著者
伊東 宏樹
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.361-374, 2016 (Released:2016-08-24)
参考文献数
25
被引用文献数
6

状態空間モデルを使用した統計解析をおこなうためのソフトウェア環境として、dlm・KFAS・BUGS言語・Stanを紹介する。dlmおよびKFASはRパッケージであり、比較的簡単に利用可能である。dlmは誤差分布に正規分布のみ利用可能であるが、KFASではポアソン分布なども利用可能である。一方、パラメーター推定に関してはdlmでは最尤推定のほか、マルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC)によるベイズ推定が可能である。BUGS言語は、MCMCによるベイズ推定のためのモデリング言語であり、実行処理系としてはWinBUGS、OpenBUGS、JAGSがある。柔軟なモデリングが可能であり、状態空間モデルを記述することもできる。Stanは比較的新しいソフトウェアであるが、ハミルトニアンモンテカルロ法を使ってベイズ推定をおこなえる。Stanにはgaussian_dlm_obsという分布が用意されており、この分布を使用して、誤差分布が正規分布の状態空間モデルのパラメーター推定がおこなえる。また、gaussian_dlm_obs分布を使用せずに、状態空間モデルを記述することも可能である。複雑なモデルのパラメーター推定は、BUGS言語またはStanによりベイズ推定でおこなうことになるだろうが、dlmやKFASで最尤推定が可能なモデルであればそれらを使用する方が実用的であろう。
著者
上田 明良 日野 輝明 伊東 宏樹
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.91, no.2, pp.111-119, 2008 (Released:2009-07-22)
参考文献数
35
被引用文献数
5 12

ニホンジカによる森林衰退が進む奈良県大台ヶ原では, 防鹿柵によるシカの排除が行われているが, これが節足動物の多様性に与える影響は不明である。本研究では, ニホンジカによるミヤコザサの採食とオサムシ科甲虫の群集構造との関係を調べるため, シカの主要食物であるミヤコザサの現存量を防鹿柵や刈り取りにより操作した実験区を設け, ピットフォールトラップによる捕獲調査を行った。また, オサムシ科甲虫の食物となる地表性小動物を捕獲するため, 粘着トラップを各実験区に設置した。オサムシ科甲虫の総捕獲数, 種数と多様度指数はササ現存量と明確な関係がなかった。最優占種オオクロナガオサムシ捕獲数はササ現存量とバッタ目捕獲数に対して正の関係があった。2番目に多いフジタナガゴミムシは, ササ現存量との関係はなく, 開空度と負の関係があった。3番目に多いコガシラナガゴミムシ捕獲数はササ現存量と負の関係があり, トビムシ目, ハエ目, ハチ目と正の関係があった。これらの結果から, ニホンジカの採食によるミヤコザサの減少は, オサムシ科甲虫の多様度には大きな影響を与えないが, 群集構造には影響すると考えられた。
著者
伊東 宏樹
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.97, no.6, pp.304-308, 2015-12-01 (Released:2016-02-02)
参考文献数
19
被引用文献数
1 4

京都市内の広葉樹二次林において,ナラ類集団枯損(ナラ枯れ)が発生した後の森林の動態に対して,ニホンジカ(以下「シカ」)がどのような影響を及ぼすのかを調べた。幹密度および胸高断面積合計が,ナラ枯れ発生の前後でどのように変化したのか,また下層木の樹種構成が,ナラ枯れにより形成されたギャップの内外でどのように異なるのかを検討した。その結果,シカによる剥皮は発生しているが,それによる上層木の枯死でギャップがさらに拡大しているという現象は認められなかった。また,ナラ枯れ跡のギャップ内でも,更新木は少ないものの,まったく更新していないということはなかった。ただし,下層木の状況からみると,主に更新している樹種は,クロバイ,ナンキンハゼといったシカの不嗜好性樹種か,もともと数の多いアラカシ,サカキ,ヒサカキといった樹種に限られていた。
著者
伊東 宏樹
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.99, no.4, pp.172-175, 2017-08-01 (Released:2017-10-01)
参考文献数
15
被引用文献数
1

