著者
福井 勉
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.153-158, 2000-08-01 (Released:2016-11-01)
参考文献数
12
被引用文献数
4 5

大腰筋は姿勢や動作に大きく関与する筋である.その長さとともに,身体における位置が非常に特異的である.身体重心位置を大きく覆っているだけでなく,身体重心高位となる骨盤には付着していない.そのため上半身と下半身に身体を分割して考えるとその間を結ぶ蝶番の機能を持つように見える.股関節制御は身体重心を移動させまいとする姿勢反応である.通常,体幹筋と大腿筋がこの制御に関係するが,大腰筋が本制御の核となっている可能性が高い.本筋筋力低下恵者に大腹筋をトレーニングすることによって身体バランスが改善する.大腰筋機能は[1]股関節制御能力,[2]股関節と腰椎の分離運動能力に集約されるのではないかと考える.
著者
網本 和 内田 賢 内山 靖 大城 昌平 金谷 さとみ 酒井 桂太 福井 勉 山田 英司 横田 一彦
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.812-817, 2020-07-15

内山 本日は理学療法教育をめぐる現状を共有し,今後の展望について意見交換したいと思います. まず,教育関係者の共通認識として主要な行政文書を確認しておきます.2月28日付の文部科学省・厚生労働省の事務連絡として「新型コロナウイルス感染症の発生に伴う医療関係職種等の各学校,養成所及び養成施設等の対応について」が出され,在学中の学生に不利益が生じないよう,迅速かつ弾力的な対応が示されています.

5 0 0 0 二関節筋

著者
福井 勉
出版者
医学書院
雑誌
理学療法ジャーナル (ISSN:09150552)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.511, 2008-06-15

二関節筋とは起始と停止が2つの関節をまたぐ筋を指す.単一関節に関係する単関節筋と対比されることが多いが,多くの関節に作用する多関節筋という語の一部とも考えられる.下肢では大腿直筋,半腱様筋,半膜様筋,大腿二頭筋長頭,腓腹筋などが,上肢では上腕二頭筋長頭,上腕三頭筋長頭などがその代表である.二関節筋は2つの関節をまたいでいるため,一方の関節運動は他方の関節の影響を受ける.端座位で膝関節最終伸展を行う際に骨盤後傾が起こりやすいのは,ハムストリングスの短縮のためである.しかし,骨盤後傾は大腿直筋の起始部を停止部から遠ざける効果もある.投球動作やキック動作のように,四肢末端が強いトルクを出す際には,主動作筋の筋長を最大限にしていることが観察できる.キック動作のフォロースルーでも,骨盤後傾と体幹回旋によって,下前腸骨棘は脛骨粗面に容易に近づかない.そのためキック動作では,下肢末梢の瞬間中心は股関節よりも中枢の体幹に位置するようになる.このように,二関節筋は関節中心から遠い浅層に位置するため,レバーアーム長が長いことも大きなモーメント発揮に有利であると考えられる. 二関節筋は2つの関節の運動をつかさどるため,運動のパターン化を来す場合もある.変形性膝関節症における大腿筋膜張筋-腸脛靱帯の強い緊張,ジャンパー膝における大腿直筋の強い活動は,拮抗筋機能低下だけではなく,筋の付着部付近の単関節筋活動の機能低下とも結びついている.骨盤付着の二関節筋はすべて体幹姿勢の影響を受けるため,例えばジャンパー膝では,股関節屈曲モーメントが大きくなる骨盤後傾姿勢をとりやすく,同時に膝関節伸展モーメントを増大させてしまう.つまり,ある二関節筋が作用すれば,最小限の姿勢保持や動作が可能であるため,他の筋群の活動は必要とされない姿勢になり,負荷が一箇所に集中するようになる.したがって,ジャンパー膝の原因療法としては,股関節伸展モーメントを動作中に増大するような運動療法が考えられる.変形性膝関節症でも,股関節外転モーメントの増大は骨盤の反対側への傾斜,中殿筋筋力低下と共に生じ,二関節筋への負荷が過剰であるために生ずるとも言える.以上のように,筋炎や腱炎,肉ばなれなどは二関節筋特有と言っても過言ではなく,さらに二関節筋の過剰な運動参加は関節不安定化に移行しやすいなど,機能障害と結びつきやすい.関節疾患における単関節筋機能向上の運動療法が,肩関節や体幹に代表されるローカルマッスルへのアプローチに移行したのは機能障害との関連からであり,臨床に導入された根拠ともなっている.
