著者
宮﨑 一徳
出版者
法政大学公共政策研究科『公共政策志林』編集委員会
雑誌
公共政策志林 = Public policy and social governance (ISSN:21875790)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.59-74, 2016-03-24

2015(平成27)年、第189 回通常国会において、「内閣の重要政策に関する総合調整等に関する機能の強化のための国家行政組織法等の一部を改正する法律案」(以下、「内閣機能強化法案」と言う。)が閣法第54 号として提出され、審議が行われた。中央省庁改革から十数年で、法による見直しを必要とするほど内閣官房及び内閣府に重要な政策課題が集中し問題が生じていたのである。本稿では、どれだけ内閣官房と内閣府が拡大して来たかを、特に第2 次安倍内閣以降、内閣はどのように内閣官房、内閣府を使っているのかということと、議員立法がどう関係しているのかということに焦点を当てて分かり易く図、表を使って示す。そこには安倍内閣が内閣官房、内閣府の拡大を伴う積極的な取組みを行っている様子とともに、「○○基本法」と称する等(以下「基本法等」という。)の議員立法が大きく関わっているという実態が浮かび上がって来る。特に議員立法に関しては、内閣機能強化法案の審査を通じて、政府からもその関わりについて明確な認識が示されることとなった。官庁の垣根を超えた問題に基本法等で担っていく役割が非常に大きくなっていることが、法案審査に関わった多くの議員、政府の職員、国会のスタッフ等にも認知されたと考える。一方、内閣機能強化法案の審査は、今後の内閣官房、内閣府の拡大への対策のスキームも示すこととなった。基本法等のあり方にも、期限設定等の点で影響を与える。しかし、官庁の垣根を超えた問題の解決の必要性自体を減ずるものではないため、当面の間、大きな変化は生じないのではないかと考える。
著者
福井 弘教
出版者
法政大学公共政策研究科『公共政策志林』編集委員会
雑誌
公共政策志林 = Public policy and social governance (ISSN:21875790)
巻号頁・発行日
no.6, pp.89-103, 2018-03

ギャンブルは,正負両面共に強調されて,実際に何が課題となっていて,いかなる方策を必要とするか見えづらい点は否定できない。本稿では隣国,韓国との比較を通じて,ギャンブル政策の正負両面を明らかにしながら,日本のギャンブル政策理論を構築した上で,将来的に導入される可能性が高まった新規のギャンブル事業であるカジノの運営方式(マネジメント)から,依存症対策(ケア)に至るまでの政策提言までを射程として考察した。日本・韓国の公営競技におけるマネジメントに関しては一定の評価ができるものの,いずれも組織の肥大化を招いており,日本はケア対策の欠如も明らかとなった。宝くじ・スポーツ振興くじについては未だにギャンブルを自称せず,これら公営ギャンブルの負の側面を,「グレーゾーン」ともいえる私営ギャンブルのパチンコに強いてきたのが日本のギャンブル界である。他方,韓国では国(文化体育観光部)が主導して,ソウルオリンピックを契機とした跡地利用やスポーツ・文化行政との融合,適切な大小の規制を併用して,ギャンブル政策を運用してきたといえるが,逆に不法賭博を蔓延らせる要因ともなっており状況に応じた規制緩和も不可欠となろう。ギャンブル政策に正解はなく,常に模索を続ける必要がある。
著者
竹野 克己
出版者
法政大学公共政策研究科『公共政策志林』編集委員会
雑誌
公共政策志林 = Public policy and social governance (ISSN:21875790)
巻号頁・発行日
no.3, pp.125-138, 2015-03

