著者
小林 真琴 小林 秀子 石川 みどり 横山 徹爾
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.73, no.5, pp.159-169, 2015 (Released:2015-12-26)
参考文献数
33
被引用文献数
1

【目的】長野県を例に,食事等生活習慣及び高血圧等のリスク要因と脳血管疾患死亡の地域差との関連について,保健医療資源及び社会経済的因子の影響を考慮して明らかにし,併せて効率的かつ効果的な対策の方向性を検討する。【方法】県内11保健所管轄区域を単位として,目的変数を脳血管疾患標準化死亡比の経験ベイズ推定値(EBSMR),説明変数を食事等生活習慣及び高血圧等のリスク要因,保健医療資源,社会経済的因子としてステップワイズ法による重回帰分析で検討した。生活習慣等のリスク要因は健康日本21(第二次)の循環器疾患分野の指標とし,県民健康・栄養調査データから保健所管轄区域ごとに年齢調整割合または年齢調整平均を計算して分析に用いた。特定健診受診率は全保険者分データで県全体を基準とした標準化比,保健医療資源は医師,一般病床,一般診療所,救急医療施設,就業保健師,行政管理栄養士・栄養士,食生活改善推進員,保健補導員等,社会経済的因子は人口,転出入の差,高齢者世帯,出生,婚姻,離婚,課税対象所得,完全失業者,第一次・二次・三次産業就業者とした。【結果】男性は特定健診受診率が低いほど,また,一般病床数が低いほど,女性は食塩摂取量が多いほど,EBSMRが有意に高い関連が認められた。【結論】長野県の脳血管疾患予防のための取組として,男性では保健医療の介入,女性では食生活の改善の重要性が示唆された。
著者
石川 みどり 横山 徹爾 村山 伸子
出版者
The Japanese Society of Nutrition and Dietetics
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.71, no.5, pp.290-297, 2013
被引用文献数
9

【目的】地理的要因における食物入手可能性(自宅から店までの距離,店舗の種類)と食物摂取状況との関連について先行研究から知見をえることを目的とした。<br>【方法】データベースPubMedを用い,検索式は("food" [MeSH] OR "nutrient")AND("environment" [MeSH] OR "availability")AND("diet" [MeSH] OR "intake")とした。検索された論文238編のうち,ヒト以外を対象としたもの,開発途上国の問題を扱ったもの,栄養生理学研究等の目的とは異なるものを除外し,残りの論文48編の全文を精読した結果,12編を採用した。<br>【結果】地理的要因の距離について,7編では,徒歩で自宅から店まで行くことができる半径 800 m(0.5マイル)を基準としていた。食物摂取状況との関連がみられた店舗の種類には,スーパーマーケット(5編),ファストフード店(5編),フードアウトレット店(2編),コンビニエンスストア(2編)等があった。そのうち,スーパーマーケットは野菜・果物摂取量との正の関連,ファストフード店,コンビニエンスストアはアイスクリーム,塩味のスナック,肉類,菓子類,砂糖入り飲料摂取量との正の関連,野菜・果物,低脂肪食品摂取量との負の関連を報告していた。<br>【結論】地理的要因における食物入手可能性と食物摂取状況との関連があることが示唆された。
著者
大坪 浩一 山岡 和枝 横山 徹爾 高橋 邦彦 丹後 俊郎
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 = JAPANESE JOURNAL OF PUBLIC HEALTH (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.347-356, 2004-05-15
被引用文献数
5