著者
福井 勉
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.135-139, 2003 (Released:2003-08-13)
参考文献数
8
被引用文献数
1

膝関節は身体を床に近づけたりあるいは床から遠ざけたりする能力を持ち,大腿部と下腿部の動きを調整する役割も有する。膝関節可動性が損なわれると移動を主体とした日常生活に不利益を被り,重心上下移動に関しては他の下肢関節以上に大きい影響がある。疾患を有する人の全身の動きには特徴があり,スポーツ障害などのように分析している「動きそのもの」が疾患の原因と考えられる場合も多い。したがって,各疾患の成因に踏み込む必要があり,原因療法あるいは予防へと展開する必要性がある。理学療法の観点からは,成因に近づくために,関節角度だけではなく,関節モーメントなどの視覚的分析の必要性があると考えている。
著者
布施 陽子 矢崎 高明 福井 勉
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.77-80, 2012 (Released:2012-02-21)
参考文献数
16
被引用文献数
2 2

〔目的〕本研究目的は腹横筋収縮を促進する具体的方法を検討することである.〔対象〕対象は健常者12名とした.〔方法〕超音波診断装置を用い,A:安静背臥位,B:ストレッチポール上背臥位(上肢支持あり),C:Bと同様だが上肢支持なしの3条件での安静呼気終末の外腹斜筋・内腹斜筋・腹横筋の筋厚を体幹矢状断部で左右両側とも計測した.〔結果〕A~Cの3条件間において,腹横筋のみ筋厚に有意差を認めた.また腹横筋厚はA-B間・A-C間に有意差が認められた.〔結語〕腹横筋エクササイズとして,ストレッチポールの使用は有効である.
著者
福井 勉 大竹 祐子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AaOI2006, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 身体重心を制御するため支持基底面内で足関節と股関節で協調した運動が行われていることはよく知られている。またどちらかの関節で運動制限を有しても他の関節で代償運動している症例を良くみかける。しかしながら、この両方の関節の動作時の関係性を明確に示したものはあまり見当たらない。そこで、我々は荷重位での骨盤前後運動の際の股関節と足関節の角度の相関分析を用いて検討したので報告する。【方法】 対象は下肢などに運動制限を有しない男性健常人14名(年齢24.1±3.38歳、身長172.7±6.43cm、体重64.3±7.00cm)とした。被験者に対して立位足幅25cmの幅で、下肢を平行に立った立位から、骨盤を前方-後方および右方-左方に可及的に移動するよう指示した。それぞれの運動の時間は5秒で最大位置に達するように指示し、数回の練習を行った後に計測した。身体運動検出には、VICON-MX(カメラ8台,sampling rate 120Hz)にて計測した。モデルは、Plugin-gait下肢モデルを用い、足関節底背屈、回内外および股関節屈曲伸展、内外転角度を求めた。マーカー位置は左右(上前腸骨棘,大腿外側,膝外側,下腿外側、外果、踵、第2中足骨頭)計16個であった。足関節(距骨下)回内外角度と股関節内外転および足関節底背屈角度と股関節屈伸角度について時系列データの相関分析を行った。【説明と同意】 本研究は文京学院大学倫理委員会承認を受けた。被験者に対して、本研究への参加は被験者の自由意志によるものであることを十分に説明し、研究に参加しないことによる不利益がないことを述べた。データは匿名化の処理を行い、個人情報を含むファイルは文京学院大学大学院スポーツマネジメント研究所内パソコンに保管した。研究成果の公表の場合は、個人が特定されないよう配慮を行った。被験者各人に書面と口頭で「対象とする個人の人権擁護、研究の目的、方法、参加することにより予想される利益と起こるかもしれない不利益について、個人情報の保護について、研究協力に同意をしなくても何ら不利益を受けないこと、研究協力に同意した後でも自由に取りやめることが可能であること、計測中生じうる危険」を説明し、作成した同意書にて本研究協力に関する同意を得た。