戦後日本における国土政策は,主に「全国総合開発計画(全総)」に結実されたが,その経済成長に寄与した役割は大きい。だがその本来の目的は経済成長のみならず,都市部と地域間との経済的格差を縮小し,風土や文化面,精神面の上でも,豊かな生活を目指すものであった。その意味で,この「全総」は失敗したとの評もあり,その結果,都市部と地方間の格差は一層増し,集落・コミュニティの崩壊の予兆すら現れはじめている。一般的に,国土政策の策定過程中,中央官庁の外縁部,例えば政治家のリーダーシップや学者,市民等に開かれた形で策定される機会は実際には多くなく,そのような外縁から「国土政策」を語ろうとした人物の例として,大平正芳があげられる。大平は青年期からの思想体験を,政治家となってからも自らの理想国家・社会像の中に位置づけ,政権獲得時には学者陣を動員して,国土・地域政策分野については「田園都市構想研究グループ」を立ち上げ,その成果は「田園都市国家の構想」という報告書となった。本報告書は計画論上の欠点も散見されるが,開かれつつも人々が地方で完結して生活できる都市の構想,伝統・文化への深い視点,新しい共同体像にまで目配りされた,ある種特異なものであり,今後の理想社会像,モデルとなり得る可能性を持っていた。本稿では戦後国土政策の歴史の概略を辿りつつ,大平の「同構想」の策定にあたり,重要な要素と思われる大平自身の人生上のエポック等について触れつつ,今後の国土政策上必要な要素,策定手法等を筆者なりに考察した。
著者
辻 英史
出版者
法政大学公共政策研究科『公共政策志林』編集委員会
雑誌
公共政策志林 = Public policy and social governance (ISSN:21875790)
巻号頁・発行日
no.2, pp.117-130, 2014-03

ドイツでは2000年代以降,市民参加を拡大する試みが続けられている。参加政策と総称されるこの試みは,市民の行政参加やボランティア活動を促進するため,法的条件整備だけでなく政治文化や社会福祉制度,国家の役割にいたるまで全面的に改革しようとするものである。本稿は,このようなドイツの現状を踏まえて,ドイツの市民参加がどのようなものであったのか,その実態を歴史をさかのぼって検証することで,現代の参加政策の立ち位置を探ろうとするものである。19世紀におけるドイツの市民参加は市民層を中心とし,社会福祉領域に中心があった。民間では社会改良主義的な関心の強い民間福祉団体が活躍し,都市自治体ではエルバーフェルト制度の名で知られる名誉職官吏による公的救貧事業が盛んにおこなわれた。このような市民参加の「古典主義時代」は,第1次世界大戦前後を境に大きな変化を遂げた。より教育と訓練を受けた専門職の比重が高まり,各民間団体や自治体は国家の社会福祉システムのなかに組み込まれる傾向が強まった。こうして市民参加の専門職化と組織化を特徴とする社会国家と呼ばれる社会福祉体制が形成され,その後のナチ期や戦後の西ドイツにおいても基本的に維持されてきた。1960年代から70年代にかけて,西ドイツでは新しい市民参加のスタイルが出現した。それは1968年に頂点を迎えた学生運動をはじめとする対抗文化や政治的批判運動の時期を経て,1970年代には,新しい社会運動と呼ばれる平和・環境・ジェンダーなどの問題を扱うオルターナティヴな志向を持つ市民グループが叢生した。このような「参加革命」と呼ばれる現象により,1980年代以降草の根民主主義型の政治文化が社会のなかに広まっていった。このような歴史的概観から見ると,現代ドイツの参加政策は20世紀初めから続いてきた社会国家型の市民参加のあり方を改め,1970年代以降の新しい社会運動に見られるような現状批判的・改革主義的なエネルギーを公的な領域に吸い上げることを目指していると考えられる。その試みの歴史的な評価はなお今後の課題である。
著者
宮﨑 一徳
出版者
法政大学公共政策研究科『公共政策志林』編集委員会
雑誌
公共政策志林 = Public policy and social governance (ISSN:21875790)
巻号頁・発行日
no.4, pp.59-74, 2016-03

2015(平成27)年、第189 回通常国会において、「内閣の重要政策に関する総合調整等に関する機能の強化のための国家行政組織法等の一部を改正する法律案」(以下、「内閣機能強化法案」と言う。)が閣法第54 号として提出され、審議が行われた。中央省庁改革から十数年で、法による見直しを必要とするほど内閣官房及び内閣府に重要な政策課題が集中し問題が生じていたのである。本稿では、どれだけ内閣官房と内閣府が拡大して来たかを、特に第2 次安倍内閣以降、内閣はどのように内閣官房、内閣府を使っているのかということと、議員立法がどう関係しているのかということに焦点を当てて分かり易く図、表を使って示す。そこには安倍内閣が内閣官房、内閣府の拡大を伴う積極的な取組みを行っている様子とともに、「○○基本法」と称する等(以下「基本法等」という。)の議員立法が大きく関わっているという実態が浮かび上がって来る。特に議員立法に関しては、内閣機能強化法案の審査を通じて、政府からもその関わりについて明確な認識が示されることとなった。官庁の垣根を超えた問題に基本法等で担っていく役割が非常に大きくなっていることが、法案審査に関わった多くの議員、政府の職員、国会のスタッフ等にも認知されたと考える。一方、内閣機能強化法案の審査は、今後の内閣官房、内閣府の拡大への対策のスキームも示すこととなった。基本法等のあり方にも、期限設定等の点で影響を与える。しかし、官庁の垣根を超えた問題の解決の必要性自体を減ずるものではないため、当面の間、大きな変化は生じないのではないかと考える。
著者
笘米地 真理
出版者
法政大学公共政策研究科
雑誌
公共政策志林 = Public policy and social governance (ISSN:21875790)
巻号頁・発行日
no.3, pp.139-153, 2015-03

