著者
神野 透人 古川 容子 大河原 晋 西村 哲治 香川(田中) 聡子
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第38回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.20064, 2011 (Released:2011-08-11)

【目的】室内環境中の化学物質が発症の原因あるいは増悪因子となり得る疾病として、いわゆるシックハウス症候群や気管支喘息等があるが、その発症機序の詳細には未解明な部分も多い。本研究では主に塗料や粘着剤・接着剤、アクリル樹脂等の原料として利用されており、既に呼吸器/皮膚感作性が確認されている物質も含まれているアクリル酸及びメタクリル酸とそのエステル類について、侵害刺激受容体であり気管支喘息にも深く関与することが示唆されているTransient Receptor Potential (TRP) A1及びTRPV1 に対する活性化作用を検討した。 【方法】ヒト後根神経節Total RNAよりRT-PCRによってTRPA1及びTRPV1 cDNAをクローニングし、それぞれを安定的に発現するFlp-In 293細胞を樹立した。得られた細胞株の細胞内Ca 2+濃度の増加を指標としてTPRA1及びTRPV1イオンチャネルの活性化を評価した。 【結果】アクリル酸及びメタクリル酸とそのエステル類14物質について、ヒトTPRA1及びTRPV1に対する活性化能を評価した。その結果、TRPV1に対する活性化能は本研究で対象とした14物質には認められなかったが、アクリル酸ブチル及びメタクリル酸ブチルがTPRA1を活性化する作用を有することが明らかになった。我々はこれまでに家庭用品から放散される揮発性有機化合物の評価試験を実施し、パーソナルコンピューターやテレビ等多種多様な家庭用品からからある種のアクリル酸エステル類・メタクリル酸エステル類が放散することを見いだしている。本研究結果から、これら家庭用品から放散されるアクリル酸エステル類・メタクリル酸エステル類がTRPA1を介した感覚神経あるいは気道の刺激を引き起こす可能性が考えられる。
著者
伊佐間 和郎 河上 強志 西村 哲治
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.132, no.8, pp.959-968, 2012 (Released:2012-08-01)
参考文献数
30
被引用文献数
2

The International Standard ISO 8124-3:2010 “Safety of toys—Part 3: Migration of certain elements” controls the levels of migrated eight harmful elements (antimony, arsenic, barium, cadmium, chromium, lead, mercury and selenium) from infants toys. Moreover, the Japanese Food Sanitation Law controls the levels of migrated lead from metal accessory toys. However, the levels of migrated harmful elements from metal accessories that are not infants toys are not controlled, since they are not covered by the ISO Standard or the Food Sanitation Law. Therefore, we investigated the level of eight harmful elements migrated from metal accessories that infants may swallow by mistake. The extraction test of ISO 8124-3:2010 was executed in 117 products (total 184 specimens), and the concentration of these eight elements was measured by inductively coupled plasma mass spectroscopy (ICP-MS). As a result, 28 and one products released lead and cadmium beyond the maximum acceptable levels of the ISO standard, respectively. Metal accessories that infants may swallow by mistake should ideally not release harmful elements such as lead and cadmium.
著者
杉本 直樹 多田 敦子 末松 孝子 有福 和紀 齋藤 剛 井原 俊英 吉田 雄一 久保田 領志 田原 麻衣子 清水 久美子 伊藤 澄夫 山崎 壮 河村 葉子 西村 哲治
出版者
[日本食品衛生学会]
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.19-27, 2010
被引用文献数
8 21

天然着色剤として広く用いられているコチニール色素の主成分であるカルミン酸の絶対定量に定量NMR(qNMR)を応用した.各社より試薬カルミン酸が販売されているが,その純度が正確に値付けられていないため,この市販試薬を定量用標準品の代用品としてHPLCにより定量した場合,信頼性の高い分析値は得られない.そこで,我々は国際単位系(SI)にトレーサブルな絶対定量法の1つとして,NMRスペクトル上に観察されるシグナル強度がその核のモル量に正比例することを原理としたqNMRを開発している.qNMRによるカルミン酸の絶対定量を以下のように行った.認証標準物質フタル酸水素カリウムを用い,qNMR標準液中の基準物質2-ジメチル-2-シラペンタン-5-スルフォン酸-<i>d</i><sub>6</sub>ナトリウム塩(DSS-<i>d</i><sub>6</sub>)の濃度校正し,カルミン酸のフェニルプロトンとDSS-<i>d</i><sub>6</sub>のメチル基に由来する9つのプロトンとのシグナル強度比より,コチニール色素製品および試薬製品中のカルミン酸の含量(純度)をカルミン酸カリウム塩3水和物として絶対定量した.その結果,コチニール色素製品および市販試薬中に4.6~30.5%および25.3~92.9%含有されていることを明らかとした.qNMRによる絶対定量は,1測定当たりの所要時間が約10分と極めて迅速であり,測定対象の化合物と同一の定量用標準品を必要としないだけでなく,SIにトレーサブルな分析値を導く点が優れている.また,qNMRは,あらゆる有機化合物の絶対定量にも応用可能であり,分析値の信頼性向上のための重要な1つのツールとしてなりうるものと思われる.