【結果】 足関節回内外角度と股関節内外転の相関係数はr=0.85~0.99(p<0.001;n>1000)であり、足関節回内時に股関節内転、足関節回外時に股関節外転が生じた。また足関節底背屈角度と股関節屈伸角度の相関係数はr=0.75~0.99(p<0.001;n>1000)であり、足関節背屈時に股関節伸展、足関節底屈時に股関節屈曲が生じた。それぞれの角度変化は一方が大きくなるほど他方も大きくなる関係であった。【考察】 スクワット動作中の足および股関節の関係を検討した我々の先行研究では、足関節背屈角度制限を人為的に起こすと股関節屈曲角度を大きくして代償し、また逆に股関節屈曲角度を制限すると足関節背屈運動で代償した。すなわち相補的関係を示したわけであるが、これはどちらか一方の関節が可動域制限を有していても他方の関節が補うものであった。Trendelenburg徴候が慢性化すると、徐々に距骨下関節を回内位にして足部を床に接地するようになってくる症例を見かけることは多い。この徴候は股関節内転位であり骨盤外側移動も起こすため本実験結果と良く一致し、原因は股関節にあると考えられ距骨下関節の動きはその結果であると考えられる。一方、前距腓靭帯損傷後には距骨下回外位を避けるため、骨盤を外側へ移動させて代償する症例もしばしば観察できる。その際、当然であるが骨盤側方移動は代償運動であり、内反捻挫を原因とする結果的な代償である。原因は足関節であり、股関節はその結果である。そのため理学療法として骨盤側方移動に対してアプローチするのではなく、原因である足関節を対象とすることが正当であることも示唆していると考えられる。本研究での骨盤運動の指示は足関節、股関節どちらかを制御因子としたわけではないため両者の相関関係は明確にあると考えられる。これは支持基底面上に身体重心を位置させる作用を足、股関節の双方で相補的に有することを示していると考えられる。【理学療法学研究としての意義】荷重位における足関節と股関節の前額面、矢状面における相互関係が本研究で明確となったと考えられる。足関節、股関節どちらかの関節の機能に障害が生じた場合、もう一方の関節でどのように代償させたらよいか、あるいは治療アプローチの方法論に展開可能となる。また運動学的な関係性とともに、外乱時の身体応答の検討のみでなく日常の姿勢にもこのような現象は合致した。すなわち理学療法の治療介入の順序を規程することにつながると考えられる。
著者
加藤 太郎 福井 勉
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100042, 2013 (Released:2013-06-20)

【目的】我々は前回大会にて呼吸運動時の体幹皮膚の変位量について報告した。呼吸運動時に体幹皮膚は上腹部皮膚の前面が最も大きく動き、続いて下胸部皮膚の前面、上胸部皮膚の前面の順となり、また体幹側面皮膚は体幹前面皮膚と比べて動きは少ないが、その順序性は前面と同様に上腹部皮膚の側面が最も大きく動き、続いて下胸部皮膚の側面、上胸部皮膚の側面の順となったことを報告した。このような皮膚の運動特性から、皮膚誘導による呼吸介助手技に応用するためには、さらに各部位皮膚の変位方向を明らかにする必要がある。本研究は呼吸運動時の体幹皮膚の変位方向を明らかにすることを目的とし皮膚上マーカーを体幹に貼付した状態での呼吸運動を分析検討した。【方法】対象は健常成人男性10 名(年齢29.4 ± 4.3 歳、身長170.2 ± 5.5cm、体重67.7 ± 8.5kg)であった。測定機器は3 次元動作解析装置VICON MX(VICON社製)を用いた(カメラ8 台、計測周波数100Hz)。マーカー貼付位置は正中列と側方列(左右)と正中・側方中間列(左右)(以下、中間列とする)とし縦5 列に分け、各列に8 個のマーカーを貼付し合計40 個のマーカー(直径16mm)を格子状にした。正中列は胸骨柄上部、剣状突起、および両上前腸骨棘間の中点を基準とし、胸骨柄上部と剣状突起の間を1/3、2/3 に内分する点および剣状突起と両上前腸骨棘間中点の間を1/4、2/4、3/4 に内分する点とした。