著者
根本 伸洋 大橋 夏美 湖東 聡 松永 勇紀 角本 貴彦 柿崎 藤秦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A1258, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】胸郭の運動性は、呼吸において重要であるが、身体全体に対して0.479の質量比を持つ体幹の約半分を占める部分である為、歩行などの身体運動にも影響すると考える。実際の臨床においても、胸郭全体の運動性低下や、運動性の左右差が生じている患者では、それに見合った呼吸や身体運動しか出来ないことが観察される。また、そのような患者に対して、胸郭と接する肩甲骨位置を修正することで、運動性や左右差の改善を図ることができ、良好な呼吸や身体運動を獲得できることを経験する。そこで今回は、肩甲骨内外転位置が胸郭の運動性に与える影響を検討したので、ここに報告する。【方法】対象は、本研究の内容を十分に説明し同意を得た健常成人8名とし、各条件での坐位姿勢をゼブリス社製3D-Motion Analysis CMS20Sを用いて測定した。測定した姿勢は、1)安静坐位姿勢、2)安静坐位から胸郭を右側へ並進移動させた坐位姿勢(以下、右変位姿勢)、3)右肩甲骨を外転誘導しての右変位姿勢、4)右肩甲骨を内転誘導しての右変位姿勢とした。なお、右変位姿勢は、骨盤帯が動かない範囲で胸郭を並進移動させ、肩甲骨位置の誘導は、右上肢を内旋位にすることで肩甲骨外転位置へ誘導し、右上肢を外旋位にすることで肩甲骨内転位置へ誘導した。また、測定の順番は、最初に安静坐位を測定した後は、無作為の順で各右変位姿勢を測定した。測定したランドマークは、両PSIS、両ASIS、両腸骨稜、Th1棘突起、Th11棘突起、胸骨頸切痕、剣状突起、第11肋骨先端とし、最も突出した部分または最も陥没した部分に十分注意を払いマーキングした。検討項目は、各ランドマークの空間座標から、1)胸骨頸切痕と第11肋骨先端の距離(以下、胸郭距離)、2)Th11棘突起と剣状突起を結ぶ線とTh11と第11肋骨先端を結ぶ線が水平面上でなす角(以下、肋骨角度)を左右で求め、対応のあるt検定を用いて、それぞれ危険率5%未満を有意とした。【結果】胸郭距離は、肩甲骨の誘導がない右変位姿勢と比較し、肩甲骨外転位での右変位姿勢で、変位させた側の右胸郭距離が有意に増大した。また、肋骨角度の左右差の平均は、肩甲骨内転位での右変位姿勢、右変位姿勢、外転位での右変位姿勢の順に増大し、それぞれ安静坐位と比較し有意に増大していた。【考察】胸郭距離、肋骨角度の左右差が肩甲骨内転位で増大していた結果から、胸郭の運動性が増大したと考えた。これは、肩甲骨外転位では肩甲骨が胸郭側方に位置する為に、胸郭側方の運動性を妨げるが、肩甲骨内転位にすると肩甲骨は胸郭後方に移動し、胸郭側方の運動を妨げない為であると考えた。今回の結果から、肩甲骨の位置を考慮することで、胸郭の運動性を引き出し、呼吸や身体運動の改善に繋げられる可能性が考えられた。
著者
江戸 優裕 柿崎 藤泰 山本 澄子 角本 貴彦 石田 行知
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.173-176, 2018 (Released:2018-03-01)
参考文献数
18
被引用文献数
2 3

〔目的〕体幹の回旋運動に伴って副次的に生じる胸郭の前後・左右への並進の運動特性を明らかにすることとした.〔対象と方法〕対象は健常若年者13名とした.光学式三次元動作解析システムを用いて立位での身体の回旋動作を計測し,骨盤に対する胸郭の回旋角度と前後・左右への偏位距離を分析した.〔結果〕体幹の回旋には前方および回旋と反対側への胸郭の並進が伴っていた.また,回旋に伴う前方並進が大きければ対側並進が小さく,前方並進が小さければ対側並進が大きかった.〔結語〕体幹の回旋に伴う胸郭の前方並進と回旋と反対側への並進は補完的な関係にあることが示唆された.