<b>目的</b> 医療資源の適正配分・適正配置を考えるうえで,地域における医療資源の死亡への影響を評価することは重要である。死亡指標として用いられることの多い標準化死亡比(SMR)は,市区町村単位のような小地域レベルでの比較に用いる際には人口サイズの相違の影響を受けやすく,わずかな死亡数の変化が見かけ上の指標を大きく変化させるという問題がある。そこで,本研究では,「経験ベイズ推定に基づく SMR」(EBSMR)に基づき医療資源の死亡に及ぼす影響について,社会経済要因の影響を調整したうえで評価することを目的とした。<br/><b>方法</b> 本研究では医療資源が適正配置されているかという点に着目し,これまでの研究で主な医療資源の指標とされてきた医師数,一般診療所数,一般病床数(いずれも対人口)に加え,脳血管疾患や心疾患死亡に影響すると考えられた救急医療体制参加施設数などを取り上げた。死亡指標は,平成 5 年~平成 9 年の福岡県における全死因および脳血管疾患,心疾患,悪性新生物の 3 大疾患,および急性心筋梗塞の性別の EBSMR を取り上げた。社会経済要因として,出生数,転入・転出者数,高齢者世帯数,婚姻件数,離婚件数,課税対象所得,完全失業者,第一次産業就業者,第二次産業就業者数,第三次産業就業者数,刑法犯認知件数を取り上げた。EBSMR と医療資源変数および社会経済変数との関連性を,正規分布を呈しない変数については対数変換後,重回帰分析により検討した。<br/><b>結果</b> 重回帰分析より得られた主要な結果として,人口対医師数(男性急性心筋梗塞 <i>P</i>=0.047,女性急性心筋梗塞 <i>P</i>=0.012),人口対救急医療体制参加施設数(女性急性心筋梗塞 <i>P</i>=0.001),人口対一般病床数(女性全死因 <i>P</i><0.001,女性脳血管疾患 <i>P</i>=0.007,女性心疾患 <i>P</i><0.001,女性悪性新生物 <i>P</i>=0.049)では,それが多いほど EBSMR が低くなる傾向が認められた。逆に,人口対一般診療所数では,それが高いほど死亡が高まる傾向を示していた(女性全死因 <i>P</i>=0.025,女性急性心筋梗塞 <i>P</i>=0.006)。<br/><b>結論</b> 以上より,福岡県を事例として,市区町村レベルでの医療資源の死亡に及ぼす影響を EBSMR で評価したところ,医師数の充実と男女の急性心筋梗塞死亡の低下,一般病床数の充実と女性の全死因・女性の脳血管疾患・女性の心疾患・女性の悪性新生物死亡の低下,救急医療体制参加施設数の充実と女性の急性心筋梗塞死亡の低下の関連が認められ,医師数および入院や救急に関する医療資源を適正配分することの重要性が示唆された。
著者
竹田 飛鳥 福田 英輝 北原 俊彦 横山 徹爾
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.183-190, 2022-03-15 (Released:2022-03-23)
参考文献数
23

目的 新型コロナウイルスの感染拡大のため,2020年4月7日に政府から緊急事態宣言が発令された。同月には厚生労働省から歯科医師の判断により緊急性がない歯科診療は延期等の留意点が周知された。本研究では歯科診療所を受診した患者を対象に,2020年4月に発令された緊急事態宣言時における歯科受療行動を把握し,その関連する要因を明らかにすることを目的とした。方法 本研究の対象者は,埼玉県内の歯科診療所28施設を2020年9月に来院した患者1,335人のうち,有効回答があった1,227人とした。歯科受診の項目に回答があり,かつ緊急事態宣言時に歯科受診の意向があった者(611人)のなかで,受診を控えた者を「未受診群」(214人),受診した者を「受診群」(397人)として分析を行った。結果 多変量ロジスティック回帰分析による「受診群」に対する「未受診群」のオッズ比は,女性で1.69(95%Cl: 1.12, 2.55),65歳未満で2.91(95%Cl: 1.88, 4.49),月1回未満の受診で1.71(95%Cl: 1.04, 2.82),緊急事態宣言中の予約なしで7.12(95%Cl: 4.56, 11.11)であり,いずれも有意に大きかった。結論 緊急事態宣言時に歯科受診の意向がありながらも受診を控えた「未受診群」の割合は35%であった。「未受診群」と関連があった項目は,女性,65歳未満の者,受診頻度月1回未満の者,および予約がない者であった。
著者
大曽 基宣 津下 一代 近藤 尚己 田淵 貴大 相田 潤 横山 徹爾 遠又 靖丈 辻 一郎
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.15-25, 2020-01-15 (Released:2020-02-04)
参考文献数
33

目的 健康日本21(第二次)の目標を達成するため,各自治体は健康課題を適切に評価し,保健事業の改善につなげることを求められている。本研究は,健康日本21(第二次)で重視されるポピュレーションアプローチに着目して,市町村における健康増進事業の取組状況,保健事業の企画立案・実施・評価の現状および課題について明らかにし,さらなる推進に向けたあり方を検討することを目的とした。方法 市町村の健康増進担当課(衛生部門)が担当する健康増進・保健事業について書面調査を実施した。健康増進事業について類型別,分野別に実施の有無を尋ねた.重点的に取り組んでいる保健事業における企画立案・実施・評価のプロセスについて自記式調査票に回答してもらい,さらに参考資料やホームページの閲覧などにより情報を収集した。6府県(宮城県,埼玉県,静岡県,愛知県,大阪府,和歌山県)の全260市町村に調査票を配布,238市町村(回収率91.5%)から回答を得た。結果 市町村の健康増進事業は,栄養・食生活,身体活動,歯・口腔,生活習慣病予防,健診受診率向上などの事業に取り組む市町村の割合が高かった。その中で重点的に取り組んでいる保健事業として一般住民を対象とした啓発型事業を挙げた市町村は85.2%,うちインセンティブを考慮した事業は27.4%,保健指導・教室型事業は14.8%であった。全体では,事業計画時に活用した資料として「すでに実施している他市町村の資料」をあげる市町村の割合が52.1%と半数を占め,インセンティブを考慮した事業においては,89.1%であった。事業計画時に健康格差を意識したと回答した市町村の割合は約7割であったが,経済状況,生活環境,職業の種別における格差については約9割の市町村が考慮していないと回答した。事業評価として参加者数を評価指標にあげた市町村は87.3%であったのに対し,カバー率,健康状態の前後評価は約3割にとどまった。結論 市町村における健康増進・保健事業は,全自治体において活発に取り組まれているものの,PDCAサイクルの観点からは改善の余地があると考えられた。国・都道府県は,先進事例の紹介,事業の根拠や実行可能な運営プロセス,評価指標の提示など,PDCAサイクルを実践するための支援を行うことが期待される。
著者
松下 由実 横山 徹爾
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.77, no.2, pp.39-45, 2019-04-01 (Released:2019-05-17)
参考文献数
28