側方列は後腋窩と、上前腸骨棘と上後腸骨棘間の中点を基準とし、この間を1/7、2/7、3/7、4/7、5/7、6/7 に内分する点とし左右に貼付した。中間列は胸骨柄上部と後腋窩の中点と、上前腸骨棘を基準とし、この間を1/7、2/7、3/7、4/7、5/7、6/7 に内分する点とし左右に貼付した。各列ともに頭側から尾側に向かって順に1 〜8 マーカーとし、1、2 マーカーは上胸部、3、4 マーカーは下胸部、5、6 マーカーは上腹部、7、8 マーカーは下腹部の皮膚の動きを表すものとした。マーカーと肋骨との位置関係は上胸部マーカーは第1 〜3 肋骨の上位肋骨、下胸部マーカーは第4 〜6 肋骨の中位肋骨、上腹部マーカーは第7 肋骨以下の下位肋骨の位置に相当している。測定肢位は床上での背臥位とし両上肢の位置を90°外転させ両手掌を頭部後面に位置させたハンモック肢位とした。測定は5 回の深呼吸を1 試行とし5 試行実施した。呼気と吸気の相分けは身体の水平面において剣状突起マーカーが頭側方向へ最も動いた時を最大吸気位とし、最も尾側方向へ動いた時を最大呼気位とした。各呼吸の最大呼気と最大吸気間の各マーカーの変位量を算出した。上胸部、下胸部、上腹部、下腹部の各部位のX 軸(左右)、Y軸(上下)、Z軸(前後)方向への変位量について一元配置分散分析および多重比較法(Bonferroni検定)を用い解析、検討した。統計処理はSPSS ver.18.0Jを使用し危険率1%未満を有意水準とした。【倫理的配慮】本研究はヘルシンキ宣言に沿って実施した。全対象者に事前に本研究内容を書面および口頭で十分な説明を行い署名にて同意を得た。尚、本研究は文京学院大学大学院保健医療科学研究科倫理委員会の承認の下で実施した。【結果】各部位の方向別変位量に有意差を認めた。上胸部はY方向の動きが最も大きかった。またX方向の動きがYとZ方向と比べ有意に小さかった。下胸部はYとZ方向の動きが大きかった。またX方向の動きがYとZ方向と比べ有意に小さかった。上腹部は他部位と比べ全方向へ動きが大きく、変位量の大きさはZ、Y、X方向の順であった。下腹部は全方向へ動きが小さく、Z方向の動きがX、Y方向と比べ有意に大きかった。【考察】呼吸運動時の各部位皮膚の変位方向は、上胸部は上下方向、下胸部は上下、前後方向、上腹部は全方向への動きが大きく、上位肋骨から下位肋骨に向かうほど左右方向への動きが大きくなった。この上位肋骨相当の上胸部皮膚が上下方向への動きが大きく、中位肋骨相当の下胸部皮膚、下位肋骨相当の上腹部皮膚へと下位に移るほど左右方向への動きが大きくなった結果は、肋骨頭関節と肋横突関節を結ぶ軸方向により決まるpump handle motionとbucket handle motion の胸郭の生理的運動方向が反映されたと考えられる。本研究結果から皮膚誘導による吸気時呼吸介助手技を行う場合に、上胸部皮膚は上方向へ、下胸部皮膚は上・前方向へ、上腹部皮膚では上・前方向に左右方向への動きを加えることが有効であると考えられる。以上より、各部位の皮膚運動特性を明らかにすることは、理学療法における皮膚誘導を用いた手技に応用できると考えられる。本研究結果は皮膚運動特性を考慮した皮膚誘導による呼吸介助手技が行える可能性とその方法を示唆していると考えられ、臨床応用の基礎となり得る。【理学療法学研究としての意義】本研究により皮膚誘導を用いた呼吸介助手技が行える可能性を示唆でき、その誘導する量と方向に応用できると考える。
著者
柿崎 藤泰 根本 伸洋 角本 貴彦 山﨑 敦 仲保 徹 福井 勉
