISSN:21875790)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.59-74, 2016-03-24

2015(平成27)年、第189 回通常国会において、「内閣の重要政策に関する総合調整等に関する機能の強化のための国家行政組織法等の一部を改正する法律案」(以下、「内閣機能強化法案」と言う。)が閣法第54 号として提出され、審議が行われた。中央省庁改革から十数年で、法による見直しを必要とするほど内閣官房及び内閣府に重要な政策課題が集中し問題が生じていたのである。本稿では、どれだけ内閣官房と内閣府が拡大して来たかを、特に第2 次安倍内閣以降、内閣はどのように内閣官房、内閣府を使っているのかということと、議員立法がどう関係しているのかということに焦点を当てて分かり易く図、表を使って示す。そこには安倍内閣が内閣官房、内閣府の拡大を伴う積極的な取組みを行っている様子とともに、「○○基本法」と称する等(以下「基本法等」という。)の議員立法が大きく関わっているという実態が浮かび上がって来る。特に議員立法に関しては、内閣機能強化法案の審査を通じて、政府からもその関わりについて明確な認識が示されることとなった。官庁の垣根を超えた問題に基本法等で担っていく役割が非常に大きくなっていることが、法案審査に関わった多くの議員、政府の職員、国会のスタッフ等にも認知されたと考える。一方、内閣機能強化法案の審査は、今後の内閣官房、内閣府の拡大への対策のスキームも示すこととなった。基本法等のあり方にも、期限設定等の点で影響を与える。しかし、官庁の垣根を超えた問題の解決の必要性自体を減ずるものではないため、当面の間、大きな変化は生じないのではないかと考える。
著者
栗田 昌之
出版者
法政大学公共政策研究科『公共政策志林』編集委員会
雑誌
公共政策志林 (ISSN:21875790)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.91-103, 2017-03-24

危機の想定はあらゆる危機管理の前提であり,その正確な想定は被害低減に直結する。しかし危機に対する有効な対処は,ときに技術的な,ときに政治的な,その他様々な要因により完全な施策として実施されることは少ない。危機管理行政の限界ともいえるこの問題の克服は,危機管理の最大の課題である。本稿では,伝統的危機管理である軍事的な危機について,東西冷戦期の主として1970年代,日本の防衛当局が脅威をどのように想定していたかについて整理することを目的とする。1970年代の対称脅威全盛の時期,危機の想定,その前提としての脅威の見積りを知ることは当時の防衛力の整備がどのような前提のもとで進められたかを知る手がかりである。防衛力の整備は少なくとも「基盤的防衛力構想」以前は,脅威に対抗させる防衛力すなわち脅威対抗防衛力を整備するとの観点で進められていた。脅威の前提である「仮想敵国はどこなのか」という追及に対して明確な回答を避けながら,事実上ソビエト社会主義共和国連邦の侵攻に対抗できるよう進められていた。日本の安全保障の分野では,様々な要因から,脅威を想定すること自体が問題とされることがあり,それらの情報を公にすることは避けられる傾向がある。そこで本稿では,研究者,防衛当局者OBの公開した情報に加え,入手できた内部資料を使いながら,当時語られていた北方脅威論についての考察を試みる。
著者
福井 弘教
出版者
法政大学公共政策研究科『公共政策志林』編集委員会
雑誌
公共政策志林 = Public policy and social governance (ISSN:21875790)
巻号頁・発行日
no.6, pp.89-103, 2018-03

