著者
谷口 力光
出版者
日本印度学仏教学会
雑誌
印度學佛教學研究 (ISSN:00194344)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.943-947, 2023-03-25 (Released:2023-09-08)
参考文献数
8

家産分割,相続の主体となる様々な「息子」は12世紀頃以降においていかにカテゴライズされ,相対的に位置づけられたか.本報告は,Vijñāneśvara著Mitākṣarā(ca. 1056-1126),Haradattamiśra著Ujjvalā(ca. 1100-1300)という2作品のdharmanibandhaが伝える息子論(eg., putraprakaraṇa)から,このような議論が精緻化してゆく様相の一端を跡付ける. putraprakaraṇaは,主要な息子とされる嫡出子(aurasa)と,養子(dattaka)や再婚女性の息子(paunarbhava)などとの相続上の関係性について情報を伝える.中世サンスクリット法律学における法益論や近現代南アジアにおける寡婦再婚問題などにも関連する重要主題の一つである. 主たる初期文献群(dharmasūtra, dharmaśāstra)は,微妙な相違はあるものの,一般に息子として12-13種類を数える.しかし,その数はMitākṣarāでは14種類,さらにUjjvalāでは15種類に至る.既往研究では,このような息子に関する議論について,諸資料に見られる相違点は「なにか」という点での貢献が行われてきた.本稿は,それらの相違点が「どのように」生じるのかに焦点を当てる. 具体的には,Mitākṣarā,Ujjvalāに見られる発達した議論の間にある唯一の相違点である “yatra kvacanotpādita”と呼ばれる息子種について,これがなぜ前者では言及されず,後者では第15位の息子として掲げられるようになったのかについて,その学的背景を探る.そして,これら両資料が想定していたであろう「結婚の正当性」との関係から,この差異を説明可能であることなどを指摘する. 南アジア広域で指導的地歩を築いたMitākṣarāと,最多の息子種を数えるらしいUjjvalāとの差異化の一端が示されることで,それ以降に著されたdharmanibandhaなどとの比較を行う上での基盤が得られたと期待する.
著者
谷口 力光
出版者
日本印度学仏教学会
雑誌
印度學佛教學研究 (ISSN:00194344)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.1087-1090, 2022-03-25 (Released:2022-09-09)
参考文献数
3
被引用文献数
1

Haradatta(ca. 1100-1300)作Ujjvalāは唯一現存するĀpastambadharmasūtra註であり,後代の伝統はこれをdharmanibandha(法理論書)と見做している. 既存諸版におけるテクストには遺産相続資格を寡婦に与えるか否かについて相容れない記述が併存しており,それらはいずれもHaradattaの意見として示されていると解釈できる.これらの記述はUjjvalāの成立年代,Haradattaの活動年代を決定するための内部的証拠として利用されてきた. 本論文では,Ujjvalāが知らせる相続論題全体の理路や既存諸版が報告する写本情報などから遺産相続肯定論が比較的後代に挿入された記述であることを示す.それによって従来の年代論が修正される.同時に,その肯定論の記述の一部がHaradattamitākṣarā(Gautamadharmasūtra註; 同一のHaradatta作とされる)に論調を合わせるようにして挿入されたことも示す.この知見は先行研究が文体の相違から予測していたUjjvalāとHaradattamitākṣarāの異著者性に対して,内容的側面から裏付けを行うことに寄与する.
著者
谷口 力夫 星 旦二 藤原 佳典 高林 幸司
出版者
東京都立大学都市研究センター
雑誌
総合都市研究 (ISSN:03863506)
巻号頁・発行日
vol.66, pp.5-18, 1998

都道府県別にみた平均寿命の30年間の経年変化の実態を分析し、特に東京都平均寿命の特性を明らかにすることを目的とし、1965年から1995年までの5年毎30年間の男女別都道府県別平均寿命を分析対象として調査を実施した。都道府県別平均寿命の経年変化をみると、男女共に急速に延びていった。しかしながら性別にみた増加傾向は同一ではなかった。女性の平均寿命は、1985年頃まで直線的に延長していったが、1990年以降はその延びが鈍化し上に凸な二次曲線の延びとなっていった。男性の増加傾向は、女性よりも5年早く二次曲線の延びに変化していた。都道府県別平均寿命の地域間格差を経年的にみると、1965年では男性で最大4.52歳、女性では同様に3.46歳であったものが、30年後の1995年では、男性で3.67歳、女性では3.25歳へと縮小していった。1965年の時点で、最も短い平均寿命は、男性では青森県の65.32歳、秋田県の65.39歳で、女性では秋田県の71.24歳、岩手県の71.58歳であった。一方、最も長い平均寿命の地域は、男性で東京都の69.84歳、京都府の69.18歳、女性では東京都の74.70歳、神奈川県の74.08歳であった。1965年の時点において、東京都の男女の平均寿命は突出して高い値を示していたが、年次経過とともにその延びは鈍る傾向を示し、30年後の1995年における順位は大きく変化していった。30年後の1995年の東京都平均寿命の男性順位は20位で、女性平均寿命の順位は35位となり、他の道府県の平均寿命の延びに比べて、延び率が少ないことが明らかになった。