著者
中村 孝裕 丸山 絢 三﨑 貴子 岡部 信彦 眞明 圭太 橋爪 真弘 村上 義孝 西脇 祐司
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.11, pp.666-676, 2018-11-15 (Released:2018-12-05)
参考文献数
19

目的 川崎市では感染症発生動向調査に加えて2014年3月からインフルエンザに対するリアルタイムサーベイランス(以下,川崎市リアルタイムサーベイランス)を開始した。今後の基礎資料として川崎市リアルタイムサーベイランスの特徴と両サーベイランスシステムの相違比較および週単位感染症報告数の相関について検討した。方法 2014年3月3日(第10週)から2017年10月1日(第39週)までの全187週間のインフルエンザデータを川崎市感染症情報発信システムから収集した。感染症発生動向調査に対し,川崎市リアルタイムサーベイランスは市内1,032施設中691施設(67.0%)登録施設(2017年9月時点)の随時入力であり報告医療機関数が変動する。まずサーベイランスシステムの比較を行った。リアルタイムサーベイランスについては月別,曜日別の医療機関数および日別・ウイルス型別の報告数も比較検討した。疫学週に基づく週別報告数に換算し医療機関数と報告状況を比較した。両サーベイランスの相関は,ピアソン相関係数と95%信頼区間を算出するとともに診療条件が異なる最終週と第1週を削除後の相関係数と95%信頼区間も算出し比較した。結果 感染症発生動向調査の報告医療機関数が平均56.0(SD ±4.2)施設であるのに対し,リアルタイムサーベイランスでは,日,月,曜日,さらにウイルス型ごとに変動がみられた。週別報告数は172週(92.0%)で,リアルタイムサーベイランスの方が感染症発生動向調査を上回った。同一週での報告数の相関分析では,相関係数は0.975(95%CI; 0.967-0.981)であり,最終週と第1週を除外後の相関係数は0.989(95%CI; 0.986-0.992)であった。結論 両サーベイランスにはシステム上相違があるものの,報告数に強い相関を認め,リアルタイムサーベイランスデータの信頼性が確認できた。3シーズンではいずれもA型の流行がB型に先行したが,報告数の増加時期やピークは異なった。リアルタイムサーベイランスは報告がリアルタイムかつウイルスの型別が判明していることから,早期検知や詳細な分析疫学的検討にも利用できると考えられた。報告医療機関数の変動が及ぼす影響についての検討は今後の課題である。これらを理解したうえで両サーベイランスを相補的に利用することが有用であると考えられた。
著者
月野木 ルミ 村上 義孝 早川 岳人 橋本 修二
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.17-25, 2016 (Released:2016-01-29)
参考文献数
54
被引用文献数
2

目的 震災による疾患発生・死亡への影響を検討した疫学研究(保健医療統計調査を含む)を対象に系統的な文献レビューを行い,疾患別に震災からの経過時間とその影響の関連を検討した。方法 文献検索には MEDLINE を用い,発行年が1990年 1 月 1 日から2012年10月30日,政府統計もしくは500人程度以上の集団,を検索条件として実行した。文献レビューでは重複文献,少数例の調査,動物実験,実験的研究など不適切な文献を除外した。最終的に抽出した文献から,震災からの経過時間と震災前後の疾患発生・死亡の増減に焦点をあてチャート図にまとめた。なお経過時間については災害サイクルに基づき,発生~3 日,4 日~3 週間,1 か月~5 か月,6 か月から 1 年未満,1 年,2 年以降とした。疾患分類は精神障害,自殺,感染症,外傷,循環器疾患とした。結果 文献検討の結果54件が抽出された。精神障害では,震災直後からのうつ症状の有訴率,心的外傷後ストレス障害などの精神的ストレス評価指標は高い得点を示す割合が高く,震災後 6 か月以降緩やかに減少傾向を示したものの,震災 3 年後でも依然高い得点を維持する傾向がみられた。自殺では震災後 1,2 年間は減少傾向を示し,その特性は中高年男性のみ減少傾向,男性で減少傾向を示す一方で,女性では増加傾向を示すなど,性・年齢・被災地域での違いで認められた。感染症では震災の影響は震災直後から数か月間と限定的であり,理由として衛生状態の悪化などが示されていた。外傷では震災発生時から 2,3 日間死亡および入院が激増し,それ以降は激減した。循環器疾患では,急性心筋梗塞は発症・死亡数のピークが震災後24時間~数日で夜間発症例が多く,3~6 か月間から最長 1 年間は継続し,震災規模や被災状況により増加する期間に違いが認められた。脳卒中は急性心筋梗塞と同様のパターンを示し70~80歳での発症・死亡が多かった。その他,突然死,たこつぼ型心筋症の報告があり,震災直後から 1 週間~1 か月程度は平時に比べ増加する傾向にあった。結論 疾患により震災発生からの経過時間と疾患発生のパターンに大きな違いがあり,震災直後の疾病の増加抑制のためには,疾患に応じた介入タイミングがあることが示された。
著者
橋本 修二 川戸 美由紀 山田 宏哉 鈴木 茂孝 三重野 牧子 遠又 靖丈 村上 義孝
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.62, no.10, pp.617-623, 2015 (Released:2015-11-25)
参考文献数
11