著者
柿崎 藤泰 根本 伸洋 角本 貴彦 山﨑 敦 仲保 徹 福井 勉
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0312, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】体幹の運動機能を評価する過程で、骨盤との運動連鎖に注目した評価は重要であり、臨床でも良く行われる評価であると考える。しかし、体幹機能の評価で、肋骨の分節的な評価や、他の分節との運動連鎖を観察する一般的な評価はあまりにも少ない。呼吸器疾患をはじめ、他の運動器疾患でもより効果的な理学療法治療を展開するうえで、体幹の運動機能を障害するファクターとしてなりうる胸郭運動の病態把握は重要であると考えている。今回我々は、体幹の複合動作である回旋運動に着目し、胸郭の歪みを形成する肋骨の動きを検討したので報告する。【方法】対象は特に整形外科的疾患をもたない健常成人10名(男性9名、女性1名)で、平均年齢は25.2±3.9歳であった。 計測はzebris社製の CMS20S Measuring system を用いた。マーカーポインターにより測定した部位は、両側肩峰部、両側上前腸骨棘、胸骨柄、剣状突起下端部、第1、3、7、12胸椎棘突起部の各部分であった。各部位の測定では、部分の凹凸に対し、最も陥没している部位、または最も突出している頂点部分にポイントするよう注意を払った。被験者には両手を頭の後に組んだ状態で、40cmの椅子に座ってもらった。静止座位と体幹回旋位で2回の測定が行われた。体幹回旋角度の規定は特に設定せず、骨盤中間位にて、上半身のみの回旋運動で、無理なく運動が遂行できるところまでとし、被験者の任意の角度で測定した。肋骨の動きは、胸骨の長軸を通る直線と第1から第3胸椎、第3から第7胸椎、第7から第12胸椎の各々を結ぶ直線とを前額面上で投影させ、その2直線の交差する角度で判定した。【結果】胸骨長軸直線と各々の胸椎直線との間に、共通した関係はみられなかった。しかし、胸骨長軸直線と第3-7胸椎直線とを投影する角度が、安静座位で2度未満(平行状態に近い)のものが5例、安静座位の時点ですでに4度以上の角度で交差しているものが5例いた。4度以上の5例では、安静時に比べ、回旋位での2直線の角度が全例で減少した。また、対照的に2度未満の5例では、安静時に比べ回旋位での2直線の角度が全例で増加した。そして、2度未満の5例の任意の平均回旋角は4度以上の5例に比較し、より大きな値を示した。【考察】今回の検討にて、胸骨長軸直線と胸椎の各文節との間には明確な関係はみられなかったが、胸骨長軸直線と第3-7胸椎直線との正中化が得られている場合、胸郭形態を無理なく歪ませることのできる機能を有しており、そのことは体幹の回旋運動に有利な条件となることが示唆された。理由として、肋間筋の体幹の回旋作用を指摘する報告もあり、予め胸郭形状に変化が生じている場合、肋間筋の長さにも影響を及ぼし、回旋動作障害に起因する可能性もあること、また第3-7胸椎の中間的役割としての機能が低下することなどが考えられる。
著者
江戸 優裕 柿崎 藤泰 山本 澄子 角本 貴彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AbPI2115, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 体幹は身体質量の50%以上を占め(松井1956)大きな慣性を有することから、その運動が動作に与える影響は小さくない。それを裏付けるように、体幹の特異的な運動が腰痛や下肢の整形外科的疾患に結び付くことや、動作の効率性を損ねる要因になり得るという主張は散見される。 体幹運動の中でも特に回旋に関する報告は多く、古くから様々な知見が得られている。しかし、それらのほとんどは三次元的に生じる体幹運動から回旋角度のみを抽出して分析したものであり、回旋に伴う副次的な運動を含めて分析した研究は少ない。