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0312, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】体幹の運動機能を評価する過程で、骨盤との運動連鎖に注目した評価は重要であり、臨床でも良く行われる評価であると考える。しかし、体幹機能の評価で、肋骨の分節的な評価や、他の分節との運動連鎖を観察する一般的な評価はあまりにも少ない。呼吸器疾患をはじめ、他の運動器疾患でもより効果的な理学療法治療を展開するうえで、体幹の運動機能を障害するファクターとしてなりうる胸郭運動の病態把握は重要であると考えている。今回我々は、体幹の複合動作である回旋運動に着目し、胸郭の歪みを形成する肋骨の動きを検討したので報告する。【方法】対象は特に整形外科的疾患をもたない健常成人10名(男性9名、女性1名)で、平均年齢は25.2±3.9歳であった。 計測はzebris社製の CMS20S Measuring system を用いた。マーカーポインターにより測定した部位は、両側肩峰部、両側上前腸骨棘、胸骨柄、剣状突起下端部、第1、3、7、12胸椎棘突起部の各部分であった。各部位の測定では、部分の凹凸に対し、最も陥没している部位、または最も突出している頂点部分にポイントするよう注意を払った。被験者には両手を頭の後に組んだ状態で、40cmの椅子に座ってもらった。静止座位と体幹回旋位で2回の測定が行われた。体幹回旋角度の規定は特に設定せず、骨盤中間位にて、上半身のみの回旋運動で、無理なく運動が遂行できるところまでとし、被験者の任意の角度で測定した。肋骨の動きは、胸骨の長軸を通る直線と第1から第3胸椎、第3から第7胸椎、第7から第12胸椎の各々を結ぶ直線とを前額面上で投影させ、その2直線の交差する角度で判定した。【結果】胸骨長軸直線と各々の胸椎直線との間に、共通した関係はみられなかった。しかし、胸骨長軸直線と第3-7胸椎直線とを投影する角度が、安静座位で2度未満(平行状態に近い)のものが5例、安静座位の時点ですでに4度以上の角度で交差しているものが5例いた。4度以上の5例では、安静時に比べ、回旋位での2直線の角度が全例で減少した。また、対照的に2度未満の5例では、安静時に比べ回旋位での2直線の角度が全例で増加した。そして、2度未満の5例の任意の平均回旋角は4度以上の5例に比較し、より大きな値を示した。【考察】今回の検討にて、胸骨長軸直線と胸椎の各文節との間には明確な関係はみられなかったが、胸骨長軸直線と第3-7胸椎直線との正中化が得られている場合、胸郭形態を無理なく歪ませることのできる機能を有しており、そのことは体幹の回旋運動に有利な条件となることが示唆された。理由として、肋間筋の体幹の回旋作用を指摘する報告もあり、予め胸郭形状に変化が生じている場合、肋間筋の長さにも影響を及ぼし、回旋動作障害に起因する可能性もあること、また第3-7胸椎の中間的役割としての機能が低下することなどが考えられる。
著者
布施 陽子 江川 千秋 杉本 由美子 大和田 沙和 矢﨑 高明 大野 智子 福井 勉
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1795, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】我々は妊婦を対象とした理学療法を検討し,幾つかの研究を行ってきた。女性は妊娠によって様々な身体的変化を生じ,身体的愁訴として腰痛,尿失禁などのマイナートラブルが問題視されている。妊婦は腹部が前方へ突出するに従いsway-back姿勢となり易く,それに伴い,骨盤帯における運動機能が破綻し腰痛を生じてしまう可能性がある。骨盤帯における運動機能を再構築するための方法の中に腹横筋エクササイズ(以下,EX)があり,従来検討を繰り返してきた(2008~2014布施)。今回,腰痛を呈する妊婦に対し,腹横筋EXを実施し,疼痛,筋機能,頸管長にどのような影響を与えるかについて検討したので報告する。【方法】対象は腰痛を呈した妊婦50名(妊娠周期28.1±5.5週,平均年齢33.3±4.4歳,身長1.6±0.1m,体重57.7±8.2kg,BMI22.5±2.4 kg/m2)とし,事前に医師による診察を実施し早産の危険性がないと判断された妊婦とした。対象者に対し,1.超音波診断装置による視覚的フィードバックを用いた腹横筋収縮学習(第49回日本理学療法学術大会により腰痛を呈する妊婦への腹横筋EXとして有効性を研究),2.ストレッチポール上背臥位(第44回日本理学療法学術大会により腹横筋EXとして有効であるとしたものであり,ストレッチポールの種類については個々に評価した上で実施),3.