目的 国民生活基礎調査の世帯数と患者調査の推計患者数について,東日本大震災によって調査対象から除外された地域の補完を行った。方法 国民生活基礎調査において,東日本大震災によって調査対象から除外された2011年の岩手県・宮城県・福島県と2012年の福島県の世帯数について,前後の大規模調査年の情報を用いて線型内挿法で補完した。2011年における宮城県と福島県の推計患者数について,同年の患者調査(宮城県の石巻・気仙沼医療圏と福島県が調査対象から除外)と2012年の福島県患者調査,2011年と2012年の医療施設調査と病院報告を用いて補完した。結果 全国の世帯数(各年 6 月時点)における補完値は2011年で48,732千世帯,2012年で48,874千世帯であった。世帯構造別の世帯数において,2011年と2012年の調査値が前後の年次よりも大きく落ち込んでいたのに対して,両年の補完値には落ち込みがなかった。2011年10月の推計患者数の補完値は,全国で入院1,365.4千人と外来7,383.9千人,施設所在地が宮城県で入院21.2千人と外来130.0千人,施設所在地が福島県で入院22.0千人と外来108.8千人であった。調査値に対する補完値の比を性・年齢階級と傷病分類ごとにみると,全国の推計患者数ではほぼ1.02倍であったが,患者住所地が宮城県と福島県の推計患者数ではきわめて大きかった。結論 国民生活基礎調査の世帯数と患者調査の推計患者数の補完値を示した。年次推移の観察にあたって,補完の仮定を十分に考慮することが重要であろう。
著者
遠又 靖丈 辻 一郎 杉山 賢明 橋本 修二 川戸 美由紀 山田 宏哉 世古 留美 村上 義孝 早川 岳人 林 正幸 加藤 昌弘 野田 龍也 尾島 俊之
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.61, no.11, pp.679-685, 2014 (Released:2014-12-11)
参考文献数
10

目的 介護保険の統計資料を用いた研究において,健康日本21(第二次)の目標である「平均寿命の増加分を上回る健康寿命の増加」は,2011年から要介護 2 以上の認定者数が 1 年ごとに 1%ずつ徐々に低下した場合(健康寿命延伸シナリオ)に2020年に達成されうることが報告されている。本研究は,この健康寿命延伸シナリオを達成した場合の介護費・医療費の節減額を推定した。方法 要介護認定区分別の介護費・医療費(人口一人あたりの平均)の基礎資料として,介護給付費実態調査と宮城県大崎市の調査データを用いた。2011~2020年の自然経過(現状シナリオ)の要介護認定者数は,将来の人口構成が「日本の将来推計人口」のとおりで,年齢階級別の要介護認定者(要介護 2 以上で区分別)の出現割合が2010年と同じである場合とし推定した。次に,健康寿命延伸シナリオ達成による要介護認定者の減少人数を算出した上で,介護費・医療費の推定節減額を算出した。結果 各年次の要介護 2 以上の減少分がすべて「認定なし」に移行すると仮定した場合,2011~2020年の累計で 5 兆2,914億円が節減されると推定された。さらに要介護 2 以上の減少分がすべて「要介護 1」に移行すると仮定した場合,同期間の累計で 2 兆4,914億円が節減されると推定された。結論 健康日本21(第二次)の達成によって約 2 兆 5 千億円~5 兆 3 千億円の介護費・医療費の節減という,健康づくり政策の投資効果の目安が明らかとなった。
著者
今村 晴彦 村上 義孝 岡村 智教 西脇 祐司
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.25-35, 2017 (Released:2017-02-21)
参考文献数
27

目的 地域住民を対象とした,健康づくりに関わる地区組織活動の経験の有無が,その後の医療費に影響を及ぼすかを明らかにするため,長野県須坂市(2016年3月の人口は51,637人)の保健補導員活動(1958年に発足し,2年任期で毎期300人近い女性が担当する地区組織活動)を対象に,その経験の有無と国民健康保険医療費(以下,医療費)との関連を検討した。方法 須坂市において,2014年2月に,要介護度3以下の65歳以上の全住民を対象とした質問票調査を実施し,匿名化IDを用いて回答データと各種行政データを突合した。質問票には,保健補導員経験の有無に加え,経験年代,役職経験の有無,活動満足度に関する質問を含めた。本研究の解析対象者は,上記の女性回答者5,958人のなかの国民健康保険被保険者(74歳以下)2,304人とし,2013年度の1年間の入院および外来医療費を使用,検討した。分析として医療費発生の有無をアウトカムとした修正ポアソン回帰分析を実施した。また医療費発生者を対象とし,対数変換した医療費をアウトカムとした重回帰分析もあわせて実施した。分析の調整変数は年齢,婚姻状況,教育歴,同居人数,等価所得,飲酒習慣,喫煙習慣,健康的な食生活の心がけ,歩行習慣とした。結果 解析対象者2,304人のうち,保健補導員を経験した者は1,274人(55.3%)であった。解析の結果,外来医療費ありの割合は,保健補導員経験者が未経験者と比較して1.04倍(多変量調整済みリスク比(95%信頼区間;1.02-1.07))と高い一方で,入院医療費ありの割合は,0.74倍(同;0.56-0.98)と低かった。また医療費ありを対象者とした重回帰分析の結果,外来と入院それぞれについて,保健補導員経験と医療費に負の関連がみられた。調整済み幾何平均医療費は,外来では経験ありで14.1万円,なしで15.1万円と経験者の方が7%低く,入院においても経験ありで41.8万円,なしでは54.0万円と経験者の方が23%低かった。以上の関連は経験年代が60歳以上,役職経験者,活動の満足度が高い者で,概して強くなる傾向がみられた。結論 保健補導員経験者は未経験者と比較して,外来医療費の発生者割合が高い一方で,入院医療費は発生者割合および発生した医療費ともに低い結果が示された。このことは,保健補導員としての経験が,特に入院医療費と関連している可能性を示唆しており,地区組織活動の健康への波及効果がうかがえた。
著者
林 秀樹 内貴 乃生 宮本 証 川口 民郎 杉本 喜久 伊藤 誠 Joel Q. Xue 村上 義孝 堀江 稔
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.368-376, 2015 (Released:2015-07-27)
参考文献数
10