臨床的には体幹の回旋動作に側屈等が伴ってくることで、あたかも骨盤に対して胸郭が前後左右に並進してくるような動きを呈することが多い。また、物理学的にも剛体の運動は回転と並進で表わされるため、体幹運動についても回旋のみでなく、並進を加えて分析することによって、より本質的な動態を把握できるものと考える。 そこで、本研究では体幹の回旋に伴って生じる骨盤に対する胸郭の並進運動を計測し、若干の知見を得たので報告する。【方法】 対象は健常成人12名(男性8名・女性4名、平均年齢25.8±4.1歳)とした。 計測課題は静止立位と、立位での身体回旋動作とした。回旋については左右交互に4回ずつ、一定速度で無理のない範囲で行った。計測には三次元動作解析装置VICON-MX(VICON PEAK社製)を使用し、両側のASIS・PSIS・烏口突起、そして第1胸椎棘突起の計7点に貼付した赤外線反射標点の三次元位置座標を計測した。得られた標点の位置データから、骨盤に対する胸郭の相対的な回旋角度と、左右・前後への並進量を算出した。尚、並進については骨盤の局所座標系(両ASISの中点と両PSISの中点を結ぶ線の中点を原点とする)に胸郭中心(両烏口突起の中点とT1を結ぶ線の中点)を投影させて算出した。 そして、回旋方向別にXを回旋角度[°]・Yを並進量[mm]とする散布図を求め、更に最小二乗法により一次方程式に近似した。得られた直線の傾きを、回旋に伴う並進の割合を示す並進率(並進量/回旋角度)として分析に使用した。 統計学的分析における検定方法については結果に記した。尚、有意水準は全て5%とした。【説明と同意】 対象者には研究の主旨を口頭で説明し、参加に同意を得た。【結果】・体幹の回旋に伴って、回旋とは反対方向への胸郭の並進が生じた(側方並進率-0.58±0.44)。また、回旋に伴い前方への胸郭の並進が生じた(前方偏位率0.42±0.31)。これらの並進率は、例えば10度の体幹右回旋に約6mmの胸郭左方並進と4mmの前方並進が伴うことを意味する値である。・回旋動作における側方並進率と前方並進率の関係において、ピアソンの相関係数を求めた結果、有意な正の相関が認められた(p<0.05・r=0.46)。・静止立位での体幹肢位(回旋側及び側方偏位側)により分類した右回旋動作と左回旋動作における並進率の比較について、対応のあるt検定を用いたところ、前方・側方共に有意な差は認められなかった。【考察】 体幹の回旋動作は純粋な軸回旋運動ではなく、回旋とは反対方向及び前方への胸郭の並進が伴う運動であることを確認した。 また、前方並進と側方並進は相関関係にあり、互いに補完的に生じていることが示唆された。つまり、回旋時に対側並進が大きければ前方並進は小さく、逆に前方並進が大きければ対側並進は小さいという関係にあることが分かった。このことは、臨床において対側並進と前方並進のどちらか一方の動きに対して介入を加えることで、他方の動きをコントロールできる可能性があることを示唆していると考える。こうしたアプローチの妥当性に関しては、今回の分析に含めていない骨盤・胸郭の傾斜等が結果への交絡となっている可能性もあるため、更なる検討が必要である。 立位時の体幹肢位と回旋動作時の並進率については、今回は一定の関係を認めなかったが、建内ら(2010)は立位姿勢と体幹回旋可動域には関連があることを報告している。このことから、立位時の体幹肢位は動作時の回旋量の指標にはなり得るが、回旋に伴う胸郭の並進を反映するものではないことが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 体幹の回旋動作は、臨床的にも研究的にも回旋角度のみを指標とされる場合が多いが、実際には前後左右への並進を伴う三次元運動である。そして、副次的に生じる前方並進と側方並進の間に一定の関係が認められたことは、体幹運動の評価にとって有益な情報であると考える。