- 著者
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藤田 和夫
- 出版者
- 日本地質学会
- 雑誌
- 地質学論集 (ISSN:03858545)
- 巻号頁・発行日
- no.18, pp.129-153, 1980-03-30
- 被引用文献数
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1)第四紀,とくに更新世中期以降に,中央構造線に沿って,右横ずれ断層運動が認められるが,それは紀伊半島中部以西に限られている(Fig.2)。2)活断層・活褶曲系から推定される第四紀応力場をFig.4に示す。九州を除き本州・四国は,第四紀を通じて水平圧縮の場におかれてきたとみられるが,これは60年間の一等三角点の再測量結果に基づく変位状態(Fig.9)や発震機構の研究からも支持される。3)上記造構応力場で形成された構造帯をFigs.4・8に示す。これらは,日本海溝に平行な東北日本の構造帯(Tpa系)と,南海トラフに平行な西南日本の構造帯(Tph系)に大別できるが,伊豆半島周辺と中部・近畿地方内帯と九州中部に特異性が認められる。Tpa・Tph系ともに日本海側に褶曲帯にもち,造構応力の集中を示し,かつ,太平洋・四国海盆との間に撓曲性の基盤褶曲(基盤波状変形)がみられるにもかかわらず,日本海盆の安定性の著しいことは,第四紀テクトニクスを考える限りにおいては,日本海側の海盆を固定し,太平洋プレートとフィリピン海プレートとの間における圧縮のテクトニクスとして,日本列島を考察することが許される(Fig.7)。4)太平洋プレートのサブダクションによって, 東北日本の地殻に発生した造構圧縮応力は,秋田-新潟油田褶曲帯に集中してきたとみられるが,東北日本と西南日本の基盤岩が最も近接する北部フォッサ・マグナの部分では中部地方に伝達される。この部分は中部傾動地塊と称されるようにゆるやかな波状変形を伴う(Fig.3)大傾動運動と,Tpa7. 8の共役横ずれ断層運動によって,側方短縮を行っているが,それだけでは十分ではなく,西側の近畿三角地域に,造構応力を伝達して,比良山地・近江盆地の間に著しい歪み帯をつくった(Tpa X)。そしてさらにその余力は丹波帯に及び, 山崎断層を含むTPh11帯をつくり, ほぼ減衰しているとみられる。5)このようなTpa帯の消滅に代って,それ以西では,四国・中国にかけて, フィリピン海プレートの影響とみられるTph帯が顕著になる。その主圧縮応力線はMTLに対して,やや西にふれているので,この古傷に沿って,外帯を西へドライブすることを可能にする。これに対して内帯の西進運動は,近畿三角地域の西側で減衰してしまうために,中央構造線に沿って,相対的に右横ずれ運動が発生することになった(Fig.10)。6)南部フォッサ・マグナを通じての圧縮応力は,中央構造線を越えて,赤石・伊那山地を一つの地境として西に傾動させながら,木曽山地と伊那盆地との間にTry Iを発生させた。この帯の延長は,北側の美濃・丹波の中・古生層帯からくるTpa帯と交差構造をつくりながら猿投帯(Try 2),伊賀・上野帯(Try 3)をへて大阪盆地南部に達する。そしてこれらと京都盆地から奈良をへて南下するTry IV帯とが中央構造線と合するあたりから西へ横ずれが始まることは,それ以東では中央構造線よりも,これら領家帯中の構造帯に歪みが集中してきたことを物語っている(Fig.8)。7)花崗岩質の領家帯は,南北両側の古期岩体にはさまれて,それらの異なる運動を調節するシアー帯の役割りを果している。北側の有馬-高槻構造線に沿っても右ずれ運動がみられ,それと南側のMTLとの間にはさまれている大阪盆地の形状は,その変形機構を表現しているといえる。