- 著者
-
里田 隆博
- 出版者
- 広島大学
- 雑誌
- 奨励研究(A)
- 巻号頁・発行日
- 1995
ニホンザルを用い,咽頭を支配する運動神経細胞および神経終末について調べた.実験にはニホンザル15頭を用い,舌咽神経を剖出し,その末梢枝(舌枝,咽頭枝)にHRPを注入した.また茎突咽頭筋を剖出しHRPを注入した.48時間生存の後,潅流固定し,脳幹部と末梢の神経節(舌咽神経上神経節,下神経節,迷走神経上神経節,下神経節,交感神経上頚神経節,中頚神経節,下頚神経節)の60μmの凍結連続切片を作製しHRP検出反応を施した.舌咽神経の末梢枝は,頚動脈洞と頚動脈小体を支配する頚動脈洞枝,舌根部を支配する舌枝,咽頭収縮筋を支配する咽頭枝より構成されていた.茎突咽頭筋の支配神経は舌枝より分岐しており,大変細くその枝にHRPを注入するのは困難であった.咽頭枝と頚動脈洞枝は迷走神経とも連絡があり,又,これらの末梢枝は交感神経上頚神経節とも連絡があった.舌枝注入例では,孤束核に多数の標識終末が見られ,また一部の例においては三叉神経脊髄路核の中間亜核の背側部に標識終末が見られた.標識細胞は下唾液核に出現した.神経節は舌咽神経上神経節,下神経節に標識細胞が見られ,交感神経上頚神経節にも標識細胞が見られた.一方,咽頭枝注入例では,脳幹内には,標識終末は見られず,標識細胞が疑核の顔面神経後核と細胞緻密部に出力した.神経節は少数の標識細胞が下咽神経下神経節,迷走神経上神経節,交感神経上頚神経節に出現したのみであった.又,茎突咽頭筋の支配神経細胞は疑核の顔面神経後核にのみ出現し,細胞緻密部には出現しなかった.以上の結果より舌枝は主として求心性の要素よりなり,咽頭枝は主として遠心性の要素よりなるが,少数の求心性要素も含んでいるということが分かった.又,茎突咽頭筋の支配運動神経細胞は疑核の顔面神経後核にのみ存在することが分かった.