著者
近藤 哲夫 中澤 匡男 加藤 良平
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.276-280, 2013 (Released:2014-01-31)
参考文献数
14

乳頭癌充実型は充実性構造を呈して増殖する乳頭癌の一亜型で,成人発生の甲状腺癌に比べて小児の甲状腺癌でその頻度が高いことが知られている。特にチェルノブイリ原子力発電事故後に周辺地域で増加した小児甲状腺癌ではこの充実亜型の割合が高いことが報告され,放射線被爆との関連がこれまで論議されてきた。また乳頭癌充実型にはret/PTC3変異が高いことも知られており,遺伝子異常の点からも通常型乳頭癌とは異なる特徴を持っている。福島原子力発電事故よって本邦でも小児甲状腺癌への関心が高まっているが,本稿では乳頭癌充実型/充実濾胞型の病理学的特徴,低分化癌との異同,チェルノブイリ原子力発電事故との関連,本邦における乳頭癌充実型,遺伝子背景について概説する。
著者
大石 直輝 近藤 哲夫
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.73-77, 2016 (Released:2016-07-28)
参考文献数
16

甲状腺乳頭癌は,腫瘍細胞の特徴的な核の形態学的所見によって定義されており,重畳核,すりガラス状核,核溝,核内細胞質封入体といった核所見が乳頭癌を特徴づけている。一方で,乳頭癌は多彩な組織像を呈し,乳頭状構造を主体とする通常型以外にも,特徴的な組織構築,細胞所見,周囲間質の変化を伴った組織亜型が存在する。甲状腺癌取扱い規約第7版ではこれらを特殊型variantとし,1)濾胞型,2)大濾胞型,3)好酸性細胞型,4)びまん性硬化型,5)高細胞型,6)充実型,7)篩型を収載している。近年,それぞれの特殊型に特徴的な臨床像,生物学的態度,遺伝子異常が明らかにされつつあり,これら特殊型を理解しておくことは実臨床上も有益である。本稿では,取扱い規約に記載された乳頭癌特殊型のなかで,代表的な「濾胞型」,「びまん性硬化型」,「高細胞型」,「充実型」,「篩型」の定義,臨床像,病理組織所見,遺伝子異常を概説する。
著者
加藤 良平 近藤 哲夫 中澤 匡男 大石 直輝
出版者
山梨大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

20歳以下の若年甲状腺乳頭癌 (P-PTC) 81例と21歳以上の成人甲状腺乳頭癌 (A-PTC) 83例について、臨床病理学的に比較検討するとともに、BRAFV600E突然変異とTERT promoter突然変異を解析した。その結果、P-PTCはA-PTCよりも、腫瘍径が大きく、リンパ節転移率が高いことがわかった。一方、BRAFV600E突然変異率は、P-PTCは37%で、A-PTCの82%よりも低く、TERT promoter突然変異はA-PTCでは13%が陽性を示したが、P-PTCでは全例陰性となった。以上より、若年甲状腺癌はその臨床像とともに遺伝子背景も成人とは異なることが示唆された。
著者
近藤 哲夫
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.76-80, 2017 (Released:2017-07-21)
参考文献数
17

甲状腺腫瘍に境界病変borderline lesionもしくは低悪性度low malignant potentialとされる新たな診断カテゴリーが新WHO分類で採用される。ひとつは乳頭癌様核を有する非浸潤性甲状腺濾胞性腫瘍noninvasive follicular thyroid neoplasm with papillary-like nuclear features(NIFTP),もうひとつは悪性度不明の高分化腫瘍well differentiated tumor of uncertain malignant potential(WDT-UMP)である。今後これらの診断名が甲状腺腫瘍の病理診断で使われるようになるが,現行の甲状腺癌取扱い規約には記載のない診断用語であるため,本邦における取扱いについては外科医と病理医の間で共通の理解と十分な議論が必要である。本稿ではNIFTPとWDT-UMPの概念と定義,臨床像,病理学的所見,細胞診との整合性,遺伝子背景について概説する。
著者
加藤 良平 赤石 純子 杉野 公則 近藤 哲夫 伊藤 公一
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.168-174, 2021 (Released:2021-11-27)
参考文献数
15

小児・若年者(20歳以下)を主体に発生する甲状腺癌は,成人以降に発生する通常型甲状腺癌とは異なる組織所見を示すものがあり,それらは臨床経過も特徴的であることが知られている。最も頻度が高いのは通常型の乳頭癌であるが,小児・若年者ではいわゆる“若年型乳頭癌”といえる特徴的組織所見を示す亜型群が発生する。その中には充実亜型,びまん性硬化亜型,篩状・モルレ亜型などが含まれる。乳頭癌以外では,家族性髄様癌や多発性内分泌腫瘍症2型に伴う髄様癌も若年者に多く認められる。一方,小児・若年者では低分化癌や未分化癌は極めて例外的といってよい。若年者甲状腺癌は特徴的な病理組織像と臨床像を示すため,正確な病理診断と治療が肝要である。
著者
端 晶彦 弓納持 勉 村田 晋一 近藤 哲夫 奈良 政敏 中澤 久美子 端 圭子 大森 真紀子 加藤 良平 星 和彦
出版者
公益社団法人 日本臨床細胞学会
雑誌
日本臨床細胞学会雑誌 (ISSN:03871193)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.126-133, 2006-03-22 (Released:2011-12-05)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

目的:分葉状頸管腺過形成(Lobular endocervical glandular hyperplasia; LEGH)と悪性腺腫(Minimaldeviation adenocarcinoma; MDA)の細胞学的・組織学的検討を行い, 術前細胞診の意義を検討した.方法:LEGH11例, MDA2例の13例の術前細胞診標本および摘出病理標本を用いて細胞学的・組織学的に検討した.結果: 細胞質の黄色調粘液は, LEGHとMDAとの鑑別には有用ではないが, 胃型形質発現の病変を検出するのには有用と考える. LEGHの細胞診では細胞集塊は平面的な出現形態を示し, 核の重積性はなく, 核小体は目立たない. MDAでは細胞集塊は立体感があり, 核の重積性, 核小体の大型化が認められる. 核内空胞(核内細胞質封入体: Intranuclear cytoplasmiac inclusion(INCI))の出現はLEGHに特徴的な所見である可能性がある. LEGHに腺癌を合併する症例では, LEGH特有の細胞に混じって腺癌が示唆される細胞が認められる場合がある.結論:細胞診検査はLEGHとMDAの検出に有用であり, また両者の鑑別にもきわめて重要である.
著者
近藤 哲夫
出版者
山梨大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的はエピジェネティクス修飾により甲状腺癌細胞にTTF-1 を誘導する有効的な方法の確立、TTF-1 による甲状腺機能分子の再誘導の検証、TTF-1の腫瘍抑制効の解明である。結果として一過性発現、安定発現細胞株ともにTTF-1の強制発現のみによっては甲状腺機能分子の発現や甲状腺ホルモン産生を誘導することはできなかった。一方でTTF-1発現誘導により甲状腺癌細胞の増殖抑制がおこることが確認された。cDNAマイクロアレイによってTTF-1発現誘導により有意に増加する遺伝子群と減少する遺伝子群が確認された。 本研究の成果によりTTF-1には腫瘍抑制的機能が存在することが示唆された。