- 著者
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吉村 豊雄
三澤 純
稲葉 継陽
足立 啓二
山田 雅彦
松本 寿三郎
- 出版者
- 熊本大学
- 雑誌
- 基盤研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2004
本研究の中心をなす日本史研究班は、16・17年度に引き続いて、熊本大学が収蔵する日本最大の前近代組織体文書たる永青文書所蔵の細川家文書(細川家の大名家文書)のなかで、藩制の基幹文書となっている「覚帳」「町在」の系統解析に全力をあげつつ、前近代日本社会・日本行政の到達形態について実態的な成果を出すことに努めた。その結果、「覚帳」の系統的解析を通して驚くべき成果を得た。すなわち、本研究で明らかになってきたのは、日本近世の領主制が農村社会の自律的運営能力の立脚する方向で、次第に農村社会からの上申事案・上申文書の処理を業務とする割合を強め、ついには農村社会からの上申文書を中央行政機構における稟議制の起案書として、地方行政に関わる政策形成を行うに至るという、従来、想像もされてこなかった19世紀、幕末の行政段階である。熊本藩では、18世紀以降、こうした傾向を強め、中央行政機構では、こうした状況に対応した行政処理・文書処理のシステムを整備し、19世紀段階には農村社会からの上申文書を起案書とし、中央行政機構の稟議制に基づく地方行政を展開している。本研究において主対象とした熊本藩の中央官庁帳簿たる「覚帳」は、こうした歴史的推移をたどる。同時に、中央行政機構の稟議にかかった上伸事案は、農村社会で無数に生成される要望・嘆願の類いのごく一部であり、その多くは中央行政機構に上申されることなく、農村社会の段階で処理・解決されている。18世紀後半以降の地方行政は、農村社会の政策提案能力に依存しつつ、領主支配の根幹に関わる事案について上申させ、これを稟議処理し、執行することで成り立っていたと言える。