尖閣諸島に関する日本政府の「基本見解」は,「尖閣諸島をめぐり解決すべき領有権の問題はそもそも存在していません」である。これを見れば,明治政府が1895年に尖閣諸島を編入する閣議決定を行って以来,一貫して政府がそのように主張していたものと考えがちである。しかし,筆者は国会会議録や関連する公文書を精査し,「尖閣諸島の領有権をめぐって解決すべき問題はそもそも存在しない」と最初に政府が明言したのは1985年4月であることを修士論文で明らかにした。従来の先行研究では,日本政府による領有権問題の否定は1990年代からとするものはあるが,1985年4月の安倍晋太郎外相の国会答弁が起源だと解明したものは,管見の限り見当たらない。しかも,その安倍外相の答弁には,尖閣「問題」を解決するためのヒントとなりえる現実的な視点も含まれている。2013年12月26日,安倍晋三首相は,2006年から2007年の第一次内閣時には自制していた靖国神社参拝を実行し,中国側は強く反発した。他方,首相の父親である安倍晋太郎は,1985年4月に外相として,石油共同開発についても念頭においた上で,大陸棚の開発については「今後中国側とも相談をしていく必要がある」と答えていた。自衛隊機への中国軍機による異常接近など,その後も継続する緊張状況もふまえ,尖閣諸島「問題」に対する政策的解決策を提言したい。"The Basic View on the Sovereignty over the Senkaku Islands" : quoted from the official website of MOFA (Ministry of Foreign Affairs of Japan) is "There is no doubt that the Senkaku Islands are clearly an inherent part of the territory of Japan, in light of historical facts and based upon international law. Indeed, the Senkaku Islands are under the valid control of Japan. There exists no issue of territorial sovereignty to be resolved concerning the Senkaku Islands." If you look at this, you tend to think as that since conducted a Cabinet decision that the Meiji government incorporated the Senkaku Islands in 1895, the government had claimed so consistently. However, I was reviewing the official documents and related parliamentary proceedings, the government had stated in the first "There exists no issue of territorial sovereignty to be resolved concerning the Senkaku Islands", said that it is an April 1985 I made it clear in the essay. Some earlier studies acknowledged at the Japanese Government had been denied territorial issue since 1990s. However, in my research, I could not find a study that clarified the Foreign Minister, Mr. ABE Shintaro as the origin. Moreover, the answer of the Foreign Minister Abe, realistic view, which can be a hint to solve the Senkaku a "problem" are also included. Based on such abnormally close by the Chinese military aircraft to the SDF machine, also tension situation to continue then greatly retouched in part of the contents of my master thesis, you want to recommend policy solutions Senkaku Islands dispute.
著者
福嶋 美佐子
出版者
法政大学公共政策研究科『公共政策志林』編集委員会
雑誌
公共政策志林 = Public policy and social governance (ISSN:21875790)
巻号頁・発行日
no.5, pp.165-179, 2017-03

本研究の目的は,「才能をめぐるグローバル競争」の時代において,外国人高度人材の予備軍として留学生を積極的に受け入れようとしている韓国とオーストラリア,日本の留学生政策を比較し,日本における政策において必要とされる点を見出すことである。3か国の比較を通じて,かつては日本を手本としていた韓国は,留学生獲得に積極的に乗り出し,定住を視野に政策を組み立て始めていること,オーストラリアも留学生政策と移民政策が連動しており,高度人材予備軍としての留学生を総合的に管理,育成するシステムができていることが明らかとなった。留学生受け入れ機関の質的保証や,留学生の総合的管理など質に関しては日本のモデルケースとなるものの,留学生の非熟練労働者への移行など質を保ちながら量を確保することの難しさもあり,考慮しながら応用する必要があると思われる。
著者
栗田 昌之
出版者
法政大学公共政策研究科
雑誌
公共政策志林 = Public policy and social governance (ISSN:21875790)
巻号頁・発行日
no.4, pp.43-58, 2016-03