ナラ枯れ跡地の更新に対するニホンジカの影響を明らかにするため,京都市内のナラ枯れ跡ギャップ内に設置された防鹿柵と,その外のギャップ内とで更新状況を比較した。樹高1.3m 以上にまで成長していた更新木としては,防鹿柵内ではカラスザンショウ・アカメガシワ・アラカシ・ウワミズザクラなど14種が確認された。一方,柵外で1.3m 以上にまで成長していたのは,シカの不嗜好性樹種であるナンキンハゼおよびクロバイのみであった。また,樹高1.3m 未満の下層木については,防鹿柵内では,ニガイチゴ・イヌシデなど34種が更新していた。柵外では7種が確認されたが,樹高10cm を超えるものはなかった。ただし,柵外でもヒサカキなどの新規の実生は認められた。これらの結果から,シカの採食圧下にあるナラ枯れ跡では,特定の少数の樹種のみが更新する場合があることが示唆された。
著者
伊東 宏樹 日野 輝明 高畑 義啓 古澤 仁美 上田 明良
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.443, 2004 (Released:2004-07-30)

奈良県大台ヶ原において野外実験をおこない、ニホンジカ、ネズミ類、ミヤコザサの3つの要因が、樹木実生の生存に対してどのような影響を及ぼしているのかを評価した。1996年に、ニホンジカ、ネズミ類、ミヤコザサのそれぞれの除去/対照の組み合わせによる8とおりの処理区を設定し、その中に発生してきた、ウラジロモミ(1997年、2002年に発生)、アオダモ(1998年、2002年)、ブナ(1999年)の5つのコホートについて、マーキングして生存状況を追跡した。この結果を元に、それぞれのコホートの実生の生存時間について各処理の間で差があるかどうかをログランク検定により検定した。その結果、(1)すべてのコホートに共通して、シカ除去処理区におけるミヤコザサが生存時間に対して負の影響を及ぼしていることがわかった。また、(2)2002年のウラジロモミを除くコホートでは、ササ除去区において、シカが負の影響を及ぼしていた。一方、(3)アオダモ(1998年、2002年)およびウラジロモミ(2002年)の3つのコホートに対しては、シカの影響は、ササ残存区においては正の効果をもたらしていた。シカ除去処理をおこない、ミヤコザサを残存させた処理区では、ミヤコザサが急速に回復して林床を覆うようになった。(1)の効果は、このためであると考えられる。大台ヶ原のニホンジカは、ミヤコザサを主要な食料としており、ミヤコザサを減少させる要因である。(2)のように、ニホンジカは直接的には実生に対して負の効果をもたらすことがあるが、(3)のように、ミヤコザサを減少させることにより間接的に正の効果を及ぼすこともあることがわかった。ネズミ類除去処理については、顕著な効果は認められなかった。
著者
上田 明良 伊東 宏樹 佐藤 重穂
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.104, no.6, pp.309-320, 2022-12-01 (Released:2022-12-13)
参考文献数
59

保残伐と小面積皆伐は伐採インパクトを軽減すると考えられている。これらの施業と全面皆伐後1~3年のトドマツ人工林および非伐採林において,魚肉ベイトのピットフォールトラップを各林分に1~3基約110日間設置して環境指標性が高いとされるオサムシ科甲虫を捕獲した。全伐採地の種構成は非伐採地と異なっていて,伐採が群集を変化させていた。侵入広葉樹の一部を非伐採で残す単木保残施業区の種構成は,皆伐区のそれよりも非伐採林に近く,保残量と森林性種捕獲数の間に有意な正の関係があった。0.36 haの人工林を残した群状保残施業保残区内の森林性種捕獲数と種数は林分によって大きく異なり,明確な傾向はみられなかった。約1 haの皆伐区と6~8 haの皆伐区の間で森林性種捕獲数と種数に違いはなかった。以上から,単木保残施業には伐採インパクト軽減効果があるが,群状保残施業と小面積皆伐についてはさらに検討が必要と考えられた。本研究と同じ試験地で,伐採1年後にベイトなしトラップを各林分20基,のべ21日間設置して行った別調査との比較では,本研究の種数がわずかに少なかったが,トラップ・日当たり捕獲数は同じであった。
著者
伊東 宏樹 五十嵐 哲也 衣浦 晴生
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.91, no.1, pp.15-20, 2009 (Released:2009-03-24)
参考文献数
30
被引用文献数
11 12