ギャンブルは,正負両面共に強調されて,実際に何が課題となっていて,いかなる方策を必要とするか見えづらい点は否定できない。本稿では隣国,韓国との比較を通じて,ギャンブル政策の正負両面を明らかにしながら,日本のギャンブル政策理論を構築した上で,将来的に導入される可能性が高まった新規のギャンブル事業であるカジノの運営方式(マネジメント)から,依存症対策(ケア)に至るまでの政策提言までを射程として考察した。日本・韓国の公営競技におけるマネジメントに関しては一定の評価ができるものの,いずれも組織の肥大化を招いており,日本はケア対策の欠如も明らかとなった。宝くじ・スポーツ振興くじについては未だにギャンブルを自称せず,これら公営ギャンブルの負の側面を,「グレーゾーン」ともいえる私営ギャンブルのパチンコに強いてきたのが日本のギャンブル界である。他方,韓国では国(文化体育観光部)が主導して,ソウルオリンピックを契機とした跡地利用やスポーツ・文化行政との融合,適切な大小の規制を併用して,ギャンブル政策を運用してきたといえるが,逆に不法賭博を蔓延らせる要因ともなっており状況に応じた規制緩和も不可欠となろう。ギャンブル政策に正解はなく,常に模索を続ける必要がある。
著者
亀田 晃尚
出版者
法政大学公共政策研究科『公共政策志林』編集委員会
雑誌
公共政策志林 = 公共政策志林 (ISSN:21875790)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.133-146, 2018-03-24 (Released:2018-07-09)

中華人民共和国(以下「中国」という。)にとって,エネルギー不足は大きな問題となっている。国連海洋法条約上,中国は尖閣諸島周辺の石油資源の主権的権利を確保するためには,尖閣諸島の領有権を主張しなければならない。中国が経済的・安全保障的な高いリスクを背負ってまで,尖閣諸島に対する領土的野心を露わにすることは考えがたく,中国の尖閣諸島に関する領有権主張は石油資源を確保することを主眼としたものであると考えられる。中国は尖閣諸島周辺を含む東シナ海に800億バレルという莫大な石油埋蔵量を見込んでいる。米国防総省も中国の見方を裏付ける。一方,日本は32億バレルの埋蔵量しか見込んでいない。日本が中国の石油埋蔵量の認識についてどう捉えるかは,日本が中国に対してどのように対応していくかに直接関わってくる。尖閣諸島をめぐって,中国を相手に力で対抗しようとするリアリズム的対応を行えば,安全保障のジレンマに陥り,不測の事態を招きかねない。中国は尖閣諸島の領有権を棚上げしての共同開発を提唱しているが,日中双方の信頼関係が十分に醸成されていることが前提となる。したがって,いま必要なのは,中国が尖閣諸島周辺を含む東シナ海に莫大な石油資源を期待しているという現実を認識した対応であり,エスカレーション・ラダーを上げないための対話による中国への自制呼びかけや海上保安機関による冷静な現場対応に加えて,経済関係や人的・文化的交流の拡大といったリベラリズム的な不断の努力である。そうした努力の積み重ねによって日中の信頼関係は深く醸成されていくに違いない。その先に,尖閣諸島をめぐる問題の解決が見えてくるであろう。
著者
福井 弘教
出版者
法政大学公共政策研究科『公共政策志林』編集委員会
雑誌
公共政策志林 = Koukyo Seisaku Shirin : Public Policy and Social Governance (ISSN:21875790)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.321-336, 2021-03-24

自治体の収益事業には競馬,競艇,競輪,オートレースなど公営競技も該当する。公営競技事業は,自治体財政に大きく寄与する時期もあったが,それが難しい状況となっている。そうしたなか公営競技の撤退を決定する自治体が増加している。財政貢献が主たる事業目的であることからすると,当然の帰結といえるが多くの場合,撤退は唐突に発表され,結果のみが提示されて過程が不透明であることが課題である。本稿では公営競技撤退における首長判断に着目し,撤退と継続の両面から自治体の比較分析を行い,関連する政策終了論の検討も加えて,撤退判断の背景・要因を解明することを目的としている。考察の結果,それらは直接的利益や維持管理コストといった一側面を基準に撤退の決定がなされることが指摘できる。同時に議決不要などの制度や政治的事象に左右されることも散見された。すなわち,撤退判断にあたって明確な指標や基準は存在しないことが示唆された。
著者
竹野 克己
出版者
法政大学公共政策研究科『公共政策志林』編集委員会
雑誌
公共政策志林 = Public policy and social governance (ISSN:21875790)
巻号頁・発行日
no.3, pp.125-138, 2015-03

