著者
西山 要一 植田 直見 桐野 文良 野尻 忠 早川 泰弘 今津 節生 東野 治之 関根 俊一 望月 規史 成瀬 正和
出版者
奈良大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2018-04-01

携帯型蛍光X線分析装置、据付型蛍光X線分析装置、X線回折装置、X線透過撮影装置など多種の分析器機・調査機器を活用して真鍮製考古資料・美術工芸品の成分分析等を行った。三重・大宝院所蔵大般若経八巻(紺紙金字経)の詳細な科学分析、および平安~江戸時代の紺紙金字経・同断簡の分析などによって、経典写経における真鍮泥使用の広がりを把握し、その宗教的・技術的・経済的な意味を歴史上に位置付けることを試みた。また古代~中世の京都・平安京跡、岩手・平泉遺跡、近世の奈良・奈良町遺跡、和歌山城跡などの出土銅合金・真鍮資料・鋳造資料を悉皆的に科学分析し、各遺跡・各時代における真鍮製品の実態を把握した。美術工芸資料調査では、長谷寺・九鈷鈴(中国・元時代)、當麻寺・螺鈿玳瑁螺鈿唐草合子(朝鮮・高麗時代)の将来品の分析を行い真鍮が使われていることを確認した。この種の日本製真鍮製品が見当たらないことから、真鍮の利用に日本と両国の間では様相を異にすると考えられる。近世には日本絵画の彩色に真鍮泥が使われる諸例を明らかにしつつあり、江戸時代以降の広範な真鍮利用の実態が判明しつつある。史料学調査では、日本・韓国の真鍮関連の古記録の探索の中で、新たに朝鮮の「三国史記」に真鍮関連の記載を見いだし、その真鍮史上の位置付けを試みている。さらに、韓国の真鍮資料を同国の分析科学者の協力を得て科学分析データおよび記録データの収集を行った。紀元前より真鍮製品(ローマコインなど)が存在するヨーロッパの諸例のデータも研究協力者の助力を得て収集し、日本の真鍮製品との共通性と差異、西アジアに発するとされる真鍮の起源とその伝来の道(ブラスロード)と歴史の一端を垣間見ることができた。これらの研究成果は、昨年度報告と同様に2019年度研究成果(冊子)にまとめ、日本文化財科学会大会(2020年7月)などで公表の予定である。
著者
西山 要一
出版者
奈良大学総合研究所
雑誌
総合研究所所報 (ISSN:09192999)
巻号頁・発行日
no.13, pp.95-104, 2005

日本の古代金銅仏を代表する東大寺盧舎那仏(大仏)は、天平勝寳4年(752)に完成し開眼供養が行われた。しかし、鎌倉時代・治承4年(1180)の平重衡の南都焼き討ちによる東大寺金堂(大仏殿)の炎上と重源による建久6年(1195)の再建、さらに室町時代・永禄10年(1567)の松永久秀の三好三人衆攻めによる再度の金堂炎上と江戸時代・元禄5年(1692)の公慶による再興と、2度にわたる被災と再建を繰り返してきた。大仏は被災のたびに像上部が失われ、再建のたびに消失部分を追加鋳造した結果、現在の大仏は蓮華座から膝までが天平時代、腹部が鎌倉時代、胸から頭部までが江戸時代の造作といわれている。
著者
西山 要一
出版者
奈良大学文学部文化財学科
雑誌
文化財学報 (ISSN:09191518)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.13-35, 2006-03

