著者
栗生 剛 衣浦 晴生 中森 由美子
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.124, 2013

紀伊半島で発生しているカシノナガキクイムシの防除手法を検討するため,樹種およびウバメガシ幹サイズの違いによる発生頭数,及びコナラ・ウバメガシが優占する林分での被害推移を調査した。発生頭数調査はカシナガ穿孔被害を受けた常緑広葉樹林(試験地A,B)で行った。試験地Aではコナラとウバメガシ穿入生存木に各5本,Bではウバメガシ大径木4本と小径木5本に羽化トラップを取り付け,6月から11月の毎週,トラップを回収した。また,試験地Aに調査区(面積0.3ha)を設定し,DBH10cm以上のブナ科樹木を対象に胸高直径,高さ2m以下の穿孔数を2年間調査した。ウバメガシの穿入生存木からの平均発生頭数はコナラよりも多く,ウバメガシの小径木(平均DBH11cm)においても,大径木(平均DBH21cm)と同程度の発生頭数であった。林分調査では,累積被害率は2年間共にシイ>コナラ>アラカシ>ウハ゛メカ゛シであった。1年目の平均穿孔数はコナラ>ウハ゛メカ゛シ>シイ>アラカシ,2年目はコナラ>アラカシ>ウハ゛メカ゛シ>シイとなった。これらから被害発生初期林分ではコナラ,ウバメガシの取り扱いが重要であると考えられた。
著者
後藤 忠男 衣浦 晴生 長岐 昭彦 樋口 俊男
出版者
東北森林科学会
雑誌
東北森林科学会誌 (ISSN:13421336)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.23-28, 2006

昆虫病原性糸状菌<i>Beauveria bassiana</i>を培養したシート型不織布製剤によるマツノマダラカミキリの防除効果を明らかにするため,野外試験を行った。成虫羽化脱出前年の10月末に被害材に製剤を施用した結果,幼虫の材入孔数に対する成虫脱出孔数の比率は2施用区において0.28, 0.33となり,対照区の0.54に比べ有意に低く,それぞれ期待羽化数の38.9%, 47.7%のマツノマダラカミキリが減少したと推定された。羽化脱出成虫を防除対象として,脱出開始2週間前に被害材に製剤を施用し,成虫脱出用の開口部を残してポリエチレンシートで被害材を覆った結果,捕獲後2週間以内に95%以上の個体が感染死亡し,成虫に対し防除効果が極めて高いことが示された。また,感染成虫の後食量は健全虫に比べ約40%にまで有意に減少した。本シート型不織布製剤では成虫を即効的に死亡させられなかったものの,マツノザイセンチュウの大量離脱や雌成虫の産卵開始までにはほとんどの個体が感染死したことから,昆虫病原性糸状菌による成虫防除はマツ材線虫病の拡大防止の手段として利用できると考えられた。
著者
伊東 宏樹 五十嵐 哲也 衣浦 晴生
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.91, no.1, pp.15-20, 2009 (Released:2009-03-24)
参考文献数
30
被引用文献数
11 12

京都市北部の京北地域の広葉樹二次林においてナラ類集団枯損被害により林分構造がどのように変化したのかを調査した。毎木調査の結果, 胸高断面積合計でもっとも優占していたのはソヨゴで, 以下, イヌブナ・ミズナラ・コシアブラ・タムシバの順だった。ミズナラは半数を超える個体が枯死していたが, その枯損木を含めると, ミズナラの胸高断面積合計がもっとも多くなり, ナラ類集団枯損発生以前にはミズナラがもっとも優占していたことが推定された。個体位置が枯損被害発生源に近いほど, また個体サイズが大きいほどミズナラの死亡率が高かった。ミズナラの枯損により発生したギャップで更新し, 今後少なくとも短期的には林冠層で優占することが期待された樹種は, タムシバ・コシアブラ・イヌブナだった。マルバマンサク・ソヨゴも中層から下層で優占度が高まる可能性のあることが予想された。
著者
小林 正秀 衣浦 晴生 野崎 愛
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.115, pp.I02, 2004