戦後日本における国土政策は,主に「全国総合開発計画(全総)」に結実されたが,その経済成長に寄与した役割は大きい。だがその本来の目的は経済成長のみならず,都市部と地域間との経済的格差を縮小し,風土や文化面,精神面の上でも,豊かな生活を目指すものであった。その意味で,この「全総」は失敗したとの評もあり,その結果,都市部と地方間の格差は一層増し,集落・コミュニティの崩壊の予兆すら現れはじめている。一般的に,国土政策の策定過程中,中央官庁の外縁部,例えば政治家のリーダーシップや学者,市民等に開かれた形で策定される機会は実際には多くなく,そのような外縁から「国土政策」を語ろうとした人物の例として,大平正芳があげられる。大平は青年期からの思想体験を,政治家となってからも自らの理想国家・社会像の中に位置づけ,政権獲得時には学者陣を動員して,国土・地域政策分野については「田園都市構想研究グループ」を立ち上げ,その成果は「田園都市国家の構想」という報告書となった。本報告書は計画論上の欠点も散見されるが,開かれつつも人々が地方で完結して生活できる都市の構想,伝統・文化への深い視点,新しい共同体像にまで目配りされた,ある種特異なものであり,今後の理想社会像,モデルとなり得る可能性を持っていた。本稿では戦後国土政策の歴史の概略を辿りつつ,大平の「同構想」の策定にあたり,重要な要素と思われる大平自身の人生上のエポック等について触れつつ,今後の国土政策上必要な要素,策定手法等を筆者なりに考察した。
著者
辻 英史
出版者
法政大学公共政策研究科『公共政策志林』編集委員会
雑誌
公共政策志林 = Public policy and social governance (ISSN:21875790)
巻号頁・発行日
no.2, pp.117-130, 2014-03

ドイツでは2000年代以降,市民参加を拡大する試みが続けられている。参加政策と総称されるこの試みは,市民の行政参加やボランティア活動を促進するため,法的条件整備だけでなく政治文化や社会福祉制度,国家の役割にいたるまで全面的に改革しようとするものである。本稿は,このようなドイツの現状を踏まえて,ドイツの市民参加がどのようなものであったのか,その実態を歴史をさかのぼって検証することで,現代の参加政策の立ち位置を探ろうとするものである。19世紀におけるドイツの市民参加は市民層を中心とし,社会福祉領域に中心があった。民間では社会改良主義的な関心の強い民間福祉団体が活躍し,都市自治体ではエルバーフェルト制度の名で知られる名誉職官吏による公的救貧事業が盛んにおこなわれた。このような市民参加の「古典主義時代」は,第1次世界大戦前後を境に大きな変化を遂げた。より教育と訓練を受けた専門職の比重が高まり,各民間団体や自治体は国家の社会福祉システムのなかに組み込まれる傾向が強まった。こうして市民参加の専門職化と組織化を特徴とする社会国家と呼ばれる社会福祉体制が形成され,その後のナチ期や戦後の西ドイツにおいても基本的に維持されてきた。1960年代から70年代にかけて,西ドイツでは新しい市民参加のスタイルが出現した。それは1968年に頂点を迎えた学生運動をはじめとする対抗文化や政治的批判運動の時期を経て,1970年代には,新しい社会運動と呼ばれる平和・環境・ジェンダーなどの問題を扱うオルターナティヴな志向を持つ市民グループが叢生した。このような「参加革命」と呼ばれる現象により,1980年代以降草の根民主主義型の政治文化が社会のなかに広まっていった。このような歴史的概観から見ると,現代ドイツの参加政策は20世紀初めから続いてきた社会国家型の市民参加のあり方を改め,1970年代以降の新しい社会運動に見られるような現状批判的・改革主義的なエネルギーを公的な領域に吸い上げることを目指していると考えられる。その試みの歴史的な評価はなお今後の課題である。
著者
日向 道
出版者
法政大学公共政策研究科『公共政策志林』編集委員会
雑誌
公共政策志林 = Koukyo Seisaku Shirin : Public Policy and Social Governance (ISSN:21875790)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.306-320, 2021-03-24