レバノン共和国の首都・ベイルートの南約80kmにあるティール(現スール市)は、東地中海に面した景勝の地でありまた温暖な気候に恵まれて、紀元前5000年ころにはすでに優れた古代文明があったといわれている。ここに世界文化遺産「フェニキアの中心都市として栄えた港町ティール」がある。フェニキア時代の遺構はまだ未解明であるものの、シティー・サイトとアル・バス・サイトの2か所の世界遺産地区には、ローマ時代の港湾・列柱道路・公共浴場・金属とガラスの工房・劇場・水道橋・ヒッポドロムス(戦車競技場)・ネクロポリス(墓地)などの遺構が発掘され、保存修復され、多くの研究者・観光旅行者を迎えている。ティールの世界遺産地区の東約3㎞ の丘陵にはローマ時代からビザンチン時代にかけての地下墓・竪穴墓・地上掘込墓が営まれていて、その数は数千にも達するといわれている。この一角のラマリ地区では2002年度より、泉拓良奈良大学教授(現京都大学大学院教授)を代表者とする奈良大学考古学調査隊が文部科学省科学研究費(2002~2004年)の助成を得て発掘調査を行ない、ローマ時代の地下墓と地上掘込墓およそ30基を発掘調査し、テラコッタの神像・アンホラ(ワイン壷)・ランプ・ガラス瓶・青銅コイン・鉛製分銅などを発見している。本保存修復研究が対象とするローマ時代の地下墓TJO4はラマリ地区にあり、石灰岩丘陵裾の岩盤に長さ約5mの下り階段を設けて、およそ7m四方、高さ3mの空洞を掘削し、その空間におよそ3m四方、高さ3mの墓室を切石で構築している。墓室の壁には長さおよそ2mの19の納体室(棺棚)と床に2つの納体室、合わせて21の納体施設を設けている。既に開口していて墓室内部はかなりの損傷を受けていたが、2002年、西山らは側壁には赤色の波形、緑色のオリーブの枝束、灰色の石柱と灯火台など、天井には赤・緑・灰色などで鮮やかに彩色された花形などの壁画のあることを発見し、さらに2003年(財団法人文化財保護振興財団の一部助成)の調査によって墓室内部に落下堆積していた土砂中より多数の壁画片と壁や納体室の石材を発見し、これら落下した石材を原位置に戻せば、TJO4墓室の壁画および墓室・納体室のほぼ9割を復原できる可能性のあることを明らかにした。これと並行して、地下墓の岩盤・構造石材の材質分析、壁画顔料の機器分析、壁画の汚れを除去し、壁面を強化するテストとともに温度・湿度・照度・紫外線強度・二酸化炭素濃度・大気汚染などの保存環境調査を実施し、将来のTJO4地下墓の良好な保存環境確保の研究も進めた。以上のような経過を経て、奈良大学・レバノン考古総局の両者ともに調査研究の継続を望んだことと期を一にして、2004年には学校法人奈良大学創設80周年を迎えることになり、市川良哉理事長の提案によって、本研究を奈良大学創設80周年記念事業として実施することになった。
著者
西山 要一 酒井 龍一 栗田 美由紀 魚島 純一 泉 拓良
出版者
奈良大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

平成25・26年度も中東情勢は安定せず現地調査を中止した。それに換え25年度はレバノンとイタリアおよび国内の研究者で研究会を開催し研究の経過・成果・課題について報告と討論を行い、26年度は報告書の原稿を執筆した。ブルジュ・アル・シャマリT.01-Ⅰ地下墓は碑文から紀元196/197年にリューシスのために築造され、孔雀・魚・パン・ワイン壺などの壁画から死者の平安を祈る葬送観念、炭素14年代測定、出土遺物の材質分析などの人文科学と自然科学の学際研究によりレバノン古代史を明らかにした。また温度・湿度・微生物など地下墓環境・壁画の修復は文化財保存の論理と技術の移転も行い大きな国際貢献ができた。
著者
中野 照男 西川 杏太郎 内田 俊秀 西山 要一 尾立 和則 増田 勝彦 三浦 定俊 川野辺 渉 青木 繁夫 中野 照男
出版者
東京国立文化財研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

この研究は、展示や保管における日常的な地震対策に関する研究、地震発生時における緊急措置に関する研究の2本の柱から成る。両研究とも、阪神淡路大震災の折に被災した博物館等の機関、社寺、所蔵家をはじめ、文化財の救援活動に携わった諸機関、諸団体及び個人の協力を得ながら遂行した。震災直後に諸機関や諸団体が行った被害状況調査の報告、被災博物館等による被害の具体的状況に関する調査報告、震災後に博物館等が文化財や試料の収蔵、保管、公開、展示のために実施した改良や工夫に関する情報を、基礎的情報として、可能な限り収集し、それらを解析することによって、新しい防災対策策定のための指針を導き出そうと努めた。その上で、免震装置や吊金具、固着剤など、震災後に大いに着目されている装置や材料、防災対策にとって重要と思われる事項については、それらの有用性や問題点の所在を、実験や分析を踏まえて検討した。さらに、万一災害が発生した場合の文化財等の保全方法、被害を最小にとどめるための緊急措置、文化財等の救出や救援活動などについては、阪神淡路大震災やその他の災害の折の研究分担者、研究協力者の経験をもとにし、諸外国での研究成果を取入れて研究を進めた。また、災害に対応するための博物館や美術館、地方公共団体等のネットワークの形成に関しては、多くの機関に協力を呼びかけ、意見を交換しながら研究を行った。また、資料や参考文献等を多数収集したが、これらは、神戸市立博物館内の文化財防災資料センターにすべて移管し、今後の新たな研究や防災対策の策定に活用する。