カシノナガキクイムシ(以下、カシナガ)が穿入したナラ類の生立木が枯死するのは、カシナガが樹体内に病原菌を持ち込むためと考えられている。海外でも生立木に穿入するナガキクイムシ類が知られており、カシナガと同様に病原菌のベクターになっていると疑われている種類もいる。しかし、ナガキクイムシ類は、一般に衰弱木や枯死木に穿入し、生立木に穿入しても樹液によって繁殖に成功することはほとんどない。カシナガでも、樹液が繁殖阻害要因になっていると推察されているが、樹液が繁殖に及ぼす影響を調査した事例はない。そこで、穿入孔からの樹液流出の有無とカシナガの羽化脱出数を同時に調査した。2.方 法 京都府和知町仏主の被害地(以下、和知調査地)と京北町米々谷の被害地(以下、京北調査地)で調査を行った。2003年6月17日、和知調査地のコナラ20本とミズナラ6本の穿入孔に、また6月21日、京北調査地のコナラ2本とミズナラ15本の穿入孔にチューブ式トラップ(図)を設置した。 トラップの設置は、調査木の地上高1mまでの樹幹部の穿入孔を調査し、穿入孔数が20孔以上の場合には20個のトラップを、20孔未満の場合には10個のトラップを設置した。ただし、和知調査地の調査木は、2002年6月上旬に、樹幹表面の穿入孔の有無によって穿入履歴の有無を確認し、穿入履歴がある調査木には、穿入孔数の多少にかかわらず、10個のトラップを設置した。 7月11日、フィルムケース内に入れたティッシュペーパーの変色の有無によって、穿入孔からの樹液流出の有無を確認した。また、7月11日_から_11月12日まで2週間ごとにトラップ内に脱出したカシナガ成虫を回収して雌雄別に数えた。3.結 果 穿入孔からの樹液流出とカシナガ脱出状況を表に示す。樹液を流出している穿入孔の割合は、穿入後に生存した樹木(以下、穿入生存木)の穿入孔のほうが穿入後に枯死した樹木(以下、穿入枯死木)の穿入孔よりも有意に高かった。 カシナガの脱出が確認された調査木の割合は、穿入枯死木(9本中7本)のほうが穿入生存木(34本中3本)よりも有意に高かった。また、脱出が確認された穿入孔の割合も、穿入枯死木の穿入孔のほうが穿入生存木の穿入孔よりも有意に高かった。脱出が確認された穿入孔あたりの脱出数は、穿入生存木(平均102.5頭)のほうが穿入枯死木(平均48.3頭)よりも有意に多かった。 脱出が確認された穿入孔の割合は、樹液を流出していない穿入孔(243孔中47孔)のほうが樹液を流出している穿入孔(387孔中14孔)よりも有意に高かった。しかし、脱出が確認された穿入孔あたりの脱出数は、樹液を流出している穿入孔(平均62.8頭)と流出してない穿入孔(平均69.3頭)との間に有意差がなかった。4.考 察 穿入生存木からのカシナガ脱出数は少ないとする報告が多く、今回も同様の傾向が認められた。樹液を流出している穿入孔では、脱出がなく繁殖に失敗している穿入孔の割合が高かったことから、樹液が繁殖阻害要因であり、穿入生存木からの脱出数が少ないのは、穿入生存木の樹液流出量が多いためと考えられる。 穿入孔あたりの脱出数は、平均2_から_20頭とされている。これに比較して、今回の穿入孔たりの脱出数は多く、最高337頭が脱出した。特に、穿入生存木の穿入孔からの脱出数が多かったが、これは、穿入生存木では樹液によって繁殖に失敗する穿入孔の割合が高いため、一旦繁殖に成功した穿入孔は種内競争の影響が少なく、広い繁殖容積が確保されたためと推察される。 ヤツバキクイイムシが青変菌と共生関係を結んで針葉樹生立木を衰弱または枯死させるのは、生立木に穿入しても樹脂などの防御物質による抵抗を受けて繁殖できないため、青変菌によって樹木を弱らせ、キクイムシ類が利用可能な状態にするためとされている。ナラ樹の樹液は、針葉樹の樹脂と同様の防御物質であり、R. quercivoraは青変菌と同様に、その防御を突破する役割を担っていると推察される。
著者
伊東 宏樹 衣浦 晴生 奥 敬一
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.93, no.2, pp.84-87, 2011 (Released:2011-06-22)
参考文献数
21
被引用文献数
7 7

丹後半島に位置するナラ類集団枯損の被害跡の広葉樹林において, その現況を調査した。調査地の林床はチマキザサが優占しており, これが更新阻害要因となっていることが予想されたが, 実際, ナラ類集団枯損の被害を受けたミズナラを含めて高木性樹種の小径木や稚樹は少なかった。胸高直径10 cm未満の小径木自体は多かったが, その樹種はリョウブ・オオカメノキ・ヤマボウシ・クロモジ・ユキグニミツバツツジ・ハイイヌガヤなどであり, ヤマボウシのほかは亜高木および低木性樹種であった。胸高未満の階層でも高木性樹種は少なかった。以上の林分構造から, 現状ではミズナラを含む高木性樹種の更新は困難になっており, 少なくともチマキザサの一斉開花枯死が発生するまでは現状のような林相が継続するものと予想された。