国民・国家の防衛は国の専管事項として,自衛隊法に基づき,防衛省・自衛隊がほぼ独占的に担ってきたが,国民保護法が2004年に制定され,その一部が変更された。全ての自治体は,地方分権改革と時期を同じくして,新たに防衛に関する責務が与えられた。それは法定受託事務である「国民の保護」であり「戦後ほとんど無縁の業務」であった。こうして全市町村も,国が示した国民の保護の基本方針と都道府県作成の国民保護計画を受けて国民保護計画を作成して国民保護業務を始めた。そのうち自衛隊が所在する市町村では,「まちづくり」のため「自衛隊との共存・共栄」を掲げて,基地・駐屯地の維持・拡充を求める運動を行っているが,それが最も盛んであるのは北海道の基礎自治体である。本論文では,当初の国民保護の計画作成・執行と訓練にあたっての議論,問題及び防衛行政に対する姿勢及び自衛隊との協働関係について,北海道の自衛隊が所在する基礎自治体の事例を用いて考察した。その結果,自治体は戸惑いながらも,長年維持してきた駐屯地との良好な協働関係を活用して自らの力で国民の保護業務を遂行している。しかし,国民保護法制は,施行後約20年経っても,全国的には未だ改善を要する多くの問題と課題がある。
著者
平川 幸子
出版者
法政大学公共政策研究科『公共政策志林』編集委員会
雑誌
公共政策志林 = 公共政策志林 (ISSN:21875790)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.231-247, 2018-03-24

近年,途上国を中心に発生している新興・再興感染症が,人々の健康に重大な影響を与える公衆衛生危機として課題となっている。感染症パンデミックをはじめとする公衆衛生危機に備えて,日本でも事前の計画作成を行っているが,想定外の事象が発生することで柔軟な対応が求められる場合も多い。本稿では,日本と米国の公衆衛生緊急事態への対応について,2009年に発生した新型インフルエンザH1N1への対応を中心に分析し,日米の対応の比較を行った。米国においては大統領や州知事が緊急事態宣言,保健福祉省長官の公衆衛生危機事態宣言の発出等により,緊急対応が行われた。日本でも2012年に新型インフルエンザ等対策特別措置法が制定され,緊急事態宣言等を含めて整備されている。
著者
宮﨑 一徳
出版者
法政大学公共政策研究科『公共政策志林』編集委員会
雑誌
公共政策志林 = Public policy and social governance (ISSN:21875790)
巻号頁・発行日
no.4, pp.59-74, 2016-03