ストレッチポール上背臥位でのu・oの発声(第46回日本理学療法学術大会により腹横筋EXとして有効であると立証),4.ストレッチポール上背臥位での上肢課題運動(第45回日本理学療法学術大会により上肢外転側と反対側の腹横筋EXとして有効であるとしたものであり,左右の回数については個々に評価した上で比率を検討し実施),5.立位での上肢課題運動(第47回日本理学療法学術大会により上肢外転側と反対側の腹横筋EXとして有効性を検討したものであり,左右の回数については個々に評価した上で比率を検討し実施),6.呼吸指導(第47回日本理学療法学術大会により腹横筋EXとして有効であると立証)の6種類の腹横筋EXの中から個別性を検討・評価した上で1つ以上の腹横筋EXを選択し,各対象者において約30分個別に実施した。計測項目は,1)疼痛スケール(VAS),2)脂肪および側腹筋群(外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋)の筋厚,3)頚管長の3項目とし,それぞれ目盛りのない10cm線,超音波診断装置(HITACHI Mylab Five),経膣超音波を用いて計測した。1)は対象者による自己評価,2)は理学療法士による計測,そして3)は医師により実施された。頚管長測定は,介入による切迫早産の兆候を確認するテストバッテリーとして実施した。また,計測肢位は2)ベッド上安静背臥位,3)産婦人科内診台上安静座位とした。2)はわれわれの先行研究で高い信頼性が得られた位置である,上前腸骨棘と上後腸骨棘間の上前腸骨棘側1/3点を通る床と垂直な直線上で,肋骨下縁と腸骨稜間の中点にプローブを当てて,腹筋層筋膜が最も明瞭で平行線となるまで押した際の画像を静止画として記録した(第43回日本理学療法学術大会により計測方法の信頼性を研究)。以上3項目を,介入前後に計測した。統計的解析は,対応のあるt検定を実施し有意水準1%未満で検討した(SPSSver18)。【結果】1.1)疼痛スケール,2)腹横筋厚に差を認め,1)は有意に減少し,2)は有意に増加した(p<0.01)。2.3)頸管長については差を認めなかった(p=0.89)。3.2)脂肪厚,外腹斜筋厚,内腹斜筋厚については差を認めなかった。【考察】本研究では,腰痛を呈する妊婦に対し,我々が先行研究にて立証してきた腹横筋EXを実施した結果,腰痛の緩和,腹横筋厚の増加を認めた。腹横筋は体幹深層筋群の1つであり,姿勢保持作用・腹腔内圧調整作用を持つと言われている。腹横筋EXを実施した事で妊娠により増大した腹部を効率的に支えられるようになり疼痛の緩和に繋がったと考えられる。妊娠24週未満で頚管長が25mm以下では標準的な頚管長に比べ6倍以上早産になりやすいとされているが,介入前後で頸管長差がなかったことから,本研究での実施内容は早産リスクを高めるほど過度な腹圧をかけたEXではないと考えられた。【理学療法学研究としての意義】本研究結果から骨盤帯における運動機能を再構築する方法として本研究での腹横筋EXが腰痛を呈した妊婦に対して安全かつ有効であることが示された。今後,妊娠経過に伴う姿勢制御機能破綻から引き起こされる疼痛に対する予防的位置付けとして本研究での腹横筋EXが貢献できると考えられる。
著者
飯島 大志 福井 勉
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.449-454, 2019 (Released:2019-08-28)
参考文献数
17

〔目的〕座位側方リーチ課題における座圧中心移動距離に関係する因子を明らかにすること.〔対象と方法〕対象は健常成人17名とし右手での座位側方右側リーチ課題を行った.三次元動作解析装置と床反力計を用いて座圧中心移動距離とリーチ距離胸郭と骨盤角度および立ち直り反応の大きさを角度に変換した数値を算出しそれらの相関関係を検証した.〔結果〕座圧中心右側方移動距離と右側方リーチ距離,骨盤右側方傾斜角度,胸郭と骨盤右回旋角度に有意な相関関係が認められ,重回帰分析では右側方リーチ距離,骨盤右側方傾斜角度が選択された.〔結語〕座位右側方リーチ課題における座圧中心移動距離に関係する因子は右側方リーチ距離と骨盤右側方傾斜角度であることが示された.