京都市北部の京北地域の広葉樹二次林においてナラ類集団枯損被害により林分構造がどのように変化したのかを調査した。毎木調査の結果, 胸高断面積合計でもっとも優占していたのはソヨゴで, 以下, イヌブナ・ミズナラ・コシアブラ・タムシバの順だった。ミズナラは半数を超える個体が枯死していたが, その枯損木を含めると, ミズナラの胸高断面積合計がもっとも多くなり, ナラ類集団枯損発生以前にはミズナラがもっとも優占していたことが推定された。個体位置が枯損被害発生源に近いほど, また個体サイズが大きいほどミズナラの死亡率が高かった。ミズナラの枯損により発生したギャップで更新し, 今後少なくとも短期的には林冠層で優占することが期待された樹種は, タムシバ・コシアブラ・イヌブナだった。マルバマンサク・ソヨゴも中層から下層で優占度が高まる可能性のあることが予想された。
著者
伊東 宏樹 衣浦 晴生 奥 敬一
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.93, no.2, pp.84-87, 2011 (Released:2011-06-22)
参考文献数
21
被引用文献数
7 7

丹後半島に位置するナラ類集団枯損の被害跡の広葉樹林において, その現況を調査した。調査地の林床はチマキザサが優占しており, これが更新阻害要因となっていることが予想されたが, 実際, ナラ類集団枯損の被害を受けたミズナラを含めて高木性樹種の小径木や稚樹は少なかった。胸高直径10 cm未満の小径木自体は多かったが, その樹種はリョウブ・オオカメノキ・ヤマボウシ・クロモジ・ユキグニミツバツツジ・ハイイヌガヤなどであり, ヤマボウシのほかは亜高木および低木性樹種であった。胸高未満の階層でも高木性樹種は少なかった。以上の林分構造から, 現状ではミズナラを含む高木性樹種の更新は困難になっており, 少なくともチマキザサの一斉開花枯死が発生するまでは現状のような林相が継続するものと予想された。
著者
花岡 創 伊東 宏樹
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.39-50, 2020-06-25 (Released:2020-07-14)
参考文献数
37

北海道における主要造林樹種の一つであるアカエゾマツを対象に,根元曲がりや幹曲がりの程度について,気象条件に差がある検定林間及び家系間変動を検証した。共通家系が植栽された9ヶ所の検定林における20年次の根元曲がりと幹曲がりの程度に関するデータ(1~5の順序カテゴリカルデータ)を供試し,検定林及び検定林内反復,検定林内の植栽プロット,家系,検定林と家系の交互作用の効果を順序ロジットモデルを用いて評価した。その結果,検定林,検定林内反復,検定林内植栽プロットの効果が相対的に大きい傾向があった。特に道北地域に設定された検定林で負の効果が,道央の検定林で正の効果が顕著な傾向があったことから,根元曲がりや幹曲がりに対して積雪に関連する環境的な効果が大きかったこと,また,植栽プロットについても正または負の効果が大きかったエリアが集中しており,局所的な地形等の環境条件の効果も大きかったことが推察された。根元曲がりや幹曲がりに対する家系の効果の大きさは環境的な効果に比べると小さかったものの,有意な正または負の効果を示した家系が存在した。一方で,検定林と家系の交互作用は検出されなかった。それゆえ,環境条件に関わらず優れた遺伝的特性を示す家系が存在し,アカエゾマツでは根元曲がりや幹曲がりへの抵抗性は育種により改良が見込まれることが考えられた。