2015(平成27)年、第189 回通常国会において、「内閣の重要政策に関する総合調整等に関する機能の強化のための国家行政組織法等の一部を改正する法律案」(以下、「内閣機能強化法案」と言う。)が閣法第54 号として提出され、審議が行われた。中央省庁改革から十数年で、法による見直しを必要とするほど内閣官房及び内閣府に重要な政策課題が集中し問題が生じていたのである。本稿では、どれだけ内閣官房と内閣府が拡大して来たかを、特に第2 次安倍内閣以降、内閣はどのように内閣官房、内閣府を使っているのかということと、議員立法がどう関係しているのかということに焦点を当てて分かり易く図、表を使って示す。そこには安倍内閣が内閣官房、内閣府の拡大を伴う積極的な取組みを行っている様子とともに、「○○基本法」と称する等(以下「基本法等」という。)の議員立法が大きく関わっているという実態が浮かび上がって来る。特に議員立法に関しては、内閣機能強化法案の審査を通じて、政府からもその関わりについて明確な認識が示されることとなった。官庁の垣根を超えた問題に基本法等で担っていく役割が非常に大きくなっていることが、法案審査に関わった多くの議員、政府の職員、国会のスタッフ等にも認知されたと考える。一方、内閣機能強化法案の審査は、今後の内閣官房、内閣府の拡大への対策のスキームも示すこととなった。基本法等のあり方にも、期限設定等の点で影響を与える。しかし、官庁の垣根を超えた問題の解決の必要性自体を減ずるものではないため、当面の間、大きな変化は生じないのではないかと考える。
著者
福嶋 美佐子
出版者
法政大学公共政策研究科『公共政策志林』編集委員会
雑誌
公共政策志林 = Public policy and social governance (ISSN:21875790)
巻号頁・発行日
no.5, pp.165-179, 2017-03

本研究の目的は,「才能をめぐるグローバル競争」の時代において,外国人高度人材の予備軍として留学生を積極的に受け入れようとしている韓国とオーストラリア,日本の留学生政策を比較し,日本における政策において必要とされる点を見出すことである。3か国の比較を通じて,かつては日本を手本としていた韓国は,留学生獲得に積極的に乗り出し,定住を視野に政策を組み立て始めていること,オーストラリアも留学生政策と移民政策が連動しており,高度人材予備軍としての留学生を総合的に管理,育成するシステムができていることが明らかとなった。留学生受け入れ機関の質的保証や,留学生の総合的管理など質に関しては日本のモデルケースとなるものの,留学生の非熟練労働者への移行など質を保ちながら量を確保することの難しさもあり,考慮しながら応用する必要があると思われる。
著者
平川 幸子
出版者
法政大学公共政策研究科『公共政策志林』編集委員会
雑誌
公共政策志林 = Public policy and social governance (ISSN:21875790)
巻号頁・発行日
no.6, pp.231-247, 2018-03

近年,途上国を中心に発生している新興・再興感染症が,人々の健康に重大な影響を与える公衆衛生危機として課題となっている。感染症パンデミックをはじめとする公衆衛生危機に備えて,日本でも事前の計画作成を行っているが,想定外の事象が発生することで柔軟な対応が求められる場合も多い。本稿では,日本と米国の公衆衛生緊急事態への対応について,2009年に発生した新型インフルエンザH1N1への対応を中心に分析し,日米の対応の比較を行った。米国においては大統領や州知事が緊急事態宣言,保健福祉省長官の公衆衛生危機事態宣言の発出等により,緊急対応が行われた。日本でも2012年に新型インフルエンザ等対策特別措置法が制定され,緊急事態宣言等を含めて整備されている。
著者
竹野 克己
出版者
法政大学公共政策研究科『公共政策志林』編集委員会
雑誌
公共政策志林 = Public policy and social governance (ISSN:21875790)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.125-138, 2015-03-24