【目的】IHD(虚血性心疾患)関連の心電図異常を見出す能力が高い,侵襲性のない新しい体格指数を作成することを目的とした。【方法】2004~2010年に人間ドックでCT検査を受けた12,628名を対象とした。IHD関連の心電図異常(心電図異常もしくは心筋梗塞現在治療中)を従属変数,身長,体重,ウエスト周囲長CT(WCCT)を独立変数にした回帰分析に基づき,新たな体格指数(BSI)を作成した。ROC曲線を描き,IHD関連の心電図異常を,BSI,内臓脂肪面積(VFA),内臓脂肪面積と皮下脂肪面積の和,WCCT,BMIで比較した。【結果】男性においてIHD関連の心電図異常を見出すためのBSIのROCの曲線下面積(AUC)は,VFA,WCCT,BMIに比べて有意に大きくなっていた(p<0.01)。女性においてAUCは,WCCTとBMIより有意に大きくなっており(p<0.05),VFAとはほぼ同等であった。IHD関連の心電図異常を感度80%で見出すことのできるBSIは,男性で-1.2,女性で-2.4であった。【考察】BSIは,IHD関連の心電図異常を見出す能力は,男性ではVFAより大きく,女性ではほぼ同等であることから,医療現場で使う指標としては有用である可能性が示唆された。今後は,IHDリスク評価について縦断的にみていく必要があると考えられる。
著者
杉田 由加里 水野 智子 横山 徹爾
出版者
千葉大学大学院看護学研究科
雑誌
千葉大学大学院看護学研究科紀要 (ISSN:21859698)
巻号頁・発行日
no.38, pp.39-46, 2016-03

自治体にて生活習慣病予防の保健事業を展開する上で,特定健康診査・特定保健指導等のデータ及びレセプト等を分析し課題を抽出し,保健事業を立案,実施,評価し,次年度の事業計画に役立てるといった,PDCAサイクルを確実に回すことが求められている. 本研究の目的は保健事業を展開する上で,データを分析・活用している取組みの基盤となっている体制づくりに関する条件を明らかにすることである. 研究参加者は7市にて,保健事業の実施に1年以上直接関わっており,保健事業の実施に関する体制づくりについて語れる職員(保健師,管理栄養士)1名以上とし,調査は自治体ごとの半構成的インタビューとした. 筆頭著者の所属大学院研究科の倫理審査委員会の承認を受け,文書と口頭により研究の趣旨,匿名性の保持と途中棄権も可能であること等を説明し同意を得た.体制づくりにおける所属内外の条件として以下の点が重要と考えられた.1. 予算の獲得において関係者からの合意を得やすくするために,分析したデータを説明用の資料に活用する.2. データを分析することと,分析したデータを事業へ活用できる体制となるよう,担当部署の連携を意識して体制を構築していく.3. 医療機関との継続的な体制を維持していけるよう,制度開始時だけでなく毎年,医療機関の医師および事務職にも説明し合意形成を図っていく.4. 業務を委託している場合,委託機関の従事者のオーナーシップを引き出せるように,分析したデータの提示により情報の共有を図る. When developing, in districts, health services that are designed to prevent lifestyle-related diseases, it is essential to analyze data and receipts related to specific health checkups and specific health guidance as well as identify problems. It is also necessary to ensure the continuous operation of the plan-do-check-act. This study aimed to clarify the requirements for developing a system that can serve as a foundation for data analysis/utilization initiatives when operating health services PDCA cycle in districts. This study was conducted in seven cities that are implementing the system. In each of these cities, we surveyed 17 different public health nurses and registered dieticians. Semi-structured interviews were carried out in each cities. The study was approved by the ethics board of the institution to which the first author belongs to. The results suggested that the following are important internal and external requirements forsystem building.1 Using the analyzed data when preparing briefing documents to make it easier to gain budget approval from the government2 Building the system in cooperation with relevant sections/departments, so that it enables analysis of the data and their utilization in health services3 Maintaining a sustainable system of collaboration with medical institutions, obtaining agreement by providing explanations to administrative staff and doctors from the relevant institutions not only when the system is launched but every year4 In the case that administrative work is outsourced, we should share information by presenting the analyzed data in order to encourage a sense of ownership among staff working for the outsourcing organizations