著者
久保 祐子 山口 光國 大野 範夫 福井 勉
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.112-117, 2006-06-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
6
被引用文献数
6

姿勢・動作において身体重心位置を把握することは重要であるものの,実際には重心位置は不可視的であり,経験的に推測されていることが多い。身体重心は身体各部の重さの中心であることから,おおよそであるものの観察可能である上半身と下半身重心点の中点が身体重心に近似するものと推察される。今回我々は身体を上半身と下半身に分け,それぞれ算出した重心点の中点と3次元動作解析装置から得られる身体重心位置との差異を,前額面,矢状面上の姿勢ならびに動作について調査した。その結果,身体重心点と上半身と下半身重心点の中点とは近似しており,臨床上の観察点としての有用性が示唆された。
著者
近藤 崇史 福井 勉
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100264, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】我々は,昨年の第47 回日本理学療法学術大会において健常者の歩行踵離地(以下:HL)のタイミングが遅れるほど,歩行時の立脚中期から立脚後期にかけての足関節底屈モーメントの活動が高まり,股関節屈曲モーメントの活動は低くなるといった足関節と股関節が相互に代償している可能性について報告した.その際,足部内の力学負担に関しては足部を1 つの剛体として捉えたため,その詳細は明らかにできなかった.アキレス腱炎,足底筋膜炎に代表される足部に関するスポーツ障害ではアキレス腱炎では足関節底屈モーメント,足底筋膜炎では中足趾節関節(以下:MP関節)屈曲モーメントが高まり,繰り返しのメカニカルストレスが障害に結びつくと予想される.従来の光学式手法による運動解析では,足部を1 つのセグメントとして捉えるもの,または複数のセグメントからなる足部モデルにおいても関節角度のみを算出しているものが多く,足部内の力学作用に関する検討は少ない.そこで今回は,剛体リンクモデルではなく,矢状面内での足関節およびMP関節の関節モーメントを算出し,HLのタイミングとの関係性を検討することを本研究の目的とする.【方法】対象は健常成人21 名(男性:17 名,女性:4 名,年齢:28.9 ± 2.5 歳)とした.測定には3 次元動作解析装置(VICON Motion system社)と床反力計(AMTI社)を用いた.標点はVicon Plug-In-Gait full body modelに準じて反射マーカー35点を全身に添付した.動作課題は自由歩行を7 回行った.得られた下肢の力学データは左右分けることなく採用し,解析に用いた.計測にて歩行速度,歩幅および矢状面上の足関節・MP関節の関節モーメントを算出するため,足関節中心,第2 中足骨頭背側マーカー,床反力作用点の位置座標,床反力データを得た.矢状面内での足関節およびMP関節の関節モーメントは,宮崎ら(1994)の先行研究の方法を参考に算出した.解析項目として1 歩行周期中の算出した足関節底屈モーメントおよびMP関節屈曲モーメントの最大値とHLのタイミング(歩行周期中の百分率;%)の関係を分析した.統計分析は統計ソフトSPSS 18J(SPSS Inc.)を使用した.統計手法には偏相関分析を用い(制御変数;歩行速度,歩幅),有意水準は1%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】文京学院大学大学院保健医療科学研究科倫理委員会の承認を得たうえで,対象者には測定前に本研究の趣旨を書面及び口頭で説明し,参加への同意を書面にて得た.【結果】全対象の自由歩行から立脚期の力学データを抽出した左下肢68 肢,右下肢79 肢であった.HLのタイミングが遅れるほど立脚中期から後期にかけての足関節底屈モーメントは大きく(r=0.54,p<0.01),MP関節屈曲モーメントも大きかった(r=0.36,p<0.01).【考察】健常者の歩行動作では,HLのタイミングが遅れるほど足関節底屈筋,足趾屈曲筋(特にMP関節屈曲作用の筋群)による力学的負担がともに大きくなることが確認された.このような力学的負担はアキレス腱炎,足底筋膜炎につながるメカニカルストレスとなり得ることが示唆された.Wearing(2004)らによるfluoroscopyを用いた運動解析によれば足底筋膜炎の症例では歩行立脚後期の第1 中足趾節関節伸展角度が低下していたとされる.よって,本研究の結果とWearingらの先行研究を踏まえて考えるならば,MP関節伸展制限および踵離地のタイミングが遅れることによるMP関節屈曲モーメント増加といった力学的負担が足底筋膜炎へとつながる可能性が推察された.上記の理由から臨床場面でのアキレス腱炎,足底筋膜炎の症例においての評価・介入の指標として歩行時のHLのタイミングを考慮にいれた解釈を行うことの重要性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】本研究の結果より歩行観察時にHLのタイミングを指標とすることにより,立脚中期から後期にかけての足関節底屈モーメントおよびMP関節屈曲モーメントによる力学的負担(メカニカルストレス)を解釈できることが明らかとなり,アキレス腱炎,足底筋膜炎の症例に対しての理学療法評価および介入の効果判定などの臨床推論に活用できることが本研究の意義であると考える.