戦後日本における国土政策は,主に「全国総合開発計画(全総)」に結実されたが,その経済成長に寄与した役割は大きい。だがその本来の目的は経済成長のみならず,都市部と地域間との経済的格差を縮小し,風土や文化面,精神面の上でも,豊かな生活を目指すものであった。その意味で,この「全総」は失敗したとの評もあり,その結果,都市部と地方間の格差は一層増し,集落・コミュニティの崩壊の予兆すら現れはじめている。一般的に,国土政策の策定過程中,中央官庁の外縁部,例えば政治家のリーダーシップや学者,市民等に開かれた形で策定される機会は実際には多くなく,そのような外縁から「国土政策」を語ろうとした人物の例として,大平正芳があげられる。大平は青年期からの思想体験を,政治家となってからも自らの理想国家・社会像の中に位置づけ,政権獲得時には学者陣を動員して,国土・地域政策分野については「田園都市構想研究グループ」を立ち上げ,その成果は「田園都市国家の構想」という報告書となった。本報告書は計画論上の欠点も散見されるが,開かれつつも人々が地方で完結して生活できる都市の構想,伝統・文化への深い視点,新しい共同体像にまで目配りされた,ある種特異なものであり,今後の理想社会像,モデルとなり得る可能性を持っていた。本稿では戦後国土政策の歴史の概略を辿りつつ,大平の「同構想」の策定にあたり,重要な要素と思われる大平自身の人生上のエポック等について触れつつ,今後の国土政策上必要な要素,策定手法等を筆者なりに考察した。
著者
宮川 裕二
出版者
法政大学公共政策研究科『公共政策志林』編集委員会
雑誌
公共政策志林 = Public policy and social governance (ISSN:21875790)
巻号頁・発行日
no.5, pp.29-41, 2017-03

「新しい公共」およびその類義語は,しばしばその多義性が指摘されてきた概念である。筆者はその「新しい公共」概念を,市場・市民社会・統治という3つのコンテキストから導いた6つのポジション類型,すなわちロールバック新自由主義,左派,参加型市民社会派,新国家主義,ロールアウト新自由主義,統治性研究という類型によって整理し,各代表的論者の文献や発言にあたりつつ,それぞれの性格を論じた。そしてその枠組みから,1990年代後半以降政府によって採用され,日本の新たな国家・社会の改革・形成指針として大きな影響を及ぼしてきた「新しい公共(空間)」政策言説を分析し,以下のような見解を得た。それは,「新しい公共(空間)」政策言説とは,どのポジションが主調を成したのかによって揺れを伴ったものとなっており,第1期:ロールアウト新自由主義型言説の形成,第2期:ロールバック新自由主義型言説の隆盛,第3期:ロールアウト新自由主義型言説の実現,第4期:「新しい公共(空間)」政策言説の停滞,として時期区分することが可能である,というものである。そして最後に,ロールアウト新自由主義とその言説―具体的には主に松井孝治が提唱・推進した「公共性の空間」と「新しい公共」―は,従前の研究では看過されがちであったことに触れ,その問題構成を浮き彫りにする統治性研究の重要性について言及した。
著者
橘田 誠
出版者
法政大学公共政策研究科『公共政策志林』編集委員会
雑誌
公共政策志林 = Public policy and social governance (ISSN:21875790)
巻号頁・発行日
no.8, pp.1-13, 2020-03

本論文の目的は,1956年に創設された政令指定都市に行政区が設けられた経緯をふまえ,行政区の現状と今後の展望を考察することである。政令指定都市は,市域内に区域を分けて行政区を設け,区の事務所(区役所)を置き,市長の補助機関として事務所の長である区長を配置している。本論文では,まず,戦前からの行政区制度の理論的研究と政令指定都市の増加に伴い行政区が多様化していることを整理した先行研究を紹介する。第2章では,戦前の郡区町村編制法の区,市制と市制改正後の区,地方自治法に規定された区の形態から,1956年に政令指定都市の行政区制度が創設されるまでの沿革をまとめている。第3章では,政令指定都市の行政区の現況を概観して,行政区の機能・役割が多様化していることに言及する。第4章では,国における第30次地方制度調査会等の大都市制度改革議論と行政区制度の関係を整理する。最後に,第4章で紹介した大都市制度改革議論の結果,制度化された仕組みを活用した行政区改革の選択肢を示した上で,大都市自治の拡充という視点から,行政区制度の利点を活かした都市内分権を進めるための方向性を提示する。
著者
福井 弘教
出版者
法政大学公共政策研究科『公共政策志林』編集委員会
雑誌
公共政策志林 = 公共政策志林 (ISSN:21875790)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.149-163, 2017-03-24