本稿では主として1970 年代の防衛政策、特に「基盤的防衛力構想」の策定がその後の防衛政策に与えた影響を考察する。戦後、我が国における防衛政策は憲法上の制約、各政党の方針の違い、政府の基本的態度(日米安全保障条約、非核三原則、文民統制等)、周辺情勢の変化等々、様々な要因に影響され進められてきた。防衛担当者は、政策を策定、実行するにあたり、戦争体験者を中心とする国民の意識やメディアの態度などを常に気にしていた。そのような背景の中「基盤的防衛力構想」が策定されると、①軍事的には、それまで軍事専門家たるいわゆる制服組主導で行われていた防衛力整備政策の流れが変化し、②政治的には、主として国会における防衛政策に関する議論の流れが変化した。このそれぞれの変化を、政治家や防衛担当者の背広組と制服組の動向、および防衛力整備計画の推移を確認しながら明らかにする。
著者
平川 幸子
出版者
法政大学公共政策研究科『公共政策志林』編集委員会
雑誌
公共政策志林 = Public policy and social governance (ISSN:21875790)
巻号頁・発行日
no.6, pp.231-247, 2018-03

近年,途上国を中心に発生している新興・再興感染症が,人々の健康に重大な影響を与える公衆衛生危機として課題となっている。感染症パンデミックをはじめとする公衆衛生危機に備えて,日本でも事前の計画作成を行っているが,想定外の事象が発生することで柔軟な対応が求められる場合も多い。本稿では,日本と米国の公衆衛生緊急事態への対応について,2009年に発生した新型インフルエンザH1N1への対応を中心に分析し,日米の対応の比較を行った。米国においては大統領や州知事が緊急事態宣言,保健福祉省長官の公衆衛生危機事態宣言の発出等により,緊急対応が行われた。日本でも2012年に新型インフルエンザ等対策特別措置法が制定され,緊急事態宣言等を含めて整備されている。
著者
竹野 克己
出版者
法政大学公共政策研究科『公共政策志林』編集委員会
雑誌
公共政策志林 = Public policy and social governance (ISSN:21875790)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.125-138, 2015-03-24

戦後日本における国土政策は,主に「全国総合開発計画(全総)」に結実されたが,その経済成長に寄与した役割は大きい。だがその本来の目的は経済成長のみならず,都市部と地域間との経済的格差を縮小し,風土や文化面,精神面の上でも,豊かな生活を目指すものであった。その意味で,この「全総」は失敗したとの評もあり,その結果,都市部と地方間の格差は一層増し,集落・コミュニティの崩壊の予兆すら現れはじめている。一般的に,国土政策の策定過程中,中央官庁の外縁部,例えば政治家のリーダーシップや学者,市民等に開かれた形で策定される機会は実際には多くなく,そのような外縁から「国土政策」を語ろうとした人物の例として,大平正芳があげられる。大平は青年期からの思想体験を,政治家となってからも自らの理想国家・社会像の中に位置づけ,政権獲得時には学者陣を動員して,国土・地域政策分野については「田園都市構想研究グループ」を立ち上げ,その成果は「田園都市国家の構想」という報告書となった。本報告書は計画論上の欠点も散見されるが,開かれつつも人々が地方で完結して生活できる都市の構想,伝統・文化への深い視点,新しい共同体像にまで目配りされた,ある種特異なものであり,今後の理想社会像,モデルとなり得る可能性を持っていた。本稿では戦後国土政策の歴史の概略を辿りつつ,大平の「同構想」の策定にあたり,重要な要素と思われる大平自身の人生上のエポック等について触れつつ,今後の国土政策上必要な要素,策定手法等を筆者なりに考察した。
著者
宮川 裕二
出版者
法政大学公共政策研究科『公共政策志林』編集委員会
雑誌
公共政策志林 = Public policy and social governance (ISSN:21875790)
巻号頁・発行日
no.5, pp.29-41, 2017-03