近年,早期再分極が致死性不整脈発生の新たな心電図所見として注目されている.しかし,早期再分極のすべてが致死性不整脈の原因になっているわけではなく,良性と悪性が存在する.両者の鑑別は極めて重要である.われわれは,病院を受診した症例から構成された心電図データベースを用いて,様々なコホートにおいて早期再分極と致死性不整脈の関係を調べた.早期再分極は,思春期に頻度が高いことが認められ,Brugada症候群・QT短縮症候群・デバイス植込みの症例において,早期再分極と致死性不整脈発生の関係が認められた.今後,早期再分極と治療効果の関連を検討する必要があると考えられた.
著者
上島 弘嗣 藤吉 朗 宮川 尚子 喜多 義邦 大久保 孝義 門田 文 久松 隆史 高嶋 直敬 三浦 克之 村上 義孝
出版者
滋賀医科大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-04-01

(1)縦断解析:インスリン抵抗性と冠動脈硬化進展、歩数とメタボリックシンドローム発症との関連、(2)国際共同研究:米国住民コホートMESAとの冠動脈硬化日米比較、ピッツバーグ大学等との共同研究にてオメガ‐3脂肪酸と冠動脈石灰化発症との関連等、(3)遺伝子、メタボローム、新興バイオマーカー:アルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子多型とLDL-コレステロール、リポプロティン関連ホスフォリパーゼA2とその遺伝子多型と潜在性動脈硬化との関連等を明らかにした。尿中メタボローム・酸化変性LDLも測定済みであり引き続き有用なバイオマーカーの探求を続ける。
著者
村上 義孝 西脇 祐司 金津 真一 大庭 真梨 渡辺 彰
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.20-24, 2018 (Released:2018-02-10)
参考文献数
17

目的 23価の肺炎球菌ポリサッカライドワクチン(以下PPSV23)は現在高齢者に定期接種されているが,事業の運用は地方自治体に一任されており,被接種者への助成額や啓発活動等は各自治体によって様々である。今回,65歳高齢者の接種率および各自治体の接種啓発活動の実態について全国調査を実施したので報告する。方法 2016年6月から8月に全国地方自治体1,741を対象とし,自記式調査票による郵送およびウェブベースの調査を実施した。調査項目には各自治体のPPSV23接種者数,当該自治体の65歳対象数,ワクチン接種に対する個別通知の有無,回数,実施月,PPSV23の接種啓発活動,接種者の自己負担額を含めた。調査票の記入は地方自治体の保健担当部局の担当者が調査票に記入する形で調査を実施した。結果 本調査の有効回答率は58.0%であった。PPSV23接種率の全国平均値は40.8%,自己負担額の中央値は3,000円であり,自治体間のバラツキが見られた。個別通知を実施する市町村は全体の85%で,多くは4月に1回実施していた。接種啓発活動として自治体の広報紙やホームページが多い傾向がみられた。結論 65歳高齢者を対象にPPSV23接種率,地方自治体の同ワクチン接種啓発活動に関する全国調査を実施した結果,高齢者対象とした同ワクチン接種および,その啓発活動の全国的な傾向が明らかになった。
著者
村上 義孝
出版者
滋賀医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

喫煙状況別の平均余命・障害なし平均余命を日本の代表的なコホートデータ(NIPPON DATA)から算出、比較した。簡易生命表法(Chiangの方法)、Sullivan 法を用い、喫煙状況別に推定した結果、男性の60歳平均余命は非喫煙群で23.8年、喫煙経験群(現在喫煙+禁煙)で21.0年と2.8年の差が、60歳障害なし平均余命では非喫煙群21.0年、喫煙経験群では19.7年で1.3年の差がみられた。この差は他の先進諸国より小さく、喫煙の年次変化、間接喫煙、肺がん死亡率の高さなどが理由として考えられた。