著者
近藤 崇史 福井 勉
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Aa0131, 2012 (Released:2012-08-10)

【目的】 歩行周期において踵離地(以下:HL)は立脚期を100%とした時に49%(Perry 1992),58%(Kerrigan 2000)などと報告されているが,理学療法における歩行観察場面ではHLのタイミングが早い症例と遅い症例を経験する.HLのタイミングが早い症例では膝折れなどが,遅い症例ではアキレス腱炎(入谷2006)やロッキングなどを引き起こすとされている.歩行時のHLから遊脚期にかけては足関節底屈モーメントが遠心性パワーから求心性パワーへと切り替わり大きな力がかかるとされる.しかし,HLのタイミングの違いが下肢各関節のメカニカルストレスに変化を及ぼすかについての詳細は明らかにされていない.Horak(1986)は静止立位時の外乱に対する姿勢制御戦略として足関節戦略(ankle strategy),股関節戦略(hip strategy)を報告し,姿勢制御戦略を足関節と股関節の関係性により説明した.最近ではLewis(2008)が歩行時に対象者に異なる蹴り出しを行わせることで足関節と股関節が相互に力学的代償を行うと報告した.われわれはこの足関節,股関節の関係性がHLのタイミングに影響を与えると推察し,歩行時のHLのタイミングの違いと股関節,足関節の力学特性の関係性を検討することを本研究の目的とした.【方法】 対象は健常成人男性12名(年齢:30.1±1.6 歳)とした.測定には3次元動作解析装置(VICON Motion system社)と床反力計(AMTI社)を用いた.標点はVicon Plug-In-Gait full body modelに準じて反射マーカー35点を全身に添付した.各対象者には自由歩行を連続7回行うよう指示し,分析には自由歩行時に1枚のフォースプレート上を歩くことに成功した下肢の力学データを左右分けることなくすべて採用した.計測値として歩行速度および歩行時の股関節・膝関節・足関節の関節角度,関節モーメントおよび関節パワーを算出した.解析項目として1.HL時の股・膝・足関節の関節角度・モーメント・パワーの値(以下:HL値),2.立脚期の股・膝・足関節の関節角度・モーメント・パワーの最大値(以下:ピーク値)を抽出した.さらに,1.各HL値とHLのタイミング(歩行周期中の百分率;%)の関係を分析し,2.各ピーク値とHLのタイミング(歩行周期中の百分率;%)の関係を分析した.統計分析は統計ソフトSPSS 18J(SPSS Inc.)を使用した.統計手法には偏相関分析を用い(制御変数;歩行速度),有意水準は1%未満とした.【説明と同意】 文京学院大学大学院保健医療科学研究科倫理委員会の承認を得たうえで,対象者には測定前に本研究の趣旨を書面及び口頭で説明し,参加への同意を書面にて得た.【結果】 全対象者の自由歩行から立脚期の力学データが抽出可能であった下肢は123肢(左下肢53肢,右下肢70肢)であった.1.HL値では,HLのタイミングが遅れるほど股関節伸展角度の増大(r=-0.82),股関節屈曲モーメントの増大(r=-0.55),足関節底屈モーメントの増大(r=0.49),股関節負のパワーの増大(r=-0.786),足関節負のパワーの増大(r=-0.71)との間に有意な相関関係を認めた.2.ピーク値では,HLのタイミングが遅れるほど足関節背屈角度の増大(r=0.59),股関節屈曲モーメントの減少(r=0.41),足関節底屈モーメントの増大(r=0.663),股関節負のパワーの増大(r=-0.536),足関節正のパワーの増大(r=0.67),足関節負のパワーの増大(r=-0.68)との間に有意な相関関係を認めた.【考察】 健常者のHL時の力学的特性として,HLのタイミングが遅れるほど股関節屈曲筋および足関節底屈筋の遠心性活動を高めていることが示唆された.さらにピーク値ではHLのタイミングが遅れるほど,股関節屈曲筋が活動を減少させていくのに対して,足関節底屈筋が求心性・遠心性活動をともに高めていることが示唆された.これらのことよりHLのタイミングが遅れるほど,発揮しづらい状況となる股関節屈曲筋の力学的作用を代償するために,足関節底屈筋が活動を高めていることが推測された.上記の理由からアキレス腱炎などHLのタイミングが遅れる特徴を有する症例では,股関節機能の代償による足関節底屈筋の力学的過活動がメカニカルストレスを引き起こし障害へとつながると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 歩行観察時にHLのタイミングを指標とすることで,足関節の代償性過活動による機能・能力障害を有する症例に対し,股関節・足関節の相互の関係性を考慮に入れた理学療法介入を可能にすることを提示できたことに,本研究の意義があると考えられる.