「新しい公共」およびその類義語は,しばしばその多義性が指摘されてきた概念である。筆者はその「新しい公共」概念を,市場・市民社会・統治という3つのコンテキストから導いた6つのポジション類型,すなわちロールバック新自由主義,左派,参加型市民社会派,新国家主義,ロールアウト新自由主義,統治性研究という類型によって整理し,各代表的論者の文献や発言にあたりつつ,それぞれの性格を論じた。そしてその枠組みから,1990年代後半以降政府によって採用され,日本の新たな国家・社会の改革・形成指針として大きな影響を及ぼしてきた「新しい公共(空間)」政策言説を分析し,以下のような見解を得た。それは,「新しい公共(空間)」政策言説とは,どのポジションが主調を成したのかによって揺れを伴ったものとなっており,第1期:ロールアウト新自由主義型言説の形成,第2期:ロールバック新自由主義型言説の隆盛,第3期:ロールアウト新自由主義型言説の実現,第4期:「新しい公共(空間)」政策言説の停滞,として時期区分することが可能である,というものである。そして最後に,ロールアウト新自由主義とその言説―具体的には主に松井孝治が提唱・推進した「公共性の空間」と「新しい公共」―は,従前の研究では看過されがちであったことに触れ,その問題構成を浮き彫りにする統治性研究の重要性について言及した。
著者
橘田 誠
出版者
法政大学公共政策研究科『公共政策志林』編集委員会
雑誌
公共政策志林 = Public policy and social governance (ISSN:21875790)
巻号頁・発行日
no.8, pp.1-13, 2020-03

本論文の目的は,1956年に創設された政令指定都市に行政区が設けられた経緯をふまえ,行政区の現状と今後の展望を考察することである。政令指定都市は,市域内に区域を分けて行政区を設け,区の事務所(区役所)を置き,市長の補助機関として事務所の長である区長を配置している。本論文では,まず,戦前からの行政区制度の理論的研究と政令指定都市の増加に伴い行政区が多様化していることを整理した先行研究を紹介する。第2章では,戦前の郡区町村編制法の区,市制と市制改正後の区,地方自治法に規定された区の形態から,1956年に政令指定都市の行政区制度が創設されるまでの沿革をまとめている。第3章では,政令指定都市の行政区の現況を概観して,行政区の機能・役割が多様化していることに言及する。第4章では,国における第30次地方制度調査会等の大都市制度改革議論と行政区制度の関係を整理する。最後に,第4章で紹介した大都市制度改革議論の結果,制度化された仕組みを活用した行政区改革の選択肢を示した上で,大都市自治の拡充という視点から,行政区制度の利点を活かした都市内分権を進めるための方向性を提示する。
著者
栗田 昌之
出版者
法政大学公共政策研究科『公共政策志林』編集委員会
雑誌
公共政策志林 = Public policy and social governance (ISSN:21875790)
巻号頁・発行日
no.3, pp.29-45, 2015-03

本稿では,戦後の災害対策の政策を,その前提となる政治,行政,国民の認識の変化を念頭に,防災関係の法令及び予算を概観し,次に危機管理研究の成果である危機の定義と危機の段階的把握を整理した上で,災害政策の傾向,すなわち災害政策が「防災」から「危機管理」へ変化,拡大されていく過程及びその意義を明らかにする。初めに戦後の我が国の災害を概観し,同時期の災害関係の法令と予算を検討する。次に災害政策を考える上で参考となる危機管理研究の成果である危機の定義と危機の段階的アプローチを整理する。最後に政治・行政の分野で災害対策が「防災」から「危機管理」へ拡大あるいは統合されていく過程を明らかにしその意義を考察する。
著者
藤倉 良 カリミ シャフルディン アンドリアヌス フェリー 武貞 稔彦 吉田 秀美 眞田 陽一郎 澤津 直也 寺末 奈央
出版者
法政大学公共政策研究科『公共政策志林』編集委員会
雑誌
公共政策志林 = Public policy and social governance (ISSN:21875790)
巻号頁・発行日
no.6, pp.27-37, 2018-03

インドネシア,スマトラ島に建設されたコトパンジャン・ダムによって1990年代に移転した村落の生活再建について研究成果をレビューし,2017年に行ったフィールド調査と合わせて長期的に評価した。移転は村落ごとに行われ,移転民には水没した財産に対する100パーセントの金銭補償に加えて,政府が造成したゴム園の無償提供もしくはアブラヤシ園の有償提供が行われた。10村がゴム園を2村がアブラヤシ園を選択した。しかし,ゴム園では政府の約束とは異なり,住民の移転時には未整備であり,整備されて収穫が得られるまで,住民は生活再建に支障をきたした。そのような状況の中で,ナマズの養殖と加工を開始した村落では,副収入により所得が増加した。アブラヤシ園を選択した村落では,収穫が得られるまで賃金労働する場が提供され,分譲された農地をローンで購入することができた。さらに,移住してきたジャワ人を労働力として使うことで農園を拡大し,所得を大幅に増やすことができた。住民が移転後も農業によって生活を再建することが前提となる計画の場合には,実際に収穫が得られるまでの生活支援が必要である。さらに,政府は移転民が予想通りに農業収入が得られない場合に備えて,副収入源を得る機会を提供することが望ましい。
著者
向井 加奈子 藤倉 良
出版者
法政大学公共政策研究科
雑誌
公共政策志林 = Public policy and social governance (ISSN:21875790)
巻号頁・発行日
no.2, pp.87-100, 2014-03