1947年の地方自治法制定を契機として,競馬(中央・地方),競輪,オートレース,競艇という多様な公営競技が順次開始された。これらは主に地方自治体が施行者となって主催し,その収益が財政(地方・国),公益事業等に貢献してきた。具体的には,公共事業を中心に,災害復興,産業経済振興など広範囲に渡り大きな役割を担ってきたが,これはギャンブルという古くから,負のイメージの強い事象に対して,「財政貢献」,「社会貢献」,「競技関連産業振興」という正の側面を入力することにより,本来禁止されている賭博を,正当化する仕組みとなっている。公営競技の売上は高く推移して,順調に財政貢献してきたが,売上のピークは過ぎ,財政貢献はおろか,逆に一般会計からの持ち出しとなっている施行者も存在する。近年は,中央競馬・競艇を除いて存続についての議論がなされるケースが多く,廃止・撤退が相次いでいる。国策としてのギャンブル事業は公営競技以外にも,宝くじやスポーツ振興くじがあり,カジノについても将来の導入が見込める状況となり,既存の公営競技の改革は喫緊の課題である。本稿では,日本発祥の公営競技の変遷,形成過程,仕組みについて,競艇(ボートレース)を中心に概観し,現状分析を行うことにより,公営競技の政策課題を提示した。
著者
栗田 昌之
出版者
法政大学公共政策研究科『公共政策志林』編集委員会
雑誌
公共政策志林 = Public policy and social governance (ISSN:21875790)
巻号頁・発行日
no.3, pp.29-45, 2015-03

本稿では,戦後の災害対策の政策を,その前提となる政治,行政,国民の認識の変化を念頭に,防災関係の法令及び予算を概観し,次に危機管理研究の成果である危機の定義と危機の段階的把握を整理した上で,災害政策の傾向,すなわち災害政策が「防災」から「危機管理」へ変化,拡大されていく過程及びその意義を明らかにする。初めに戦後の我が国の災害を概観し,同時期の災害関係の法令と予算を検討する。次に災害政策を考える上で参考となる危機管理研究の成果である危機の定義と危機の段階的アプローチを整理する。最後に政治・行政の分野で災害対策が「防災」から「危機管理」へ拡大あるいは統合されていく過程を明らかにしその意義を考察する。
著者
藤倉 良 カリミ シャフルディン アンドリアヌス フェリー 武貞 稔彦 吉田 秀美 眞田 陽一郎 澤津 直也 寺末 奈央
出版者
法政大学公共政策研究科『公共政策志林』編集委員会
雑誌
公共政策志林 = Public policy and social governance (ISSN:21875790)
巻号頁・発行日
no.6, pp.27-37, 2018-03

インドネシア,スマトラ島に建設されたコトパンジャン・ダムによって1990年代に移転した村落の生活再建について研究成果をレビューし,2017年に行ったフィールド調査と合わせて長期的に評価した。移転は村落ごとに行われ,移転民には水没した財産に対する100パーセントの金銭補償に加えて,政府が造成したゴム園の無償提供もしくはアブラヤシ園の有償提供が行われた。10村がゴム園を2村がアブラヤシ園を選択した。しかし,ゴム園では政府の約束とは異なり,住民の移転時には未整備であり,整備されて収穫が得られるまで,住民は生活再建に支障をきたした。そのような状況の中で,ナマズの養殖と加工を開始した村落では,副収入により所得が増加した。アブラヤシ園を選択した村落では,収穫が得られるまで賃金労働する場が提供され,分譲された農地をローンで購入することができた。さらに,移住してきたジャワ人を労働力として使うことで農園を拡大し,所得を大幅に増やすことができた。住民が移転後も農業によって生活を再建することが前提となる計画の場合には,実際に収穫が得られるまでの生活支援が必要である。さらに,政府は移転民が予想通りに農業収入が得られない場合に備えて,副収入源を得る機会を提供することが望ましい。