大分県で始められた一村一品運動は,村おこしとして一定の成果をあげてきたが,活動の持続可能性をもたらす要因が明らかでない。このため,大分県および北海道で行われた運動について文献調査と面接調査を実施し,運動の提唱者である平松守彦氏が成功要因としてあげた商品開発,自主自立・創意工夫,人づくりという3条件が継続している活動に共通してあてはまっていることを明らかにした。さらに,持続可能な活動では,当事者から,参加者の「気づき」を実現させる実行力のあるリーダーが現れている。また,リーダーや当事者を側面から支援するファシリテーターの存在も確認された。The One Village One Product movement originated in Oita Prefecture, Japan, and has been recognized as significant measure in promoting the local economy. Not all efforts, however, have resulted in the same level of sustainability. Oita Prefecture, Japan, built its movement on three principles: local yet global, self-reliance & creativity, and human resource development. Interviews and a literature survey were conducted to show that this project satisfies the three principles and is sustainable. Local leaders that are able to implement participants' ideas are also required. Amongst sustainable movements are facilitators who both support and encourage the leader and participants.
著者
加藤 雅史
出版者
法政大学公共政策研究科
雑誌
公共政策志林 = Public policy and social governance (ISSN:21875790)
巻号頁・発行日
no.2, pp.43-61, 2014-03

本論文では,経済産業行政の地方分権について中小企業政策を例に考察し,中小企業政策の対象者やそれをとりまく地域にとって望ましい姿はなにか,検討をした。1999(平成11)年の中小企業基本法の改正,地方分権一括法の施行に伴う地方自治法の改正等は,中小企業政策の制度上の大きな転換であり,これにより政策上における自治体の位置づけが変わり,地域の特性に応じた中小企業政策を実施できるようになり,地域経済振興への責務を負うこととなった。こうした中,国は,現行の基本法下における政策として,地域経済対策のための法制定や改正が次々と行い,予算については,自治体向けではなく,国から地域へ直接交付される「空飛ぶ補助金」を交付している。一方で,一部自治体においては,地域経済や地域振興の取り組みの重要性を感じ,従前から独自の中小企業政策への取り組みを行っていた。その事例からは,地域内で仕事とお金が回るように図っていることがうかがえる。また,自治体間における政策の相互参照や波及効果などもみられる。しかしながら,未だに地方分権改革推進委員会等における中小企業政策の議論は,空飛ぶ補助金や二重行政について,平行線のままである。こうした状況や議論を踏まえた上で,国と自治体の別に,中小企業政策とそれに基づく具体的な施策のすみわけを提言した。This paper analyzes decentralization in the administration of the Economy, Trade and Industry, and the Government, and considers policy for small- and medium-sized companies as an example. The paper also evaluates the individuals toward whom policy for small- and medium-sized companies is aimed and the ideal shape of that policy from a regional perspec-tive. Originally, the Small and Medium Enterprise Act was established in 1963 with a view toward correcting the gap between large companies and small- and medium enterprises. However, regional measures taken under this act were nothing more than efforts made within the framework of central control. The Small and Medium Enterprise Act was later amended in 1999, and the roles and responsibilities of local governments in the revitalization of regional economies grew by leaps and bounds. The Law for the Promotion of Decentralization was also implemented in that year, and in conjunction with the Local Government Act, the relationship between local governments and the national government became equal. Policy for small- and medium-sizedcompanies (an industrial policy) became the complete responsibility of local governments.Within this context, this paper outlines efforts by the national and local governments to formulate policy for small- and medium-sized companies as well as discusses the theory of decentralization that underlies policy for small- and medium-sized companies. Finally, building on this analysis, the paper offers suggestions on how the policy for small- and medium-sized companies should be designed for national and local governments.